邪教のお話2
答えない二人にしびれを切らしてダリが確認するように言った。
「つまり倒し方がわからないのか」
二人は顔を見合わせたまま、お互い覚えている知識を振り絞りながら話し始めた。
「たしか……文献では悪魔に操られた人々を解放することで救済をした」
サーシャの言葉にエリオットは頷きながら答えた。
「はい、今回と少し似ているのが気になりますが……確か、魂の契約をしている者は消滅したとありましたね」
「悪魔の使いを倒し、この世界の平和が保たれたと書かれていた気がします。悪魔の使いを見つけて倒せば良んじゃ?」
「いえ、使いは悪魔と契約した者です。悪魔が世界に手をかけ、穴を開けたのが今の悪魔の穴と呼ばれる陥没地帯ですよ」
「あぁ、そんな場所ありましたね」
エリオットの言葉にサーシャは有名な深い穴が空いている樹海を思い出した。小さな町が一個入るくらい空いた穴の中の底は深いが、中に水が流れ込み、閉ざされた自然ができているのだ。
今では階段が作られて観光できるようになって入れるが、とても長い階段を降りないといけないため、観光客は物好きな人しか来ない場所でもある、というのは余談だ。
「ということは悪魔が降臨した?」
クッキーの位置を変えてサーシャが言えば、エリオットは別のクッキーを手にとって言った。
「その可能性が高いかと、ちゃんと調べる必要がありますね。確か、その戦いの後に流転の女神が他の世界の悪魔を調べ、時の聖王に伝えたんですよ」
「なるほど。んーということは、もしかしたら禁書館の本を調べたほうがいいかもしれないですね。ちゃんと記録してあれば、倒し方が載ってるはずです」
「そうですね、本寺院の人たちに文献を調べてもらいましょう。まぁ、こちらの図書館も一応調べましょう。意外に紛れていたりしますから」
エリオットの言葉にサーシャは嫌な顔をした。どういうわけか歴代の神使いは偏屈な人が数人必ずいて、禁書館に資料を置いておいてくれれば良いのに、他国の図書館に紛れ込ませていたりするのだ。
「はぁ〜図書館通いか」
話し合いが終わったタイミングでダリが口を開いた。
「それは俺たちじゃ手伝えないな。神使いにしか読めないっていう例の本だろ」
その言葉にサーシャは嫌そうな顔をした。神使いにしか読めない本とは”基本”神使いにしか読めない本といったほうが正しい。正確にはどれだけ信仰心が高いかで読めるか読めないかが決まる本だ。
しかも、一見普通の宗教本なのに、適正者が触れると謎かけが目次にしれっと付け足される本のため、適正者じゃないものと一緒に触れないと見分けがつきにくい。
そしてその謎を解くと、書いた神使いが残した内容が観れるという。誰かが思いついた面倒な仕掛けになっている。
この中での適正者はサーシャ一人だけ。
「ですねー」
「はい、その手の本の法術は複雑なのでサーシャにしか出来ません」
エリオットの言葉にサーシャは机に突っ伏した。それは叫ばないためでもあった。法術は複雑ではないと、だがここにいる二人は神官ではないため、その意味の重さがわかっていない。
法術が効かない、もとい弱いということは信仰心が少ないといっているようなものだ。
マナ貯蔵庫であるエリオットは今だに信仰心が薄いのかと呆れると同時、それ以外は努力によって得ているのでなんとも言えない気持ちになるのだ。
もちろん、本人は信仰心が薄いなんて認めていないが、他の神使い達は気づいている。神使いにしか読めない本が読めないという時点で、本来は神使いに選ばれない基準なのだが……。
「そうですねー……。エリオットは真面目すぎるんですよ」
サーシャの後半の言葉は誰にも聞き取れずゴニョゴニョと不平をつぶやいたようにしか聞こえなかった。
神という存在に疑心暗鬼のまま力をつけてしまったのがエリオットだ。しかもマナ貯蔵庫と言われるほどの力を持っている故に、信仰心をもっと持てば強力な神使いにもなれる。
だからこそ、聖王は相棒としてサーシャをつけたのだろう。意図は分かっているが、こればっかりはサーシャにもお手上げだ。
エリオットは拗ねたように見えるサーシャをほっといてルースに告げた。
「護衛はルースがいいでしょうね」
「はい。よろしくお願いしますね。サーシャさん」
「ほいほーい」
サーシャは諦めたように起き上がり、面倒そうに懐から小さいスケジュール帳を開いて、授業の休みの日にどこに行くかルースと話しあった。
エリオットは手紙が光ったため、そちらに目を通していた。
手紙は、神の木と呼ばれる木から取れた繊維で作られた紙で出来ており、遠く離れた人に言葉を送ることができるのだ。起動方法は登録されたマナの人のみが書き込み送ることができるため、不正利用ができない仕組み。
「どうやら、聖王も気にされているようです。星の動きがおかしいと」
「不穏ですね」
とりあえず教典やら歴史書が多く置いてある場所で一番近いのはこの学園内にある図書館だ。平日の空いた時間は図書館に篭り、夜は邪教徒潰し。
「まだまだ暇な時間は作れそうにないですねー」
「そうですね。他の神使いからも返事が来ました。どうやら邪教徒がこの国に集まってきているようですよ」
「それは……もう何か起こす気満々じゃないですかぁ」