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とりあえず  作者: 夜凪
3/4

とりあえず

本日3話目です。

あれからの話をするわね。





不思議な部屋で不思議な動く絵を、私の未来だと見せられた後。


誰もいない部屋で、今こそ動き出すぞと気合を入れた時、外から喧騒が近づいてきたの。


「アイーダ、そんなに動いたら具合が!!」

「触らないでください!私を止めるなら、今すぐ舌をかみ切って死ぬから!!」

そんな不穏な声と共に荒々しく扉が開かれ、飛び込んできたのはなんとお母様だった。


白い薄絹のネグリジェにショールを羽織っただけの姿は、まるで寝室から飛び出してきたかのよう。

いつも丁寧に櫛けずられた髪は乱れ、いつもは青白い頬は興奮のためか薄紅に染まり、いつもおっとりとほほ笑んでいる瞳はらんらんと見開かれていた。


いつものあどけなさすら感じる穏やかなお母様の姿はそこにはなくて。

だけど、いつもよりもとても美しく見えた。


びっくりして立ち尽くす私と目が合ったお母様は、大きくひとつ息をつくとぐるりと部屋を見渡した。

そして、ぎゅっと眉をしかめる。

はじめてみる険しい表情に、心臓がつかまれた気がした。


なんで、そんな顔をするの?まともに王太子教育もこなせない不甲斐ない娘は、やっぱりもういらない?


だけど、そんな思いは次の瞬間には消えてなくなった。


「本当に、こんな部屋にいるなんて!メリンダ!!不甲斐ない母でごめんなさい!」

叫ぶような声と共に、気が付けば力いっぱいお母様に抱きしめられていたの。


いつもベッドの上か、良くてもソファーに座っているお母様しか知らなかったから、びっくりした。

お母様、私よりずっと背が高いんだわ。

抱きしめられたら、すっぽりと覆われてしまう。

それに、とても力が強かったのね。

腕が食い込んで、痛いわ。


「寂しい思いをさせてごめんなさい。つらい思いをさせてごめんね。もう、遅いかもしれないけど。母様のこと、嫌いかもしれないけど。それでも。メリンダの事を守りたいの。もう間違えないから」

突然すぎて、何が起こってるか分からない。

けど、お母様が、私の部屋にいて抱きしめてくれているのは、分かる。


「愛してるのよ、メリンダ」

そして、これまでの寂しい日々が、終わりを告げたのだという事も。

だけど、本当に?


信じたい。だけど、怖い。


その時浮かんだのは、あの部屋で聞いた女性の言葉。


『とりあえず、話して』


「………お…かあ……さま」

どうにか絞り出した声はとてもみっともなくかすれていて。


『それも難しいなら……』


「おか……さまぁ……」


『泣いてみたら?』


寂しかった。苦しかった。逃げ出したかった。

全部全部嫌で、消えてしまいたかった。


「あぁ、メリンダ。メリンダ!」


破裂するように泣き出した私を、お母様はずっと強く抱きしめてくれていたの。




その後。

お母様は、まるで何かにとりつかれたかのように精力的に動き出した。

もちろん、突然体が強くなるはずもなく。

一つ事をなしたら倒れての繰り返しだったけれど。


まず、最初にしたことは瞼を腫らした私を連れて、お母様の実家に帰ることだったのには笑ってしまった。


突然大暴れしたお母様の勢いに負ける形で馬車が用意され、取り残されたお父様の呆然とした顔と言ったらなかった。

片頬が腫れていたからどうしたのかと思ったら、起き抜けにお母様が叩いたらしい。

「だって、娘が倒れて運ばれてきたのに、のんきに寝ているだけの私についていたとか訳わからないわ」

とお母様は大変お怒りだったけれど、それ、いつものことだし。

そう言ったら、さらに怒り狂って絶縁状を書き出して慌てたけれど。


どうやら、お母様もあの不思議な部屋へ行ったらしく、今までの事を謝られた。

詳しく話を聞くと、お母様も心配性と過保護が加速したお父様に、半ば部屋の中に軟禁されていたような状態だったようで、情報もかなり制限されていた模様。

主に、私の状態とか。


出産のダメージが大きくて死にかけたのは事実だし、その後も体調を崩しやすくなったのも本当。

だけど、今すぐ死ぬとかそういう状態ではなかったのに、咳を一つすればベッドに押し込められ、少し熱が出たらその後一月部屋から出してもらえない、とか。

ちょっと異常ではある。


「お父様のお母様も産後の肥立ちが良くなくて、ちょっとした風邪をこじらせてお亡くなりになったそうなの。だから、トラウマもあったのでしょうね」

それを知っていたからお母様も強くは出れず、状況に甘んじていたらしい。


「あなたの良いところばかり伝えていたのは、赤ちゃんのあなたのお世話に夢中になっては体調を崩すを繰り返していたから。頑張りすぎて、不安になったのでしょうね」

問題がなければ無理をしないと思ったし、触れ合う時間を制限すれば体調を崩さないのではと思ったのだそう。

これは、お父様から送られてきた言い訳の手紙に書かれていた。

ちなみに、過剰なほどの教育はお家大事の古くからいる家令達の暴走だったようで、お父様も何がされているのか詳しくは知らなかったんだって。


まあ、通常の仕事をこなし、倒れるお母様に張り付いてたら、娘の方に回す時間など微々たるものだったのだろう。それはそれでひどい話だけど。


ちなみに、実家に帰って子供のころから見てもらっているお医者様に改めて診察してもらったところ、お父様の過保護は見事に裏目に出ていたことが判明した。


体調が悪い→部屋にこもる→体力が落ちる→免疫が落ちる→体調を崩す、の負のループ。

さらに、閉じこもりがちで動かないからお腹が減らなくて食欲が落ちたり、気持ちが落ち込んだりもあったみたいで。

無理をしない範囲で散歩をしたり、外でお茶をしたりするうちに少しずつ食事の量も増え、表情も生き生きしてきた。


何よりも、私の未来を知って大変お怒りで、意地でも元気になって、未来を変えてみせると意気込んでるのが良かったみたい。

まさに、病は気から?


私の方も、行き過ぎた王太子妃教育が改めて問題になって、現在、すべてをお休みにしている。

そもそも、前倒しで向こう2年ほどのカリキュラムは終わっているので、多少お休みしても問題ないらしいの。

あの、追いつめられるような日々は何だったのかしら?

婚約自体は、まだ解消されてはいないけれど、どうなるかは、今後の話し合いで決まるみたい。


「メリンダの負担になる様な条件をのんできたら、今度こそ終わりよ」

とお母様が涼しい顔をしていたから、お父様も頑張ってくれることと思う。

けど、終わりって、何が終わるんでしょう。お母様?

こわくて聞けなかったけど。





不思議な部屋で出会った見知らぬ誰か様。

あなたの忠告に従ったおかげで、お母様も私も、とりあえず・・・・・幸せになれそうです。


ありがとう。





読んでくださり、ありがとうございました。


一気にかき揚げ順次投稿。

楽しかった^_^


ちなみに起きた時の母&父


母目を覚ます。

父「ああ、起きたんだね。喉乾いてない?何か飲むかい?」

母、無言でむくりと起きだし、キョロキョロ

母「ねえ、メリンダは?」

父「ん?帰ってきてるようだけど?」

母、全力フルスイングで平手。

「体調悪い子放っておいて何してるの?父親なら、そばに居なさいよ!」

父「は?え?なに??」


呆然とする父親尻目に母、娘の元にダッシュ。


慌てて止めようとする周囲をガルガル威嚇。

使用人は強硬手段が取れず、抱き締めて止めようとした父の顎に頭突き

「無理に止めたら死んでやる!」で、部屋まで強行突破しました。




火事場の馬鹿力的な。

実家に逃げた後ぶっ倒れますが、娘の手は離さず。

しばらくは、娘の姿が見えず、10分居場所が把握できないだけでガルガルしてました。



……‥父親の言い訳とか、いります?





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― 新着の感想 ―
[良い点] 屑父親から離れられたこと [気になる点] まだ、王家との婚約が残っている [一言] とりあえず離縁をしましょう。その後、離縁を理由に娘の婚約を解消しましょう。旦那の家には慰謝料を貰い家令は…
[一言] 言い訳是非!
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