燃ゆる炎は命を守る
「どこだ………うっ……また割れた」
探索は予想以上に難航した。
霧の視界は非常に悪く、障害物を避けることが出来ずに衝突。
ガラスの性質上、割れやすいのですぐに操作不能になってしまう。
大量の飛行物を壁状に配置し、ゆっくり動かす方法も行われているが、
広い空間内では時間がかかってしまっている。
部屋内に熱が籠り始め蒸し暑くなりつつある。
さらに密閉空間のため、呼吸があとどれくらい出来るのかもわからない。
「おい、体を支える核って言うのは人の体で言うどの位置だと思う?」
「はあ?何を言ってるの?」
突然のリーシャの質問の意図はセレスにはわからなかった。
「どこだ?」
「そ、そりゃあ、頭の近くかな?人間の体を制御してるのは脳だと思うし」
わからないながらもイメージで答える。
「頭………なら声も聞こえそうだな」
「なにを?」
ふとあることに気付いた。
「リーシャ、あんたどうやって酸の霧の中で生き延びたの?」
酸の霧の最初の被害者はリーシャだ。いくら頑丈と言えど酸に強いのは人の体としてあり得ない。
さらにデバイスなども無事のようだ。
「あー………そうだな。そろそろ説明しないとな」
頭の後ろをかきながら、気まずそうに顔を背ける。
「隠していたんだが、うちは自分の炎で体の毒を燃やすことが出来るんだ」
「え!?それってジギタリスの!?」
「それと一緒にするな!!」
ジギタリスの眷属には自らの能力で体に取り込んだ毒を無効化する力を持つ者がいる。
それと似た力があるのだろう。
「それで生き延びることが出来たんだ」
「そんな力があったんだ…」
アカデミーからの付き合いなので10年以上黙ってたことになる。
なんで黙ってたの?と聞きたくなったが今は後だ。
「つまり外でも生きていられるのか………じゃあ」
「ああ、うちも外に出て探索をする。そして核が頭にあるかもしれないなら、
うちを見つけた途端、襲ってくる可能性がある。それを上手く使って破壊するんだ」
相手は唯一の肉親を殺したとなれば、我を忘れようとも復讐しようとする可能性がある。
さらに襲おうとすれば、ただ漂うだけの霧が動く。動きの中心には核があるだろう。
つまりリーシャが囮になり、ティア達と共に挟み撃ちにして破壊しようということだ。
「リーシャ、失敗したら死ぬかもしれないよ?」
「ああ。そしたら全員でお陀仏だな」
やらなければ死、やっても死ぬか生きるかわからない。
「なら答えは一つ。1%でも生き残れる方に賭けるわよ!」
全員がセレスの賭けに頷いた。
部屋の隅にリーシャだけの空間を造り、隔離する。
「切り離すよ。準備して」
この部屋を作りだした子供の合図で発を行う。
体が燃え、炎が溢れ出す。
「あれが…リーシャが隠してた力か…」
「…綺麗」
火の粉が光のように輝く姿は、最近初めて話した人物の姿に似ている気がした。
「行くぞ!!」
切り離した部屋のガラスを破壊すると、上空へ飛び立った。
「ハイヤーーー!!!」
リーシャは力一杯叫ぶ。
「次はてめぇを兄貴と同じ目に合せてやるぅーー!!!」
ズズッ…
地鳴りのような音がしたかと思うと地鳴りは唸り声に変わっていく。
「ぐおおおおおお!!」
腹の底まで響く唸り声は確実に近づいている。殺気もリーシャに向かっている。
「声が聞こえたようだな」
霧が濃くなり、だんだん暗くなっていく。
「上空!一斉射撃!!」
ティアの声に合わせ上を確認すると、砲撃の光が見え隠れする。
だが…
「来た!」
顔のようなものを上空に残し、黒い霧の塊が向かってくる。
ティア達の方は囮のようだ。
リーシャは襲ってくる塊を片手で受ける。
「攻撃の瞬間に実態が現れるって言っただろ!!」
受けてない方の手で体と思われる方に拳を突き出すが空振り。
どうやら大きすぎて体が離れているようだ。
だが方向はわかった。頭と思われる位置から視線を感じる。
リーシャはさらに発を強めた。
発は炎となり一気に燃え上がる。
「てめぇを確実に仕留めなきゃならねぇんだ!覚悟しやがれ!!」
頭の位置に一気に駆け抜けると、顔と思われる黒い塊があった。
「ぐおおおおおお!!」
リーシャが見えたのか雄叫びを上げながら食らいつく。
「一撃!爆砕!!」
発に呼応するようにデバイスの輪が激しく回転する。
「超破壊烈波!!」
リーシャが殴りつける衝撃と共に、導火線のように一本の炎が突き抜ける。
そして炎は一気に爆発し、周囲に激しい衝撃波を生み出す。
そして溜まった衝撃波は炎の柱となって燃え上がる。
「ああああああああああ!!」
炎の爆音とハイヤ弟の咆哮で空気が震える。
さらに激しい炎と衝撃波で周囲の霧が吹っ飛んでいく。
暫く燃え続けた炎の柱がみるみる小さくなり消えると、まばゆい太陽の光が辺りを照らす。
「霧が消えた………倒したみたいだな」
デバイスが役目を終えたようで、内側に溜まった熱気を一気に放出する。
リーシャは大きく息を吸い溜息を吐くと、発を止めた。
霧が無くなったことで生身でも過ごせる環境に戻ったようだ。
周囲には所々、煤のようなものが降っている。
リーシャは手の平に煤を乗せる。
風が吹き、煤はすぐに空に飛んで行った。
「とんでもねぇクズだったが、ちゃんと成仏しろよ」
討ち取った二人の冥福を静かに祈った。
「…いってて………なんて魔法使ってんのよ!」
念話でセレスの声が聞こえた。
「あ、やり過ぎたか?」
リーシャは大きく、深く抉れた地面を見て、仲間の安否に不安を覚えた。
どうやら勢い余ってあのガラスの部屋まで吹き飛ばしてしまったようだ。
「な、なんて威力なんだよ」「これじゃあ僕らの戦艦も一溜まりも無いよ」
「んもう!トウヤくんのデバイスには加減ってものが無いのかな?」
全員無事のようで安心する。
「はっ!いいデバイスだったぜ、鋼鉄の公爵!」
リーシャはデバイスをパンッと叩くと仲間達と合流した。