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邪教のお話

 授業の道具を片付け、二人は自分たちが住む屋敷へと戻っていた。エントランスには満足げにダリが立っていた。

「吐いた?」

 サーシャが聞けば歯をむき出しにして親指を立てた。

「おうよ!」

 その様子にエリオットは苦笑しつつ言った。

「では報告を聞きましょうか。ついでにお茶も」


 休憩室に移動し、ダリがお茶の準備をしているとルースが手を拭きながら、にっこりとお疲れ様ですと言いながら入ってきた。

「お疲れ様〜」

「裾が汚れていますよ」

 エリオットが指摘した茶色のズボンの裾は黒くにじんでいた。

「おっと失礼いたしました」

「神慮めでたく 浄化浄化〜」

 サーシャがすかさず法術を唱えると汚れは消え、一瞬臭った血なまぐささも消えた。

「ありがとうございます」

 ルースはお礼を言い、エリオットは顔をしかめた。

「まったく……そんな簡単に法術を……」

「信仰心ですよ。信仰心」

 サーシャはニッコリと微笑みながら、ダリが注いだ紅茶を口にした。

 サーシャの言い方にエリオットはムッとしながらも、同じくダリが注いだお茶を一口飲み落ち着いた。


「あはは、では報告しますね」

 ルースは慣れたのもので、二人の雰囲気を気にせずに昨日捕まえた異教徒から吐き出させた内容を伝えた。

 異教徒の教団はまた人数を増やしつつあり、潜伏先もこの区域に存在すると掴めたのだ。壁に地図も広げられて、潜伏場所に赤いピンをつけていく。どうやらこの学び舎にも仲間がいるとか、そして、異教徒の崇拝するのは異界の神とかいう、モノだというところまで判明した。


「異界の神ですか。前までは転生した神だとか、戻ってきた神だとか言いながら、邪を撒き散らして崇拝してるものが多かったですが、とうとう異界の神ですか……」

 エリオットは頭を抱えた。異界の神と名乗るものなど今まで出くわしたことがなかったのだ。

「ふーん。まぁー変わらず、邪神を崇拝してるってことでしょ」

 サーシャはダリが差し出したクッキーをつまみながら呑気に返すと。


「異界の神イブリースを主神に祀っているそうです」


 その言葉にサーシャとエリオットの動きが止まった。

「イブリース……」

 その名はどこかで聞いたことがあるのだ。聞き流してはいけない名のはずだと、サーシャは記憶の彼方にある名前を探しているとエリオットがすぐに答えを出してくれた。

「確か……異界の悪魔の一覧にいた気が」

「それだ!」

 思わず手に持っていたクッキーを握りつぶしてエリオットを指差したサーシャに、エリオットは嫌そうに飛んできたクッキーを払った。

「ごめんごめん」

「少しは綺麗に召し上がってください」


「かーまじかよ。異界の悪魔かよ!」

 ダリは面倒そうに大きなため息をつきルースは小さな教本を取り出し調べて言った。

「なるほど、流転の女神が聖王にお伝えしたといわれる悪魔一覧ですか。確かに存在してますね、閲覧してみたい」

「無理ですよ。神使いにしか閲覧が許されてないです、それにしてもイブリースかぁ」

 サーシャはぐったりと机の上に突っ伏した。

「聖王にお伝えしなければなりませんね。それに他の神使いにも。他国の潜伏先の情報とも交換しないと」

 エリオットは早速文箱を取りに部屋を出ていってしまった。


「ったく。どうしてこうも狙われるんだよ。この世界は」

 ダリは自分で入れたお茶を飲み干すとサーシャを見た。

「それは、やっぱり幼い神が一つの世界を治めてるから狙いやすいんでしょ……全能なる神の娘といえど、他神々や悪魔からしたら赤ちゃんみたいなものだし、半分人間でかつ一度人間に殺されてるから弱いんですよねー」

 サーシャはそう呟いてからお茶をすすった。

「それよりも……悪魔ですよ」

 サーシャの言葉の続きをいうかのように戻ってきたエリオットが言った。


「全くです、困りましたね。悪魔は過去に現れていますが、その時は人々を使って全面戦争を仕掛けてきたとあります。ですが、今回は邪教徒を作り内側から壊していくつもりでしょう」

 そう言いながら、文箱を広げ手紙を書き始めた。サーシャはそれを眺めながらまたクッキーをつまんだ。

「ですねー……悪魔は厄介ですよー強いですよ」


「そうなのか」

 ダリが不思議そうに聞けば、エリオットが答えた。

「えぇ、悪魔は対価が必要でが、その対価が問題なんです」

「「対価?」」

 ルースも思わず声に出していた。エリオットが真剣に文字を書き始めたのを見て、その続きはサーシャが受け持った。

「対価は基本、魂なんですよー。本人達が知らずに支払い願いを叶えて貰っている場合が多いですねー。時々理解していてやる人もいますが。まぁーなに分魂なので、かなりまずいですね〜」

「そんなにすごいのか?」

「はぁ、魂が対価よ。マナは生命力。生きていくためのエネルギー。逆に魂はそのエネルギーを作る核。マナや信仰よりも強い。命の炎を全て使うんだから100年生きるものの魂だった場合、100年分のマナと信仰を奪うのよ。延命以外であれば、なんでも叶えられるでしょ」

「おぉう」

「それは凄い」


「じゃー何か、世界一強くなりたいっていうのも叶うのか?」

 ダリが冗談で言えば、サーシャはさらりと答えた。

「叶うわ。願った人より強い奴ら全員殺せば、それは叶うもの」

「うぇ?!」

「悪魔への願い事ってそういうことよ。そして叶ったら即、魂が回収される。つまり輪廻転生の輪にも入れず悪魔の胃袋の中ってこと」

「「うわぁ…」」

 二人とも嫌そうな顔である。サーシャはパクリと残りのクッキーを口に含みお茶を飲んだ。魂が輪廻転生ができないという事は消滅するということだ。魂は全て輪廻転生する。この世界の神が定めた決まりごとだ。

 だからこそと、時々前世の記憶を持ったまま転生した人もいるのだ。

 大抵寺院に所属するが、そのまま今の人生を楽しむ者もいる。


 だが、それよりも問題なのは、寺院の経典に書かれている内容だ。

「魂が減れば信仰も消える。信仰が消えれば、神の力も弱まる。神の力が弱れば世界も弱くなる」

 だからこそ、流転の女神なのだ。全ての魂を潤滑させてこの世界を回している。新しい魂はできず、時々外から魂がやってくると言われている。つまり、減ればそれだけ神と世界が弱まる。


「んー神様なのになぁ」

「言ったでしょ。全知全能なる神ではないのよ。この世界の神は」

 ちらりとエリオットの手紙を見れば書き切ったらしく手を添えて法術を唱えていた。淡く光輝いた文字はそのまま神に吸い込まれて消えていく。


「相変わらず速筆で綺麗な文字ね」

 思わずサーシャが言えば。

「あなたは字が汚すぎです」

「ゆっくり真剣に書けば綺麗に書けるわ」

「それでは遅いでしょ」

 お茶を飲み干すエリオットを眺めながら、サーシャは後ろにある地図をなんとなしに見る。

「結構潰したと思ってたのに、まだまだあるのねー。今夜も仕事でしょ?」

 行儀悪く肘をつきながらサーシャが言えば。ダリとルースはエリオットを見た。このメンバーの指揮官はエリオットなのだ。


「当たり前です。この国は邪教徒が多いです。まぁ、洗脳されたものが当初は多かったので、頭を潰せば終わるかと思いましたが。幹部とおもしき人物が多いですからね」

 エリオットの言葉にサーシャは深いため息をついた。当初は1年で終わらせる予定だったのだ。なんてったって、マナ貯蔵庫のエリオットと法術に長けているサーシャがタッグを組まされて派遣されたのだ。

 街のあちこちにある寺院での浄化を行い。洗脳を解除するようにドカドカと法術を撒き散らして、洗脳者をあぶり出そうとしたのだが。

「洗脳者をとっ捕まえたのに自殺されちゃったもんねー」

 見つかった邪教徒の洗脳者は、捕まえたと同時に舌を噛み切ってしまったのだ。それ以来、洗脳された邪教徒は現れなくなったが代わりに、邪香が巻かれ始めるという問題が起きていた。そして、捕まえた人物たちは洗脳ではなく、自分の意思で動いているものばかり。

 若者に信仰心を強くさせようと思うもエリオットでは女子生徒ばかり人気で信仰心の浸透具合も怪しい。


「そうですね。ですが、洗脳者が現れなくなっただけマシです」

「はぁ、早く本寺院に帰りたいです」

「なぁなぁ、それでどうやって異界の悪魔っていうのを倒すんだ?」

「「……」」

 ダリの質問にサーシャとエリオットは顔を見合わせた。

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