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柔と剛

高速で動き回る影が二つ。


その影がぶつかるたびに鈍い衝突音が響く。


その影が止まると、リンシェンとテルシオであることがわかった。


「いい動きだ。だがその動き、強化系じゃないな」


「にゃ、動きでわかるにょか?」


「ああ」


「その通りにゃ、おいらは強化系じゃにゃいにゃ」


「動きの支点を抑えることで力が出せないようにする。

人間の体のつくりと物理的な動きを見極めた攻めだ」


リンシェンの動きから的確にスタイルを分析している。


「おみゃあは頭も切れるんだにゃ、これは厄介厄介」


「お前も即座に見極めている。お互い様だろ」


互いに相手の動きを見極め、最も有効な手での攻防を繰り返している。


「だからこそ実に惜しい。お前が女であることは最も嘆くべきことだ。

女は男より力が劣る。体力も無い。体も脆い。戦いではそれだけ大きな差がある」


「よく言われるにゃ」


「お前が男なら俺の良き好敵手、もしかしたらマンバより優れていたかもしれないな」


「同じ人間でも男と女は別の生き物にゃ、おいらが男だったら今より弱いかもしれにゃいぞ」


「ふっ、面白れぇ冗談だな」


リンシェンとしては冗談ではなかった。


実際、女だから男が選ぶものとは別の選択肢を選んでいる。


女は男より力が無い。だから小さな力で対抗出来るようにした。


女は男より体力が無い。だからあまり体力を使わないやり方を選んだ。


女は男より体が脆い。だから受けるのではなく流すことで身を守る。


なにもやり方は一緒じゃなくていい。その人にはその人に合ったやり方がある。


さらに女は男より体が柔らかい。だから男には真似出来ない動きが出来る。


女は男より変化に敏感だ。だから些細な変化に気付くことが出来る。


「女にだって男が真似出来ないことだって幾つもあるにゃ!」


リンシェンはテルシオに飛びかかる。


しかし動きは見極められ、反撃の拳を出される。


リンシェンは当たる直前に体を回し拳を躱すと、その拳を出す腕を掴み、押し出す。


押し出されたことでテルシオの重心は前に動かされる。


その隙に回りながら背後を取り、後頭部へ向けて蹴りを出す。


しかし頭を下げられ、空振りに終わると、今度は蹴りだした足を掴まれた。


そしてテルシオはその足を掴みながら大きく振り、リンシェンを地面に叩きつけようとする。


リンシェンは即座に掴まれなかった方の足に魔力を溜め、叩きつけに合わせて地面に突き出す。


「うにゃあ!」


足で叩きつけの衝撃を支えると、リンシェンは掴まれた足をそのまま振り回す。


「ちっ!」


掴んだ手を離し、振り回された勢いを使い、リンシェンから離れた。


だがこれはリンシェンの思惑通りの動きだった。


テルシオの体勢が整う前にリンシェンは距離を詰める。


そして殴りにかかったが、間一髪テルシオに弾かれる。


しかし弾かれた勢いそのままに体を回し逆の手で裏拳で叩きつける。


これも間一髪防がれたが、続けて軽く飛び、回し蹴り。


防がれた腕を支点にして逆の足で蹴り上げるがやはり当たらない。


躱されたところで逆立ち状態になったので、両手で地面に立つ。


そのまま足を振り降ろしたが、躱された。


そのまま地に足がつくと、立ち上がり体を回す。


腕を鞭のように叩きつけたが、腕で守られ防がれた。


が、これで死角が出来た。叩きつけなかった腕で手の平で突き刺す。


「ぐっ!?」


初めてまともに攻撃が当たった。しかも腹部。


リンシェンは初めて出来た致命的な隙を見逃さなかった。


すかさず両手で交互に突き続けたが、三発目以降は全て防がれた。


これ以上は無意味と判断したリンシェンは即座に距離をとった。


「ふっふっ、やるじゃねぇか」


「あれだけ打ち込んでこれだけは割に合わないにゃ」


「スピードと奇抜性、柔軟性とも言うべきか?それらはお前の方が上だな」


「そっちも一発の重さ、体のタフさはヤバいにゃ。こりゃ、攻略に時間かかるにゃ」


「ははっ!いいぞリンシェン!もっと打ち込んで来い!叩き潰してやる!」


テルシオはまだ楽しむ余裕があるようだ。


「おいらはごめんにゃ!」


テルシオの攻撃は一発でも当たれば危険だ。


リンシェンの攻防は常にギリギリだった。




○○○○○○○○○○○○○○○




「お前は何で研究者になったんだ?」


リーシャは前からの疑問をリンシェンに聞いた。


「うにゃ?おいらは好きだからなったにゃ」


「いや、そういう意味じゃなくて……

格闘技の才能があるのにそっちの世界に行かず、なぜ研究の世界に行ったんだって意味だ」


リンシェンは正直に言って格闘技の才能よりも、研究や発明の才能ははるかに下回る。、


「うにゃん?好きだからにゃ」


「……てめぇ、うちをおちょくってるのか?」


怒りに満ちた顔でリンシェンの頬を引っ張る。


「うにゃあ!ひたい!ひたいにゃ!」


引っ張る手を叩き、ギブアップを伝える。


「ホントに言葉の意味にゃ!才能があろうが無かろうが、

おいらは研究や発明が好きだからそっちの道に進んだんだにゃ」


「……なんか勿体ないことしてるように思えるな」


「うにゃ?そうかにゃ?」


「そうだろ。せっかく戦えるんだぜ?」


「戦ってどうするにゃ?」


「仲間とか守るんだよ」


「敵がいなくなったらどうするにゃ?」


「備えるんだよ」


「おみゃあ、戦いたいのか?」


「え……いや、そういうわけでは……」


「戦いにゃんてしにゃいで、おいらは好きにゃことを好きにゃだけしたいにゃ」


「その好きな事ってのが研究や発明か」


「うにゃん!」


戦わなければ守れない物もある。でも本当なら戦わなくてもいいのが本音。


いくら戦いの才能があろうとも、それを使わないことがベストであると言うのがリンシェンの考えだ。


「なら、うちはお前の理想からは最もかけ離れた存在なのかもな」


「うにゃ?そうでもにゃぞ」


「え?」


「戦えれば不測にょ事態にも対応出来る。体が強ければ自然災害にも立ち向かえるし、

もしもにょ事態で助けることだって出来るにゃ。要は使い方次第にゃ。

それに好きじゃにゃかったら続けられにゃいぞ。好きだから夢中ににゃれるにゃ」


賢いけどバカなことが好き。難しい事も考えられるが、単純に考えることも出来る。


「……発想の違いか……」


リーシャの実直な考えも、リンシェンの柔軟な考え方も、良い結果に向かえばそれで良し。


才能があろうと無かろうと、それが好きだから続けられる。


リーシャは少しだけ訓練に付き合わせるのを控えようと思った。


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