第10話 模擬戦のお誘い
【レオンダイト視点】
ラーキア城に戻った僕は、吸血鬼兵団の主要メンバーを応接間に集めて会議を行った。
「久々の戦ですなぁ。胸踊りますぞ若」
「わっちは暴れたくてうずうずしてんだよ〜出会ったエルフのやつを片っ端から殺してやんよ。いや純潔純潔と煩い若い男を1人捕まえてアッシの眷属にしてあんなことやこんなことするのもありだな。そうすれば吸血鬼の女の素晴らしさを理解すっだろ」
「2人とも少しは落ち着いたらどうだ。お前たちのせいで若様が話しづらくなっているだろう」
若と呼ぶ歴戦の猛者の風貌漂う老人の見た目をした男性はトーマス・ツェペリ。ヴラッド家と対をなすツェペリ家の現党首で娘は許嫁であるバルバラ・ツェペリ。
わっち呼びのこの綺麗なお姉さんは父上の代から仕えているナターシャ・バートリー。
若様呼びの壮年の見た目の男性は父上の代から仕えていて、僕の守役であるウルファス・レアンドロを鍛えたジール・パウル。
現在動員できる総数は、多く見積もって2000名程度、エルフェアリーナ王国は100万のエルフが住む超大国だ。兵数として動員できる最大兵数は10万はゆうに超えるだろう。
2000人で10万人の相手をできるのか?
しかも一滴の血も流さずにだ。
十中八九無理だ。
なら策を張り巡らせるのみ。
ニヤァと不敵な笑みを浮かべると僕は今作戦を告げた。
「今回の戦ではエルフェアリーナ王国を我らが吸血鬼で攻め落とす。しかし攻め落とすといっても文字通りの意味ではなく心を攻める。真の目的は吸血鬼とエルフの軍需同盟を結ぶこと。お互い純血(純潔)に拘る種族だ。分かり合えればこれ以上ない強固な軍需同盟になるはずだ。一滴の血も流してはならぬと心得よ」
「おいレオンの坊ちゃんよ〜何言ってんだ。わっちはやりたくてウズウズしてんだよ〜それを軍需同盟だ。フンそんなの無理ってもんさね」
「若、ワシもその件についてはナターシャに同意だ。ワシらはせいぜい動員できて1000人、対するエルフェアリーナ王国は10万は超えるじゃろう。血が流れないなんてことは至極無理じゃ」
「若様が決めたということは策はあるということですか?」
三者三様の意見を聞き僕はまず受け入れられないであろう提案をする。
こいつらも久々に暴れたいだけだストレス発散もでき僕にとって、得になる策ならある。
「策はあるエルフェアリーナ王国とラーキア城に面する断崖絶壁の山に囲まれた盆地ここに誘き出したエルフたちを片っ端から拉致し、手厚くもてなす。エルフ国では自然のもの以外は口にする機会があまり無いと聞く。肉や魚や酒で籠絡するのはどうだ」
「若様、なるほど筋は通りますが無理ですな」
「わっちも同感だね。そもそもそれに興味を示さ無い可能性すらあるね」
「若、それは不可能かと」
案の定こんな提案が通らないことは百も承知だ。
この後が大事だ。
相手もいきなり吸血鬼が攻めてくるとは考えない。
そこで、双方の代表者数名による模擬戦の提案を持ちかけると、相手も力をこちらに示すために精鋭のエルフを差し向けるはずだ。
「エルフェアリーナ王国の女王に吸血鬼の代表として模擬戦をしたい旨を書簡として送るのはどうだろうか?お前たちも久々に暴れられるだろう。こちらは僕、ウルファス、トーマス、ナターシャ、ジールだ。見届け人を含めて双方10人程度とする。何も攻め落とす必要はあるまい。交渉を有利にできるキッカケさえ掴めれば」
「模擬戦かぁ〜それはわっちには思い付かんかった。アリだと思いますよレオン坊ちゃん」
「若、模擬戦とは確かに乗ってくれれば、お互い殴り合った後仲良くなったりするかもしれませんなぁ」
「若様、5人というのも勝ち負けはっきり付く良い提案かと。見届け人はこちらはアーロン様とバルバラ嬢が適任です」
3人の許可を得ることができたので書簡を出そうとしたところアーロンに止められた。
「待てよ兄貴、見届け人は兄貴とバルバラがやってくれ、俺は戦いてぇからよエルフと」
「それはダメだアーロン、模擬戦を申し込む側が党首抜きで提案してきたらお前ならどう見る。敢えて死地に飛び込むからこそ活路が見出せるんだ。だから今回はお前とバラバラが見届け人だ」
「チッわかったよ兄貴。でもやるからにはぜってぇ勝てよな」
「勝利をお祈りしてるのだぁ」
2人の声援を聞き、エルフェアリーナ王国に書簡を送った。
【リリア視点】
今日は久々に吸血鬼との国境線に出向いてきていた私はそこに来た吸血鬼から女王陛下への書簡を預かった。
それを持って今女王陛下に謁見している。
「リリアちゃん、また勝手に抜け出して国境線に行ってたそうね。もうホントお母様に似てじゃじゃ馬なんだから」
私をリリアちゃんと呼ぶ、この御方は女王陛下のエイミー・オフィーリア。私の母の姉、即ち私にとって叔母に当たる。
「女王陛下、私は草原を駆けてこそなのですよ。フフフ。あっこれ吸血鬼の方からお預かりした書簡です」
書簡を女王陛下に手渡した。
「もーう、リリアちゃんったら、2人の時はエイミーおねぇちゃんって呼んでっていつも言ってるでしょ」
頬を膨らませながら書簡を受け取り内容を確認する女王陛下ことエイミーおねぇちゃん。
「吸血鬼の現党首であるレオンダイト・ヴラッド殿から5人同士の模擬戦のお誘いみたいね。場所はアリーナ闘技場ですって」
エイミーおねぇちゃんは戦いが嫌いだ。それゆえ魔族領に攻め込んだりもしない。ゆえに私はいつも刺激不足だ。
「エイミーおねぇちゃんそのお誘い受けましょう。すぐ受けましょう」
吸血鬼と戦えるなんてとても楽しそう。
「あの聡明なレオンダイト殿が模擬戦だけとは思えないのよねぇ。場所もアリーナ闘技場を指定してくるなんて、でもやるからには負けることは許さないわよ〜。メンバーの選出はリリアちゃんに任せるわね〜」
「ハッ、もう決めてます。私、ラス、アーチ、ボーガ、ミーアです」
ラスは貴族リーディス家の若き党首、アーチとボーガは兄弟で戦闘民族ヤー村の出身、ミーアは士族キャッツ家の女党首、どれも戦闘民族であり、エルフェアリーナ王国の精鋭部隊出身だ。
「ではリリア貴方が使者となりこの書簡を持ってレオンダイト殿を我が国まで案内しなさい」
「ハッ謹んでお受けします。エイミーおねぇたん」
「もぅ」
女王陛下は顔を真っ赤にして悶絶してました。ニヤァ。
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