第8話 ウルファスの隠された過去
過去編スタートです。
【レオンダイト視点】
「これはウルファスが城にやってきた80年前の話だ」
扉をノックする音が聞こえて、入ってきたのは白狼の女性を肩に抱えた初老でちょいと丸みを帯びた体型をした父上だった。
「父上、おかえりなさいませ。肩の女性は誰ですか?」
「兄貴、親父がその格好ってことは、趣味の女漁りで、今回の決闘の戦利品が肩の女ってことだろうよ」
「レオンダイト、アーロン、1週間ぶりだなぁ。へへへ。アーロンその通りよ。胸と尻がデカくて容姿の良い女は俺の嫁にしないとなぁ。カッカッカッ」
「ヴェルデ、貴方が女を連れ帰ることにはもう何も言いません。言っても無駄だとわかりましたから。でも連れ帰ってきた女の世話をするのはいつも私なのはどうしてなのかしら」
ヴェルデと父上のことを愛しさを込めて呼ぶこのおおらかで優しそうな女性は僕とアーロンの母で、メイリン・ヴラッド。由緒正しきメメント家の純血吸血鬼である。もちろん父上の趣味で選んでるので胸と尻がデカくて容姿が良い。
「メイリン、そんなにカッカッしちゃあいけねぇよ。可愛い顔が台無しだからよ。女の世話は女に任せるのが上手くいく秘訣だろう」
ニタァと笑みを浮かべてそんなことを平然と言ってのける。
「もう、知りません」
可愛いと言われて赤面している母上が短くそれだけ言って、父上の肩で気絶している女性を預かり、ベットに寝かせて女性が起きて暴れて怪我をしないように手と足を慣れた手つきで拘束してから身体を揺すって起こした。
「えっ此処は何処?」
女性はあたりをキョロキョロ見回してまだ初老で丸みを帯びたままの姿の父上を見て恍惚の表情を浮かべた。
「あぁ、貴方様は私の主人から決闘で私を奪い去った殿方」
「俺はヴェルデだ。へぇーこいつは驚いた。お前さん俺が憎くねぇのかい」
「白狼の女性はより強い殿方を好むので、憎くなんてありません。それに悪いのは決闘に負けるような腑抜けの方です。奪われたくなければ勝ち続けるしかないのですから。うっ実はもう子供が産まれそうなんです」
「他人の子供なんざ面倒見れねぇぞ」
「ヴェルデ何を言ってるんですか、これも貴方の傲慢さが招いたことでしょ。子供に罪はありません、レオン、至急王城のはなれに住んでいるキーンを呼んできなさい。事は一刻を争いますよ」
「はいメイリン母上」
驚いた僕は母上の名前まで呼んでいた。そういうと王城のはなれに向かった。
王城は此処からそう遠く無い。
一刻もかからず着いた。
扉をノックしキーン婆やが出てくる。
「あらあらまぁレオン坊ちゃま、こんな夜更けにどうしたのかしら?」
「婆や、大変なんだ。子供が産まれそうな女性がラーキア城にきてるんだ。来て見てあげてほしい」
「あらあら、まぁ子供がそれは大変ですねぇ。では参りましょうアタシの魔法陣の上に立ってくださいな」
僕が魔法陣の上に乗ると婆やは魔法を唱えてラーキア城の正面にワープした。
「婆や今の何?」
「坊っちゃまにしか見せてないのですから他言無用でお願いしますよ」
婆やはそう言って人差し指を口元に持っていってシィーと言った。
僕はそれをみてくすくす笑って、扉をノックした。
「母上、ただいま戻りました」
「お邪魔いたします。メイリン様」
「レオン、ずいぶん早かったのね。キーンよく来てくれたわ。こっちよ」
母上はそういうと僕とキーンを連れて出産室に向かった。
出産室では、父の妻たちが出産室で準備をして寝ている白狼の女性を励ましたり手を握ったりしていた。
「うぅーーー」
「もう少しだからね」「頑張ろうね」「後少しだよ」
といろんな声を女性にかけていた。
キーン婆やが頭と身体が見えているのを確認して、引っ張り出した。
「オギャーーーオギャーーー」
「あらーまぁ可愛い男の子ですよ。よく頑張りましたね。アタシがいなくてもこんなに出産経験者が居たら大丈夫だったわね」
手慣れた手つきで子供の身体を洗い、タオルで包んで、白狼の女性の隣に置いた。
「可愛い、メイリン様が子供には罪がないと言ってくださったおかげで産まれた命です。宜しければ名前を付けてくださいませんか?」
「私にネームセンスは無いから期待しないでね。そうねウルファスなんてどうかしら?」
「ウルファス良い名ですね。ウルファス、貴方の名前はウルファス・レアンドロよ」
「ガキが産まれたか。でもそのガキは魔族が敵対してる狼族だ。匿うなんて真似できねえから捨ててくるしかねぇな」
平然とそんなことをいう父上にムカついた僕は怒りながら言った。
「クソジジイの女癖の悪さが招いた自業自得じゃねぇか。ふざけんじゃねぇぞ。この子供は俺の弟として俺が面倒見るよ。クソジジイには迷惑かけねぇよ。この子の髪を黒に変えて、目を赤目に見えるようにすれば立派な吸血鬼に見えるだろうさ」
「うっ、勝手にしやがれ」
初めて僕に反論され、尚且つ図星をつかれた親父は何も言えず只そう言うだけだった。
僕は寝ているウルファスの御手手に手を当てて握り返してきたこの可愛い新しい弟を守ると誓ったのだ。
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