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その『悪役令嬢』は幸せを恋い願う  作者: 玉響なつめ


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第31話 近くて遠い

 お客様と相対しても失礼にならない程度にシンプルなデイドレスに着替え、私はお父様の執務室に足を向けました。

 ノックをし、許可をいただいてから入室をしてお辞儀を一つ。


「どうした」


「……お客様を、どちらの部屋でお出迎えなさるか伺っておりませんでしたので」


「執事か侍女にでも聞けば済む話だろう。それをわざわざわたしに確認しに来たのであれば、そんな遠回しなことをせずに聞きたいことを直接聞けば良かろう」


「……では、失礼して。本日お越しになるお客様というのは、カデーレ子爵様のご子息ですか」


「どうしてそう思った?」


 書類から目を離すことなく、お父様は私の問いに問いで答えました。

 否定するでもなく、肯定するでもなく。


 まるでそれは、私を試しているようです。


「三ヶ月、経ちましたので」


「なるほど。まあわかりやすすぎたな。……お前もあれがどうしているか知りたいかと思ってな、ほんの僅かというには共に暮らした時間が長い。お前はあれを義弟として、大切に扱っていただろう」


「……それは、はい」


 やはりイザークのことなのですね。


 私はそっと目を伏せました。

 最後に会ったのは、あの王城での一室です。


 その後イザークは騎士に伴われ我が家にやってきて、お父様立ち会いのもとで私物を持ち生家であるカデーレ子爵家へと戻されたのです。

 私は、自室から出るなと言われていたこともあって、会うことはありませんでした。


 気になるか、気にならないかと問われれば気になります。

 薄情かもしれませんが、婚約者であったアベリアン殿下よりも仮初めとはいえ姉弟であったイザークのことは、やはり気になるのです。


 三ヶ月間、生家での謹慎生活は肩身の狭いものだったに違いありません。

 順風満帆に行けば中継ぎとはいえ公爵となれるはずだった息子、それが過ちを犯してその話をなくしてしまったのですから。

 この話を知る人々に、カデーレ子爵家の息子として次から会う人たちは噂をするのでしょう。


(噂は決して……下火になっただけで、無くなったわけじゃないもの)


 とはいえ、それをどうにかしてあげたいということは口にできません。

 それはイザーク・カデーレという新しい人生を歩まねばならない彼にとって、不利益でしかないからです。


「何をしにいらっしゃるの」


「なぁに、ただの挨拶さ。カデーレ子爵家はお前も知っている通り一応分家筋。謹慎明けで明日から学校に通わせる前に、公爵家に対して改めて謝罪と反省の言葉を述べさせて、少しでも心証を良くしておこうという腹づもりだろう」


「……そう」


 まあそんなことだろうとは思いましたが、やはりそうでしたか。

 お父様は私に向かって酷薄な笑みを浮かべるだけで、そのお心まではわかりません。


 イザークのことは気になっているけれど、会いたくない気持ちもあります。

 ですが公爵としてお父様が処断したことに対し子爵が挨拶をしておかなければ礼儀知らずと思われることもわかりますし、その場に次代として私が同席する理由も……やはり当事者でしたから、仕方がないのでしょう。


 姉弟という近しい関係が今ではなんて遠いのでしょうか。

 思わず目を伏せてしまうと、お父様に「顔をあげなさい」と言われてしまいました。


「お前は同席する際、姉であったロレッタではないのだ。次期公爵として、わたしの傍に控え、こうした事態でもどのような態度を取るべきかを学ぶのだ。できないことはレオンが担う。二人ともできないことは、習得するか他の者の手を借りるかすればいい」


「……はい」


「大丈夫だ。イザークは賢い子だった。きっと、この三ヶ月の間で自分を見つめ直してくれているに違いない」


 お父様は公爵の顔から、イザークにも見せていた父親の顔で笑ってくださいました。

 仮初めの親子、仮初めの姉弟。

 イザークには私たちはどのような存在だったのでしょうか。


(きっともう、親しく会話することなんてない)


 幼い頃、私の後をついて笑っていたイザークとの思い出が、今は上手く思い出せませんでした。

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