救援
「誰を助けに行くの?」
リリスの問いにトウヤは悩んでいた。
ボスと戦っているポーラ、刺客と戦っているセレス達、どちらを助けるべきか。
「ポーラ・・・だな」
ポツリと答えを出した。
「どうして?」
「正確にはファイゼンだ。この中で唯一行方がわかっていない。
行方が分からないということは、相手しか知らない場所に監禁されている。
そしていざと言う時には人質にされやすい立場にいるということだ」
リリスは納得した。
そして
「子供のわりにはしっかり考えているな」
バーネットはトウヤを褒める。
「…あんた、捕まっているのにそんなこと言っていいのか?」
「どういうことだ?」
「捕まっているのに敵側に協力的とか、仲間に殺されるんじゃないか?」
「ふっ、お前も敵の心配とか、ずいぶんと変わり者じゃないか」
「…本当に犯罪者なのか?」
「局の判断ではそうなっているな」
「……」
なんだか何かをはぐらかしているようにも思えるが、トウヤはファイゼン救出を優先した。
「クレアはファイゼンにかなり執着しているように見えた。
ということはクレアの手の届く範囲に置いている可能性が高い。
そして同時にポーラへの敵視もかなり強いから、ファイゼンを餌に逆なでることもするだろうな」
トウヤは地図を確認する。
ポーラ達の場所は中央部上層の一室。この制御室の上の方だ。
そこは貨物室として使われているようで、広い部屋の周りに小さな小部屋が幾つか隣接している。
しかも貨物を保管するためか、広い部屋からしか入れない仕様のようだ。
ファイゼンはこの小部屋に監禁されているのだろうか?
そうなると、ポーラとクレアが戦っている最中の部屋で、ファイゼンを探すことになる。
そしてそこへ行くには、リンシェン達のいる広場を通ることになる。
「…なるほど、セレス達は広場の隣だな。そしてあんた達の切り札はリンシェン達が相手してるやつらか」
「…ほう」
バーネットはまたトウヤの呟きに感心した。
「どういう事?」
リリスは説明を求めた。
「おそらくリンシェン達は簡単に倒せる相手と予想して、あいつらが入り口を護るように配置したんだ。
万が一、俺らやセレス達が救援に向かえた時にあいつらが入り口で足止め出来るように」
そのためにクレアは入り口の少ない場所にいる。
こいつらにとって、クレアの願いはそれほどの物なのだろうか?
「だが、今はあんた達に誤算が生じている。俺らが予想より早く脱出できたこと。
そして護るべきあいつらがまだリンシェン達を倒せていないことだ」
リンシェン達がまだ戦っている。それはバーネット達にとって予想外の展開だ。
「そうだとして…おまえは見捨てて行くのか?今は生きてるけど、この後死ぬかもしれないぞ?」
バーネットの口ぶりだと、リンシェン達の相手はかなり強く、倒せるかどうかはわからないようだ。
「…行く。そうしないとそいつらを倒す以外の道が無くなる」
「そうか。なら見捨てて行くがいい。それがお前が選んだ道だ」
まるで何かを諭すような物言いに、トウヤは本当に敵なのか?と思ってしまった。
「どうやって通り抜けるの?」
扉の向こうは激しい戦闘。そのまま出た場合、すぐに見つかり戦闘に巻き込まれるだろう。
そのことはリリスにも予想できた。
「そこは大丈夫だ。風打ちで隠れることが出来るから」
バーネットを身動きが出来ないよう縛り直すと、トウヤはリリスの正面に立つ。
「風打ち・第十二座・離」
魔法名を唱えるとトウヤの姿は消えていった。
「こうやって隠れることが出来るんだ」
トウヤの姿が無いのに声がしたことにリリスは驚いた。
「そして」
トウヤはリリスの腕を掴む。
リリスは驚き振り払おうとするが、トウヤが掴んだと解かると大人しくした。
するとリリスの姿も消えていった。
「わ、わたしも!?」
「ああ。ただの目暗ましだがな」
トウヤとリリスの姿は消えた。これで簡単に通り抜けることが出来るだろう。
「面白い魔法が使えるんだな。気配までは隠せないようだが、
戦闘中で目の前の相手に集中しているなら簡単に隠れられそうだ」
バーネットも驚き、感心した。
「あんたには悪いが、終わるまでそこで大人しくしていてもらう」
「ああ」
バーネットの返事を確認すると、トウヤは扉をゆっくり開け、部屋を出た。
戦闘の激しい衝突音で足音は十分消えている。
トウヤとリリスは駆け足で部屋を抜け、上層部へ向かう。
リンシェンの戦闘が激しく、ミナとルーの姿が確認出来なかったが、大丈夫と信じよう。
運が良ければこちら側で強力な戦力であるセレス達が救援に行ける。
(大丈夫、仲間の無事を信じよう)
トウヤはそう言い聞かせて抜けて行った。
「行った…か」
バーネットは気配が無くなったことを確認した。
「やはり子供だな。考えが甘すぎる」
そう呟き魔法を使うと、物陰から獣が現れた。
獣型の人工生命体だ。
「魔法を封じなければ意味が無い」
獣を操作し、体を縛る紐を切った。
「さて、これからどう動くべきか…」
モニターにはクレアが映っている。
助けに行っても戦力にならない。それは他の連中の元へ行こうが同じことだ。
「もう…疲れたな…」
猛獣の制御に失敗し、大量の犠牲者を出してしまった事件から数年。
戦いが生活の一部になってから、バーネットの心は擦り切れていた。
しかし一年ほど前に復讐に燃える女が来てから、なぜか心が癒されていた。
そしてその女の復讐に手を貸してやろうと思えた。
まあ、その復讐の為にヤバそうな奴らと手を組むのは如何なものかと思えるが。
黒ギルドに身を置いてから、ヤバそうな奴らと多く関わってきた。
今回の連中は特にヤバい。そんな感じがする。
そしてこの作戦に失敗したら危険な目にあうかもしれない。
クレアもテルシオも乗り気だったが、バーネットだけは身の危険を感じていた。
「はは、あいつらの自信が少しでも俺にあったらな…」
そしたらこんなにも擦り切れることはなかったかもしれない。
ふと、あるボタンに目が留まった。
(こんなもの、なんで用意してあるんだ?)
だがこの発見である作戦を思いついた。
「勝っても負けても変わらない」
諦めに近い、だがこのままおめおめと引き下がろうとも思っていない。
「もう、終わりにしよう」
バーネットは決意すると、獣たちを操作し準備に取り掛かった。