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12話

 旅に出ると決めてから1ヶ月ほど。あの日から3日後くらいにランクアップが認められて、無事に試験も突破していた。実戦のような試験では無くて、単純に戦闘能力を測るチュートリアルみたいな試験だったから特筆すべきことは無いけど、試験用の的を破壊しちゃったのは軽く注意されちゃった。

 ランクが上がった後は、ルナからこの世界の常識を学んだり、魔法のイメージを教えて貰ったりしながらモンスターと戦う依頼を受けて冒険者としての経験を積み、旅の備えを少しずつ進めていく。

 ただ、ルナが教えてくれる魔法はかなり偏りがあるように思えた。ぱっと見で強そうな魔法より、綺麗だったりする魔法が多くて疑問に感じる事が多い。


「ねぇ、ルナ。魔法だったら、火の魔法とかの方が強いんじゃないかなって思うんだけど………」

「あなたも冒険者の考え方に染まって来たわね………いい?貴女は私のお姫様なの。戦い方も美しくないと。それだけの力があるんだから、強そう何て無粋な事考えなくていいのよ」

「………そういうものなの?」

「そういうものよ」


 だとか。とは言え、個人的には戦いでも多少なりとも綺麗な光景が広がるのは気が紛れるけれど。常識以外でのこの世界の事は自分の目で見て知るべきだと思って聞いた事はないし、ルナも話そうとしない。そんな風にこの世界で過ごしていて、ついに。


「おめでとうございます。アリスさんは正式にDランク冒険者として認められました。今後の活躍も期待しています」

「はい!ありがとうございますっ!」


 試験を超えた私は、ついにDランク冒険者へとランクアップする事が出来たのだ。








 Dランクに昇格が認められた後、私は街でちょっとだけ食べ歩きをしながらルナと今後のことを話していた。この街での暮らしも慣れて、金銭も自分で稼げるようになったから生活に困ることは全くなかった。寧ろ、最初にルナにもらった金銭すら全て残っているくらいだ。

 普通だったら、低ランクの依頼の報酬程度じゃ装備の調整とかで殆ど無くなってしまうらしいけれど、私は装備なんてないし。

 私はパンの入った袋を片手に抱えながら、肩にいるルナに話しかける。


「これからどうするの?」

「そうねぇ………想像していたより早くランクアップ出来たのだし、少しは余裕を持った日程にしてもいいかもしれないわね」

「そっか………ルナ、食べる?」

「あら………ならいただこうかしら」


 ルナにパンを少しちぎって差し出す。食べなくても平気とは言っていたけど、やっぱり今までペットとして飼っていた家族にご飯を食べさせないと言うのは嫌だった。あと、彼女は平気で人間の食べ物も食べる。香辛料や、調味料の類も全く問題ないと自分で言っていた。

 そういう話を聞くたびに、本当に彼女は猫なのだろうかと特に意味のない疑問が浮かんでくる。聞いた所でもう答えは予想しているけど。

 ルナがパンを食べた後、私も袋からパンを取り出して食べる。多くの物流が集うとライルさんが言っていた通り、この街での食べ物は美味しい物が多い。自分で決めた事だけど、旅に出るのが少し惜しい気がしながら街を歩いていた時だ。


「あら、アリスさん?」

「え?あ、ユアさん。こんにちは」


 街を歩いていて出会ったのはユアさんだった。あの日からたまにユアさんのお宅にお呼ばれして、少しだけお話しすることがあった。ただ、私は魔法使いということになっているだけで実際は魔法の詳しい原理を全く理解していないからそんな話を振られたらどうしよう。と不安になっていた私に対し、ユアさんは何故か全くそういう話をしたことは無かった。


「Dランクに上がったそうですね。おめでとうございます」

「も、もう知っていたんですか!?」

「えぇ。この街であなたの事は良く噂になっていますからね」


 ユアさんの言葉に、私はなんて返せばいいか分からなくなって頬を掻く。噂になっていると言うのは薄々気づいていたけれど、こうして面と向かって言われたのは初めてだったからだ。


「折角ですから、近くのお店で少しお話していきませんか?ランクアップのお祝いも兼ねて」

「あ、えと………ありがとうございます」


 まぁ、私の口下手は治ったとは言えなかったけれど。ユアさんに誘われて、近くのお店に入る。丁度お昼時だったし、時間的にも丁度良かった。さっき少しパンを食べていたから、軽めの物を注文して待ち時間にユアさんと会話していた。

 大体は私の最近の依頼の事や、ランクアップの祝いの言葉が主だったけれど、途中で思い出したかのようにユアさんが話題を変える。


「そういえば、一つ気になっていたことがあるのですが」

「えっ?………は、はい、なんでしょうか?」

「アリスさんは魔法使いとして登録されていないようですが、その理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ほぇ………」


 一瞬何を言っているのか分からなかったが、すぐにアイシャさんと依頼に行った時にルナから聞いた話を思い出した。魔法使い連盟に初級魔法使いとして登録していない私は正式には魔法使いじゃないんだった。

 けれど、そんな話は誰にもした事が無いはず。何故突然そんなことを聞かれるのか理解できずにいると。


「すみません。これでも、それなりに連盟には顔が利くんです。なので、連盟に登録されているアリスという名前の魔法使い達の情報を少しだけ閲覧させてもらったんですが、どうしてもあなたに関する登録情報は出てこなかったんです」

「そ、そうなんですね………」


 そういえば、ライルさんからユアさんの話を聞いた時、すごい魔法使いだと言っていたのを聞いた事があるような気がする。その時、今まで黙っていたルナが声を掛けてくる。


「ウィッチ、と言っていたわね。七つある階位のうちの第四位。実質的な最高位のグランドの一つ前だけど、魔法使いとしては多くの街で尊敬を集めることができる程の実力が認められているわ」


 そうなんだ………今度、その辺りの話も知っておくべきかもしれない。というか、今まで何で聞かなかったんだろう。魔法使いと関わっていたら、いずれは聞かれる話だったかもしれないのに。


「それ程の魔法の才がありながら登録していないのは、何か事情がおありですか?」

「えっと………あー………うーん………」


 どう答えればいいかと思って、私は少し言葉を濁す。ただ、上手い作り話を出せる自信が無くてルナを見て助けを求めようとした時、ユアさんは小さく笑みを浮かべて言葉を続ける。


「もしや、アリスさんは独学で魔法を学んだのでしょうか」

「えっ………」

「師の話を出来ないと仰っていたので、そう思っていたのですが。違いましたか?」


 ユアさんの質問に、ルナが何かを聞く前に私に声を掛けてくる。


「頷いておきなさい。そうしておいた方が、一番都合が良いわ」

「えっと………そう、です………」

「やはりですか………それが聞けて良かったです」


 ユアさんは笑みを浮かべると、どこからともなく一つの封筒を取り出す。今更魔法に驚くようなことは無かったけれど、なんの封筒なのか心当たりが無くて私は首を傾げる。


「推薦状です。このような形で魔法使いを紹介するのは初めてですが、恐らく大丈夫でしょう」

「す、推薦状………?誰にですか………?」

「勿論、あなたに。魔法使い連盟への推薦状ですよ」


 魔法使い連盟への推薦状?いまいち状況が掴めずにルナを見ると、ルナもちらりと私と目を合わせるけれど、それ以上何も言わなかった。自分で決めなさい。という合図だ。


「えっと………わ、私が魔法使いになるってことですか?」

「えぇ。これから冒険者として活動するにしても、連盟には登録しておいた方が何かと便利だと思いますよ。それに、昨今は魔法使いが減っているので、連盟としても人手不足なんです」

「魔法使いが減っている………ですか?」


 ちょっとだけ気になる言葉に聞き返すと、ユアさんは今までとは一転して穏やかな笑顔を曇らせる。そして、私の質問に頷いた。


「そうなんです。理由は色々とあるんですけれどね。ですから、連盟は少しでも魔法使いの人材を欲していると思いますから、ぜひ受けて頂きたいのですが………冒険者ランクが上がった直後に申し訳ないとは思っているんですけどね」

「そう………ですか………」


 どうしようかな………そう思ってもう一度だけルナをチラリと見るけれど、彼女はあからさまに私から目線を外していた。ちょっとくらい目を合わせてくれたっていいじゃん、意地悪。

 とは言え、魔法使いとして登録できると言うのは私からすればメリットこそあっても、悪い事ではないんじゃないかな?と思っていた。これから旅をしていく中で、出来る事は多い方が後々困らないと思う。


「えと………登録したら、何か義務とかってあったりするんですか?」

「義務と呼べるものは特に。仕事を回されたりすることはあると思いますが、断る事だって勿論出来ますよ」

「だったら………その、お受けしたいと思います」


 私がそう答えると、ユアさんはホッとしたような表情を浮かべた後、笑みを浮かべる。


「そう言っていただけて良かったです。では、こちらの封筒を持ってこの街にある支部の受付に渡してください。そこで試験の案内を受けれるはずですから」

「え………?試験があるんですか?」


 あれ?ルナから聞いた話だと、魔法使い連盟には必要な物を提出して登録するだけだと聞いてたはずだけど………?


「えぇ………数年前まではそんなものも無かったんですが、最近は弟子に適当な教育をして登録させようとする魔法使いも増えていたんです」

「………試験って、筆記もあったり?」

「そうですね。もしや、文字が書けないのですか?」

「………ごめんなさい」


 私は頬を掻いて目を逸らす。この世界じゃ識字率は向こうの世界に比べて高くはないらしいけれど、識字率がほぼ100%と言われていた日本で少し前まで暮らしていた私だ。面と向かって字の読み書きが出来ないと言うのは物凄く恥ずかしいことに思えて仕方なかった。


「それは困りましたね………私が教えたいところなのですが、手が空く時間はそう多くありませんし………」

「えと………ごめんなさい。やっぱり………」

「待ちなさい。文字くらいなら、私が教えてあげるわ」


 断ろうとした私を遮るように肩に乗ったルナが、私にそう声を掛ける。猫に勉強を教わると言うことになんとも言い難い感情になったけれど、どちらにせよ文字を覚えると言うのは今後生きていく上では必修科目なようにも思えた。


「自分で勉強するので、大丈夫です。期限とかはあったりするんですか?」

「いえ、期限は特に………お力になるかは分かりませんが、こちらもどうぞ」

「えっと………これは?」

「この街にある図書館の利用カードです」

「………いいんですか?」

「はい。私は殆ど本は別の場所で購入する事が多いですから。遠慮なく使ってください」

「………ありがとうございます」


 私は小さく頭を下げる。すると、ユアさんは控えめに腕を振って苦笑する。


「いえいえ。寧ろ、こうしてお願いをしているにも関わらず、試験のお力になれず申し訳ありません。もしお時間が合えば、いつでも相談に乗りますので」

「えと、はい。よろしくお願いします」


 私が頷くと、ユアさんも笑みを浮かべて頷く。その後はほんの少しだけ言葉を交わした後、時間が来たとの事でユアさんは私の分の会計まで済ませて店を出て行った。今日から座学かぁ………冒険者のお仕事よりは簡単そうだけど、勉強も別に好きじゃないんだよね………


「あら、勉強ばっかりじゃ駄目に決まってるでしょう?ちゃんとお仕事もしなきゃ」

「………はーい」


 やっぱりルナは意地悪だ。








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