星
サーシャはまたあくびを耐えている状態だった。何よりも今日は神話と授業内容を伝えればもう終わりのはずだがエリオット目当ての女子生徒が多いため質問が終わらない。
それにしても、相変わらず女子生徒に人気で、エリオットはうざいなっとサーシャは思わず心の中でつぶやいた。本来なら寮長が新入生を各授業の場所へと連れていく日で、他の上級生は休みなのだが、関係ない上級生も寮長にくっついてきていた。
若い生徒達にとって、教師の中では若い男性であるエリオットは魅力的に見えるようだ。しかも寺院関係者。去年も女子生徒の悲鳴が上がっていたものだ。
「エリオット教授のお声が素敵。やっぱりかっこいいですよね!」
「エカテリーナ様のお手伝いをさせていただいて正解でした」
「私のお手伝いはついでだったのね、キャリー」
「ち、ちがいますよーエカテリーナ様〜」
「ふふふ、わかっているわ」
こそこそと会話する上級生の声を聞きながら、サーシャは小さくため息をついた。
「……未来の王族のも大変ね」
ここの新入生担当の寮長は、第二王子の婚約者エカテリーナだ。公爵家の娘らしく気品ある姿はまさしく「高貴さは義務が伴う」という言葉が合う、模範的な生徒だ。本人の努力も相まって、女子生徒からの人気も高い。
何より本人も努力家なのを去年から知っている。女性教師からの賛美も凄い、その分一点の曇りない生活をしないといけないのだから大変だろう。常に羨望の眼差しをうけ、二十四時間、誰かしらに見られ続けているのだから。
「歩く見本なんて、私には耐えられないわね……」
サーシャは思わずエカテリーナを見ながら口にしていた。
今も周りの生徒達のエリオットへの賛美に頷いているくらいだ。一年生達はそのひではないほど興奮しているが。
「エリオット教授って素敵ー。お兄様が宗教のお話はおじいさんが担当してるって言ってたけど違ったわ」
「エリオット教授は去年からだそうよ。先輩達がおっしゃってたわ!」
「きゃーそうなんだー!やったー!」
「モノクルつけてらっしゃるけど、若いよね!」
「うんうん。サーシャ副教授も若いですよね、お二人はお付き合いされてるのかしら?」
「それ、聞いちゃダメよ。上の学年の方が聞いたら、お二人とも嫌そうなお顔をされたとか」
「そうなの?」
「えーなんででしょう〜」
思わず聞こえた内容にサーシャの眉間にシワがよったが、上級生達が急かし始めた。
「こらこら、1年生の皆さん。次の授業に遅れるわよ」
「「ぁ!エカテリーナ様!」」
「そうよー、一年生達、エリオット教授は素敵でしょーわかるわ、でも次の授業の教授はおじいさんで厳しいのよー」
「こらこら、一年生を怯えさせない。まぁ、厳しいは事実なので、急ぎましょうね」
「はーい」
上級生の言葉に、笑顔で答える一年生達はまだまだ興奮冷めやらぬ様子、何よりエカテリーナに声をかけられたのが嬉しいのか、話はそっちに変わっていっていた。
エカテリーナ達は一年生達を連れて寺院を出ていくのを眺めながら、サーシャは背中に視線を感じていた。
「なんですか?」
振り返ればエリオットがジト目でこちらを見ていた。最後の生徒が出て行けば二人っきりだ。
「助けてくれませんでしたね」
「何がですか? 相変わらず女子生徒に人気ですね〜」
この顔のせいで女性問題によく巻き込まれているせいかエリオットは女性達に囲まれるのが嫌いらしい。本人は口にしないが、長く一緒にいるためにわかるようになってしまったサーシャだった。
「どうしてそちらに移動してるんです?」
「お邪魔のようだったので」
「そういうことは得意ですよね!」
少しご機嫌が長めの様子だ。サーシャは授業の途中、自分の出番が必要なくなれば、生徒達の後ろに移動する。面倒な質問から逃げるために、それはいつものことなのだが……。
「まぁまぁ、今日の授業はこれで終わりですし」
「そうですね。……サーシャはエカテリーナが気になるのですか?」
「え?」
「じっと見つめていたので」
「あぁ、大変だなーって思って見てただけですよ。星を持っていると、苦労が絶えないのだろうなぁっと」
「聖王がお認めになった星持ちですからね」
星持ちは人よりも運命が特殊な人のことを指す言葉だった。それは寺院の高位のものしか見ることができないもの。後光が見えるという言葉から星持ちと言われるようになったのだが。
持っているだけで、王族と結婚できるだけでなく、一般時であれば寺院に入りそれなりの地位も得られる。
窓の外を見れば、彼女の婚約者である第二王子が見えた。彼も寮長だ。一年生達を連れて歩いているが、女子生徒が彼の腕に絡まりついている。
「また、愛人を連れてますよ」
サーシャが言えば、エリオットも横に並んで一緒に窓の外を見た。
「はぁ……これはまた堂々と連れてますねぇ。義務さえ果たしていただければいいのですが」
「貴族の義務ねぇ……あの王子は果たせるんでしょうか?」
「王子が貴族の義務を果たせなければ……まぁ、周りがなんとかするでしょうが。そういえば、彼も一応星は持っているのですよね?」
「最近は陰っているとか……まぁ、我々には関係ありませんね」
サーシャの目には薄くしか光っているように見えない。新入生の時にはまだましな光かただったのい今ではもう消える寸前だ。
「……そうですか」