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17話

 街を出て最初の夜。当たり前だけど、馬車も常に進み続ける訳じゃないから夜は休息も兼ねて野宿をする。冒険者の私達は、用意された夕食の後で見張りをしなきゃいけないし、寧ろ一番緊張する時間だけど。


「見張りは4時間で交代しようと思うが、アリスは恐らく見張りをしたことはないだろう?」

「えっと………そう、ですね」

「ならば最初は俺とアリスで見張りだ。その後ルインと交代しよう」

「分かりました」


 エルクさんの提案は、気遣ってくれたんだとすぐに分かった。たった数時間ではあるけど、私がアリアさんとルインさんを苦手としているのはバレているらしい。

 ルインさんも異論はないのか無言で頷く。そうして、初めての見張りが野宿が始まる。焚き火の回りに腰掛け、アリアさん達がテントに入っていったのを見て、エルクさんは苦笑を浮かべて話し始めた。


「今日はすまないね。驚かせてしまっただろう」

「あ、いえ………私が未熟なだけですから」

「ふむ………ねぇアリス。君は何故冒険者になったんだい?」

「…………どうしてですか?」

「なに、ただの世間話さ。旅と言うのは良い経験になると同時に危険が伴うものだろう?だから、旅をする人は皆何かしら理由があるものでね。短い間でも、道を共にする相手にはよく聞いているんだ」

「私が冒険者になった理由は………」


 そう言えば、最初は生きるためにこの仕事を選んだんだっけ。でも、今は………私は隣に座っていたルナを抱きかかえて膝に乗せると、彼女の頭をそっと撫でる。


「最初は、ただそれしかお仕事が無いと思って。ただそれだけだったんです。………でも、今は世界中を旅して、色んな世界を見て………その………自分を、変えたいなって」

「ふむ?自分を変える?」

「はい………えっと、私、その………人見知りというか、人と話すのが苦手で………そんな自分が嫌いで、変わりたいなって思ったんです」

「そうか………なら、今回はその第一歩という訳だ」

「はい。………だから、本当ならアリアさん達とも仲良く話せるように頑張りたかったんですけど………その、逃げちゃいまして」


 頬を掻きながらそう告白する。言うつもりは無かったけれど、何となくエルクさんには話してもいいような気がした。そういう雰囲気を纏っていると言うのだろうか。私がこの世界で会った人の中でも、自然に話しやすい人だと思った。

 エルクさんは小さな笑みを浮かべ、焚火に乾燥した枝を投げ入れる。


「はは、君が見張りに行った時だろう?あの時の表情、とても気まずそうだった」

「ご、ごめんなさい………」

「仕方ないさ。彼女達は普通の人でも中々親しみにくい性格をしているから。それでも、君は嫌わずに歩み寄ろうとする意志があるだけでも、俺は凄い事だと思うよ」


 どこか遠くを見つめるように火を眺めるエルクさんの笑みは、少し寂しそうにも見える。そんな彼を見て、私は自然に口が開いていた。


「…………エルクさんは、旅をする理由があったんですか?」

「ん?あぁ、君だけ話すのは不公平だね。と言っても、単純な話だ。俺は元々小さな村に生まれてね。単に外への憧れがあったんだ。けど、旅の中で色んな出会いや発見を経験していくと、いつの間にか旅そのものが好きになっていた。それだけの事さ」

「旅が好きに………」

「まぁね。勿論最初は大変だろうけど、君の旅路に多くの良い出会いに恵まれる事を願うよ」

「………ありがとうございます」


 その為には、まずは人見知りとすぐに逃げちゃう所を治さなきゃなぁ………私はルナを撫でる手を止めて、枯れ枝を作って火に投げる。

 こうして力を使うことには慣れてきたけれど、まだ戦うのは怖いし、楽な道があるのなら逃げてしまいたいと言う気持ちもあった。

 でも………逃げたくないって思いもある。けれど、私は弱いから。このままじゃきっとまた衝動的に力を使ってしまうと思う。

 私はもう二度と、取り返しのつかない過ちをしたくはなかった。


「………ふふ。君も色々とあったようだ」

「えっ?あ、ご、ごめんなさい!変な顔しちゃってましたか………?」

「謝ることはないさ。初めての旅なんて、最初は不安だらけなものだから。俺も最初の頃は、何度か進むべき道が分からなくなったことがある」

「………そういう時はどうしてたんですか?」

「そうだなぁ………とにかく、進み続けるしかなかったよ。その道が正しいか分からずとも、いずれその道の先に何かがあると信じてね」


 そう語るエルクさんの言葉には、私の目から見ても色んな経験をしてきたんだろうなって悟るには十分な重みがあった。こうやって、先輩冒険者の話を聞けるだけでもありがたいんだろう。

 と、ここでふと気になったことがある。


「エルクさんのランクってどれくらいなんですか?」

「Cだよ。実はBランクへのランクアップ試験の提案も来ているんだが、後回しにしていてね」

「え、なんでですか?」

「単純に都合が付かないだけさ。Cランク冒険者のランクアップ試験は基本的に一人一人個別に行う訳ではなくてね。同じく昇級試験を受ける冒険者と同時に行う事が多いんだが、だから試験を受けると決めてから1ヶ月は掛かることも珍しくはない。一人旅ならば、ギルドのある街に滞在すると言うことも出来たが………」

「そうだったんですね………」


 当たり前だけど、一緒に行動する仲間がいたら自分の判断だけで行動する機会は減っちゃう。それ以上に得るものは多いだろうけど、やっぱりそういうところでも気の合う仲間を見つけるのは難しいんだろうなぁなんて思ったり。私は暫く2人きりだろうけど。


「君は今でこそDランクだと聞いているが、先ほどの活躍を見ればそのような器でない事は明らかだ。もしかすれば、俺より早くBランクに上がってしまうかもしれないね」

「そんな………私なんてまだまだです」

「前も言ったが、謙虚なのは良い事だけど、自身が無さ過ぎるのも良くない。それとも、俺の言葉では信じて貰えないだろうか」

「あ、ちが………ご、ごめんなさい!」

「あぁ、いや………意地悪な言い方をしてしまって済まないね。だが、それくらい君は自信を持っていいと本気で思っているという事だと思って欲しい」


 自信………自信かぁ………私も欲しいけど。今すぐにと言われても難しい。だからこそ、私は旅に出ると決めたんだけど。


「えと………その、ありがとうございます」


 それでも、エルクさんが私を認めてくれているというのは本当の事だろうから。それから、私達は交代の時間まで他愛のない話をして、夜を明かしていくのだった。










「アリス。起きなさい」

「ん………ルナ?」

「えぇ、おはよう。朝よ。まだ出発まで時間はあるけど、身支度もあるんだからそろそろ起きた方がいいわ」

「分かった………ふわぁ~………」


 テントの中で大きく伸びをする。その後で少し跳ねてしまっている髪を梳いて、出来るだけ手早く着替えを始める。替えの服は困らない程度に用意しているし、ライルさんにもらった服もあるけど………折角貰った物だし、ああいうのはゆっくりできる日に着たいかも。とりあえず、着替えを終えたらいつものローブを羽織って外に出る。

 そして、杖を取り出してテントへと向ける。


「戻って」


 私の一言で、テントはすぐさま畳まれてどこかへと消えてしまう。言うまでもなく私の魔法だけど、こんな事に使っちゃっていいのかなぁ………今更かな。


「おはよう。朝から随分と凄い魔法を見せてくれるじゃないか」

「あ、おはようございます。早いんですね」

「早起きが特技でね。君のような便利な魔法があれば、もう少し寝ていても余裕がありそうだが………朝食のスープを作っている所だが、食べるかい?」

「あ、えと………頂きます」


 エルクさんが座っていた焚き火の傍に向かう。起きているのはエルクさんと、見張りだったルインさん、そして馬に餌を与えている商人さんだった。

 私がエルクさんの隣に腰かけると、器にスープを入れて私に渡してくれた。


「ありがとうございます」

「どういたしまして。今回が初めての見張りだったのなら、まだ少し寝足りないだろう?出発したら、馬車の中で少し眠っていても大丈夫だよ」

「いえ………これから旅をするなら、そういうのにも慣れなきゃ駄目だと思いますから。今日も見張りをさせてください。お気遣いありがとうございます」

「そうか。ふっ、君はやはり良い冒険者になるだろうね」


 エルクさんの言葉に、私も小さく笑みを返す。すると、今までアリアさん以上に寡黙だったルインさんが口を開いた。


「………気の弱い奴だと思っていたが、その心意気は悪くない。お前の旅で、望むものを得られるといいな」

「えっ………あ、ありがとうございます」


 もしかして、オドオドしていた私の態度が気に喰わなかったのだろうか。初めてかけられた言葉は、言い方に反して気遣いがあるように思えた。そうして再び黙ってしまったルインさんと、相変わらず穏やかなエルクさんと話しながらスープを完食すると、アリアさんがテントから出てくる。


「おはよう、アリア。朝食は?」

「いらない。そろそろ出発でしょう?」

「そうか。では、片付けを始めようか」

「あ、だったら任せてください。エルクさん達はテントをお願いします」


 私は立ち上がって杖を取り出す。そして、周囲に向けて杖を振るう。すると、使った器や道具などが一つに纏められて行き、焚き火の跡も片付けられる。


「おぉ、相変わらず素晴らしい魔法だ。それでは、テントを片付けてこよう」


 エルクさんはそう言ってテントの方へと向かう。不安な事もあったけど、初めての旅で明かす1日は順調で。その事に、どことなく私は安堵していたのだった。

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