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16話

 街を出てからしばらく。私達を乗せた馬車は森の中を進んでいた。悪い人達じゃないのは分かっているけれど、それでも既に長い付き合いであろう3人の中にいるのは少し気まずくて、私は見張りという名目で馬車の屋根の上に座っていた。実際、森の中を進んでいるからモンスターや盗賊の襲撃があってもおかしくないし。


「リスク管理は出来るようになってきたわね。まぁ、居心地が悪かったのが理由の殆どでしょうけど」

「うっ………だ、だって………」

「別に責めてる訳じゃないわ。ただ、ずっとそうしていると損をするのは貴女なのは覚えておきなさい」

「うん………」

「まぁいいわ。取り敢えず、見張りと言って出て来たならちゃんと仕事はこなさないとね。やり方は覚えているでしょう?」


 ルナの言葉に私は頷いて、目を閉じて胸の前で手を重ねる。重ねた手の中で光が放たれると、広げた手の中には小さな魔法陣があった。それを空に掲げると、数十羽の光の鳥が魔法陣から現れて空へと飛翔し、散らばっていく。

 森に迷い込んだ街の住人を探す依頼を受けた時に、ルナから教わった魔法だった。常に詳しい視点が見えている訳じゃないけれど、何となく彼らの見ている景色が分かる。意識を集中すれば、その視点を完全に頭の中に映すことも出来た。


「手慣れたわね」

「うん。少しずつ、この力の使い方も分かって来たよ」

「ふふ、それは良かったわ」


 楽しげに笑うルナ。この世界で生きるためにずっと練習してきたんだから、それなりに魔法の使い方は慣れて来たと自分でも思ってる。一般的な魔法の使い方とは全く違うんだろうけど。

 と、魔法の存在を一般に当てはめれる程度にはこの世界に適応したんだなって自分では少し思っていた。そういえば………


「ルナ。試験で戦ったドラゴンが本物じゃないって、どういうこと?」

「あぁ、すっかり忘れていたわね。あれは死霊術の応用よ。魂は特定の形を持たないから、魔力を与えられれば自由な形として受肉することが出来るの。勿論、その力は本物に遠く及ばないけれど」

「そうなんだ………じゃあ、見た目だったってこと?」

「無遠慮に言えばそうなるわね。殆ど殺傷能力は無いと思うわ」


 つまり、あの試験では戦う覚悟を確認するための試験だった………って言う事なのかな?見習いとして入るにしては戦う相手がおかしいと思っていたけど………いや、それでもドラゴンを選ぶのはどうなんだろう。


「じゃあ、人間の方が良かった?」

「それはそれで嫌かも………」

「まぁ、あなたならドラゴン以上に戦いずらい相手でしょうね………それに、ドラゴンを選んだって言うのも、何か事情があるんだと思うわ」

「事情?」

「ユアも言っていたでしょう?魔法使いが減っているって。それに加えてあの試練が始まったのは数年前………何か関係があるんじゃないかしらね」

「魔法使いが減っている理由と試験の関係………」


 そこまでしなければ、魔法使いとしての活動を認められない理由。魔法使いが立場として厳しいのなら、今までの活動の中でそれを感じることはあったはずだけど、寧ろ魔法使いというのは多くの場所で重宝されているように感じた。なら………魔法使いに特別な危険がある以外に考えられない。


「魔法使いと敵対する組織がある………とか?」

「さぁね………でも、可能性としては高いんじゃないかしら。じゃなかったら、あの試験は不自然だもの。表沙汰に出来ない何かがあると思って良いと思うわ」

「………」


 そんなこと聞いたら、試験に合格したことが怖くなってくる。余計なトラブルに巻き込まれるんじゃないかな………?なんて思ったら、魔法使い連盟との関わりはなるべく断った方が良いんじゃ?と思っていると、ルナが呆れたように話し始める。


「関わりを断ったところで、あなたが魔法使いである事実は変わらないでしょう?それに、今の調子ならすぐにあなたの名が広まることは間違いないわ。そうなったら、連盟なんて関係なく接触があると思った方が良いでしょう」

「そうだよね………」


 連盟だけと敵対してるにしろ、登録してない魔法使いだったら無関係と割り切れるのなら事前の説明があるはず。少なくとも、ユアさんが不利な情報を隠して登録させるような人だとは思えなかった。

 魔法使いとしての身分や力を隠す………なんて、私が魔法に頼らずこの世界を生きていけるとは到底思えないし、それはルナにも言われた事だった。


「まずは冒険者としての実績を優先して上げるのは変わらないけれど、寧ろ連盟との関わりも密に取るべきだと思うわ。いざという時に頼れる先を作るのは、生きていく上で上手いやり方よ」

「分かった………」

「まぁ、なんにせよ降りかかる火の粉は振り払えばいいのよ。力を御すのは大事だけれど、敵対者に掛ける情けなんて弱さでしかないんだから」


 と、今までも何度か似たような事を話す。ただ、私にそれを肯定できるほどの勇気はまだ無かった。ルナの言うようにそれが弱さだとしても………人を手に掛ける事を想像しただけで恐ろしく感じてしまうから。

 ルナもこんな事を考えていることは分かっているだろうけど、それに対して何も言ってこなかった。呆れているか、はたまた分かっていたのか。どちらにせよ、人と戦う事が来なければいいけどな………なんて考えながら進んでいく森の景色を見ていた時だ。

 放っていた鳥が、こちらに接近するモンスターの群れを発見する。私は目を閉じてそちらの視点に跳び、群れの姿を確認した。


「オークの群れ………そこそこの規模かな?こっちに向かって来てる」

「どうするの?」

「………戦うしかないと思う。ルナ、いくよ」


 明らかにこっちを認識しているようだし、多分においを嗅ぎつけて来ているみたいだ。馬車ではやむを得ない緊急時を除けば、襲撃などがあった際に慌てて逃げることは危険だから不可能だと事前にルナから説明は受けていた。

 オークたちが来ている方向に振り向く。接近を分かっていて、悠長に構えているだけで良い訳が無い。飛ばしていた鳥たちとの魔力のつながりを完全に断って、立ち上がった私は目を閉じる。

 私の周囲に青い魔法陣が幾つか浮かび、魔力を収束させながら光を放つ。すると、馬車の中からその魔力を感じ取ったのかアリアさんが声を上げ、馬車が止まる。


「ちょっと!?急に洒落にならない魔力を感じるんだけど、一体何をしてるのよ!?」

「モンスターの群れが近付いて来てるので迎撃します!」

「アリス、前衛は必要かい?」

「多分大丈夫………いえ、私に任せてください」


 多分という保険を否定し、私は森の先を見る。オークの群れすらどうにもできないようじゃ、この力は私にはきっと不相応だから。相手は低ランクのモンスター。ゴブリンよりは手強いとは言え、その程度。1ヶ月を街で過ごした活動の中ではもっと強いモンスターと戦う事だってあった。


「そうかい。なら戦いは君に任せる。俺は馬車の守りに出よう」

「お願いします!」


 そう答えてエルクさんが馬車を出たと同時に、森からオークたちが一斉に飛び出して来る。それと同時に、私は魔法陣に収束させていた魔力を放った。膨大な魔力が込められた魔力弾が次々と発射され、着弾と共に爆発を伴う弾幕が作られた。

 一瞬にしてオークの群れたちは巻き起こる土煙に包まれ、その姿を確認できなくなる。けど、オークは元々ここまでの攻撃を受けて立っていられるような強靭なモンスターではない。弾幕を打ち止めた後も、土煙から現れるオークが一匹たりともいない事が、何よりの結果を表していた。


「………」


 一応、ちゃんとこの目でそれを確認するまでは気を抜かないけれど。土煙が晴れたそこには、オークが一匹残らず消滅して何も残っていなかった。何かを守る戦いは初めてだったから少し緊張したけれど、終わってみれば今までの依頼よりも寧ろ呆気ないくらいだった。

 そんなことを言えるのは、この力あってこそだけど。改めて、ルナが居なかったら私はどうなっていたんだろうと思う………ルナが居なかったら、元々この世界に来ることもなかったんだったね。

 一応、周囲の状況を把握する魔法を使って安全を確認した後に皆に声を掛ける。


「終わりました」

「………流石だね。噂に違わぬ魔法だよ」

「………ありがとうございます」


 御者をしている商人さんが感嘆の声を上げる。そういえば名前を聞いてなかったなぁと思いつつ、褒められたことに小さくお礼を言う。今までも何度かこうして称賛されたことはあるけど、やっぱり慣れないものだった。


「本当に俺の役目が無かったね。いやはや、頼もしい仲間がいてくれて心強いものだ」

「いえ、いざという時は頼りにしてます」

「はは………そうなることがあるとは思えないがね」


 エルクさんはオークの亡骸を見て苦笑する。実際、戦いになったらこの力を使ってどうにかならない相手なんていないだろう。けれど………


「その………人の相手は、したくないんです」

「………ふむ。なるほど。承知した。人間の相手は俺達で務めよう」

「お願いします」


 この力を人に振るうと言うのは、やはり考えられなかった。殺すつもりが無かったとして、もし何か間違えたら?モンスター達をこうして葬っていく度に、この力の矛先が人に向いてしまった時の事を考えて恐ろしくなっていた。

 そのおかげというべきか、モンスターを倒す事への抵抗は薄れてきたけれど。


「少し意外だね。新人とは聞いていたが、君の魔法はとてもじゃないがその辺にいる魔法使いとは比較にならない。人と対峙する覚悟もある物だと思っていたんだが」

「え、と………すみません」

「いや、すまない。馬鹿にしているつもりは無いんだ。ただ………そうだね。何というべきか………」

「歪、でしょ。言葉を選んでないではっきり言えばいいのよ」


 言葉に迷ったエルクさんを遮り、馬車の窓に頬杖をついて外を覗くアリアさんが少々棘がある言葉を発する。歪、とは何のことか私にはわからなかったけれど、決して褒められている訳じゃないのは理解できた。

 そんなアリアさんを咎めるように、少し困った様子のエルクさんが口を開く。


「アリア。君のその物言いは誤解を招くから………」

「でもそういうことでしょう?実力は文句なしに一流なのに、戦いへの姿勢は新人と言っても過言じゃない。さっきも一人で戦いはしたけれど、その言動は積極的なようには見えなかったわね」

「アリア」

「経験豊富って言う訳じゃないみたいだし………その力は、一体どうやって身に着けたのかしらね?まさか、神様からの授かりものかしら」

「………」

「まぁいいけど。貴女の正体なんて興味ないし………」


 アリアさんはそう言ってから何も話さなくなる。確かに、普通なら実力は経験と一緒に積み重ねていくものだ。けど、私は一切の経験を積まないままルナからこの力を借りている。今は多少慣れてきたとはいえ、登録して1ヶ月程度の冒険者なんてまだまだ新人もいい所。

 彼女が指摘したのは、多分それの事なんだろう。新人が持つには大きすぎる力に、違和感を感じる。ただ、そのことに私は何の反論の余地もなかった。


「はぁ。すまないね。悪気はない………のが一番の問題なんだが、こういう子なんだ」

「あ、いえ………大丈夫です」


 そもそも、アリアさんの疑問は至極当然なんだと思う。今までは、期待の新人。たまたま素質のあった魔法使いと勝手に納得されて何も言われなかったけれど。それだけで済まされない力であることは、私の少ない魔法の知識から考えても明らかだったから。

 すると、ルナが少々感心したように話し始める。


「ふぅん………彼らは今までの冒険者達よりは優秀みたいね。まぁ、ユアも恐らく思っていても黙っていただけだったみたいだけど」

「………ルナは私以外の思考も読めるの?」

「いいえ。ただの経験よ。まぁ、そもそも師に興味を持った時点で、何かしら思うところはあったんでしょうけど」


 それもそうだなぁと思いつつ、微妙になってしまった空気をどうしようかと思った矢先だった。


「エルク。何を突っ立ってるんだ。戦闘が終わったなら早く出るぞ。また襲われでもしたら時間の無駄だ」

「………ふむ。それもそうだ。すまない」


 初めて聞いた男性の声。その声に、エルクさんは同意して馬車に入っていく。多分今の声はルインさんのものだろう。今まで黙っていたから最初はびっくりしたけれど、見た目に寄らず少し低めで芯のある声だった。

 ちょっときつめの口調を聞いて、似たような話し方をする人が二人かぁ………と少しだけため息をつきそうになってしまった。見えてないとはいえ、失礼だからしないけど。

 取り敢えず、暫くはこの場所が定位置になりそうだなぁと考えているうちに、再び馬車は進みだしたのだった。








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