今度はあたしが
何だろう?初めての感覚が胸から湧き上がってくる。
今までアホな子と思っていた子の言葉を聞いてからだ。
ずっと自分を守ってくれた姉のような存在が逃げることを望んでいる。
強い相手の時はいつもそうだった。
そしてそれは自分の代わりにボロボロになってでも守ってくれる姿を見ることになる。
あたしが力を上手く使えないから。魔道士として未熟だから。
そして家が主従関係にあったから。
あたしの為に必死になって守ってくれる。
でも………
(守られてるばっかりじゃイヤ!あたしも守りたい!)
「これだからアホは嫌いなんですよ」
マンバの目に映る光景は、とても不快で苛立ちを感じさせた。
「ルー……」
ミナは前に立つ姿に驚いた。
「ははは…何やってんだろう、あたし」
自分でもこの行動に驚いている。
「やめろ!ルー!逃げるんだ!!」
「いやよ!!」
ルーはいつもミナの言う事には従っていた。
注意も、厳しい言葉も聞き入れていた。そのルーが初めてミナに逆らった。
「そうやってボロボロになるまで戦って守ろうとしてくれる。そんなミナは見たくない!
だから…だから逃げたくない!あたしも、ミナを守りたい!」
初めて知るルーの想い。だがこの場では命取りな行動だ。
「あのアホに感化されたアホが戦うなど虫唾が走る!アホな雑魚女は逃げ回っていればいいんだよ!!」
「あら、まだ戦ってもいないのに雑魚と決め付けるなんて、勘違いも甚だしいわね。
あなたは預言者かしら?さっき言われたセリフも覚えてられないアホですかぁ?」
「ああ゛?」
マンバの額に青筋が浮かび上がる。
「対峙した相手の力量も測れないアホ女が、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ?」
丁寧な口調から乱暴な口調に変化している。
不快な苛立ちは怒りに変わったようだ。
「ちゃんと測って勘違いしているアホだって言ってるのよ、バカじゃないの?」
ブチッ
完全にマンバの堪忍袋の緒が切れた音がした気がした。
するとマンバの姿が消えた。
いや、高速で移動したのだ。
「速い!」
ミナはマンバの動きに驚いた。
見た目から知恵を働かせて戦うタイプと思っていたが、テルシオと同じ武闘派のようだ。
そして速さで攪乱し、一撃を確実に打ち込むヒットアンドアウェイを得意とする魔道士のようだ。
マンバの攻撃がルーを襲う。
「正面!」
シールドを張り攻撃を防ぐ。
重い。シールドにヒビが入った。
直接受けるのは危険だが予想ほどではない。
そして拳で殴る攻撃を使ってくるようだ。
身近な人間で言うとリーシャと同じタイプ。
だがリーシャより攻撃は軽い代わりに、素早い動きは彼女を超えるかもしれない。
ちゃんと手合せしたことが無いので正確に比べることは出来ないが、そんな印象を受ける。
さらに連続した攻撃が襲う。
「また正面!?いや、シールドの破壊が目的か!」
連続で受けるとさらにヒビが入る。
そして少し後ろに押されている。
破壊されるのも時間の問題だ。
「おらおら!デカい口叩いたわりには、大したことねぇなあ?ああ!?」
マンバは暴言で挑発する。
だが今のルーには効果が無いようだ。
(ルー!何をしている!)
何も出来ていない。だがそれはミナも同じだ。
ミナの使う魔法は爆滅浄化。中距離での戦闘で力を発揮する魔法の使い手。
そしてルーは砲撃が得意な魔道士。
接近戦が得意で動きの速い相手とは相性は最悪だ。
ミナも目で必死に追ってるが動きを捕えることで精いっぱい。
とても狙いをつけて魔法を撃ち込める相手じゃない。
早く逃げないと。しかしこんな相手から上手く逃げる方法がわからない。
焦る気持ちを抑える。
ルーのあんなこと言った心境の変化は嬉しい。
でも今はそんな悠長な状況じゃない。
そして戦い方も変だ。いつものルーの戦い方じゃない。
いつもは砲撃を撃ちまくるが、今回は一度も撃っていない。
むしろジッと堪えて何かを狙っているような戦い方だ。
だが今のルーの実力では耐えられない。
「ああ!」
ルーのシールドが破壊され後ろに大きく吹っ飛ぶ。
「ルー!!」
この瞬間をマンバは逃さない。
「力の差もわからねぇアホが出しゃばるからこうなるんだ!!」
猛スピードでルーへ突っ込むマンバ。
「!?」
ミナは動けないことに驚いた。
いつもならルーを守ろうと体が動くはずだが今回は動かない。
完全に戦いから逃げようとする姿勢が、いざと言う時に動かす指示を聞かないようになっていた。
ただ座り込んでいるだけの体を見ると最悪の想定が頭に浮かんだ。
「ルー!!逃げろ!!」
ミナは力一杯叫んだ。
「はあ!!」
ルーの叫びと共にマンバの攻撃は弾かれた。
「新しいシールドか!ふざけんじゃねぇ!!」
マンバは再度シールドに攻撃を仕掛ける。
今度はさっきよりも堅い。
「守ってばかりじゃねぇか!戦いやがれ!アホ女!!」
「アホアホうっさいわね!それしか言えないの!?バカじゃないの!?」
マンバはさらに青筋を増やす。
「死ねぇぇ!!」
さらに怒りの増した攻撃がルーを襲う。
(おかしい)
ミナは違和感を感じた。
今回のルーはなんだかわざと相手を怒らせるように挑発しているように感じた。
いつも相手を見下すようなことを言うが、今回は完全に格上。
ただ相手を怒らせるだけの物言いになる。
らしくない戦い方だ。
(何を狙っている?)
ミナにはルーの狙いがわからなかった。
連続したマンバの攻撃に、新しいシールドにもヒビが広がる。
そして………
パリン!
二つ目のシールドは破壊された。
「もう作らせねぇ!死ねぇ!!」
マンバの渾身の一撃がルーを襲う。
逃げる余裕も無い。
「ルー!!」
ミナの叫びと共にマンバは上に吹っ飛ばされた。