第26話 勧善懲悪の物語みたいなものを貴族は求められていない
ちなみにウーゴ様は跡目を継ぐことは一旦保留とし、やはり学園生活での言動を見てから決めるとのこと。
もしも見込みなしと判断が下された場合はメルカド侯爵家の持つ商会で働くことになるのだそうです。
その場合は、貴族としては立身出世は見込めない……とのことです。
ウーゴ様はプライドが高く、いずれは王城の上級文官を経て宰相職を目指したいと仰っていたから、いずれにせよその夢は側近候補を外れた段階で難しいのですが。
またエルマン様はこちらの方が厳しいようです。
モレノ伯爵様が大層お怒りで、学園を辞めさせて一兵士から鍛え直すとかで……。
ご自身が指導する伯爵領の私兵団では甘えも出るだろうから、友人でもある地方の警備隊に預かって貰うとのことです。
エルマン様もまた、殿下の側近として騎士となりいずれは騎士隊長……と夢を見ていらしたので、一兵士からの出発ですとなかなかに難しいような気がいたします。
まず騎士試験を受けさせて貰えるのかが重要なところでしょうか?
「アトキンス男爵についてはもはや余の方で何かを言う必要も無かろう」
「……大変申し訳ございませんでした」
アトキンス男爵領は豊かな土壌に恵まれたこともあって野菜や小麦と言ったものを販売する形で潤っていますが……今回の件で一部の貴族たちからは嫌われ、取り引きが激減してしまったようです。
幸いにも領の税率を上げるようなことはせずとも済んだようですが、それでも領主として経営状況は厳しくなったに違いありません。
体面を気にする貴族家の方々が、ご自身の子息令嬢の晴れ舞台である卒業式のその思い出を汚されたとして腹を立てたのではないでしょうか。
もしくは、そのような振る舞いをする令嬢を育てたご両親では商売の相手として信頼に足る相手か不安になったか。
いずれにせよ、あんな大きな問題になる前に止められなかった私も、止めなかった側近候補たちも、理解できなかった殿下も、そして唆した彼女も。
私たちは、まとめて罰を受けることになったのです。
止められなかったという点では、あの学園にいた生徒たちも同様なのだと思います。
私と同級生であった卒業生たちは後輩を諫めることができなかったこと、私の暢気な構えを覆せなかったこと。
殿下たちの同級生は、彼らの行動を諫めたり親を通じてどうにかしようとしなかったこと。
教師陣は彼らを導けなかったこと。
今回の醜聞で、学園の名誉も傷つきました。
多くの学生が、今回の件で巻き添えであり共犯者となってしまったのです。
(……正していくのは教師たちであり、残された生徒たち。そして卒業した私たちは、彼らのためにも真っ当な貴族としての道を歩まなければならない)
考えることが多すぎて、思わずため息が漏れました。
殿下たちが私を陰で『悪役令嬢』なんて呼んで笑っていたのをどこか暗い気持ちで、微笑ましいなんて思っていたのは……やはり学生という身分に甘んじていたのでしょう。
(私自身、これまで殿下と対話を求めても拒否されて、あの講堂で少し意地悪な言い方をしてしまったり婚約破棄で嬉しいと思ってしまったのは……まだ、どこか子供意識があったのよね)
相手のせいにばかりしたかったけれど、こうして陛下やお父様のやりとりを見ているとどこか冷静になれて、どんどん反省するところが見えてきました。
反省すると同時に自分が恥ずかしくてたまりません。
勧善懲悪の物語であれば、私が彼らの考えを『何を甘えたことを! そんなことをして許しません!』と全ての権力と家族からの愛情を奪い、どこかへ放り出す……なんてものでしょうが、現実はそんな簡単ではありません。
彼らにも家族があり、厳しくしすぎれば周囲からはやり過ぎだと咎められ、そして学生のしたことだからと甘くすれば批判されるのです。
私も批判される側の人間となった以上、それを覚えておかねばなりません。
「……お父様、私はお父様と同じように振る舞えるでしょうか」
「さてな。お前は努力家ではあるが、争いごとを嫌い目を背けるところがある。公爵令嬢としての振る舞いはできるが、公爵にはまだほど遠い。……だがこれからはわたしの跡継ぎとして厳しく指導していこう」
「はい」
「幸いにも陛下に婚約を許されたのだ、レオンも同じように厳しく指導をするから覚悟しておけ」
「は」
「後任の護衛騎士は館に戻ってからすぐに決めるとしよう。我々もワーデンシュタイン公爵領に戻るぞ」
王城を後にするお父様のその足取りは、どこか軽く見えます。
どうやら、今回いただいた銀山がとても嬉しかったようですね!
馬車に乗り込んでから、私は最後に聞いておきたいことを口にしました。
表では、誰の目があるかわからなかったからです。
「ねえお父様、アトキンス嬢を襲った暴漢についてはどうして陛下は言及されなかったの? 私に罪を着せようとしていたのだから、冤罪なのに」
「そうだな、その件については少々根深い」
馬車のドアが閉まってから質問をした私のことを褒めるように、お父様は微笑んだのでした。




