蠢く闇3
「なんとかなりましたね」
「えぇ、本当に。エリオットのサポートのおかげでなんとかなりました」
先ほどまであった淀んでいた空気は消え去り、幾分周りも明るくなったように感じられた。建物からは歓声の声がいまだに響き、エリオットが手を触れば女子生徒たちから黄色悲鳴が上がる。
「また、お手紙が増えちゃいますね」
「人気が出ると言うことは良いことですよ」
エリオットの返しにサーシャは肩を竦めた。
この学院の警備や医療従事者の者達から状況を共有すると既に部屋を確保し、生徒のケアを始めていた。サーシャ達は、聖職者として生徒達が浴びてしまった穢れを落としていく、逃げている最中に怪我を負ってしまったものは看護師が治療を、と慌ただしく分配しながら生徒達をケアしていれば午後はあっという間に過ぎ去ってしまった、気がつけばもう陽は傾き、空の赤から紫へと綺麗なグラデーションがかかっていた。
「はぁー疲れた。法力がある子達も手伝ってくれたけど、結構な人数が穢れを浴びていたわね」
「えぇ……。あの広場を短時間であそこまでの人数が通るとは思えないのですが……不可解です。それと、今日の授業はまるまる潰れてしまいましたから、振替授業を用意しないといけないですよ」
「うげ、休日が潰れるー?!」
「えぇ、生徒もですが」
「はぁ……仕方ないとはいえ」
二人は同時にため息をついた。後ろに控えていた護衛騎士の二人は、警戒しながらついているが思わず吹き出してしまった。
「お二人さん、忘れてるようだが。寺院にも報告しないといけないんじゃないか?」
ダリの言葉に二人は振り返って叫んだ。
「「あーーー確かに」」
「どっちが行く? 今日中に行ったほうがいいだろう?」
「そうですね……俺が行きます。サーシャ」
「わかってるわ、結界を強化しとく。行き帰りに気をつけて、第二王子は校舎内にいなかったらしいから、何か仕掛けてくるかも」
「わかりました。それじゃルース、行きましょう」
「はい」
サーシャたちはそこで別行動になった。ダリとサーシャは自分たちが住まう屋敷に戻ると、早速結界を強化し、部屋に待機していたロメリアとチェインに今日の報告と確認をした。
「騒がしいと思ったら、そんなことが起きてたんですね」
「やっぱり俺もいけばよかった!!」
「ダメに決まってるでしょ! 彼女の護衛を任されてるんだから! それに暗殺者も来たじゃない!」
「ほーい。でもあんなやつ、素人もいいところだったぜ」
「クルエリオが強かっただけでしょ! 全くもう! 戦闘では私たち役立たずなんだよ!」
「そんなことねぇーよ」
「はいはい、喧嘩はしないの、それで、彼女は落ち着いた?」
サーシャの問いかけにロメリアが姿勢を正して答えた。
「はい、今は寝ています。まだ精神的には不安定のようですが、だいぶ顔色は良くなっています」
「そう、よかったわ」
お互いの報告が終わり、夕飯の準備をしているところでエリオットたちが戻ってきた。やはり道中襲われたらしいが、撃退してそのまま寺院の地下牢にぶち込んだそうだ。
寺院の方では報告を聞いて大騒ぎになったらしい。学園での出来事を信じられないもの達はエリオット達に「混乱を招く嘘だ」とか「王子を陥れる気か」とか詰め寄ってきたらしく、ここの寺院では政治的な派閥があるようで、とりあえず聖王派のもの達が協力的に動いてくれたので、戻って来れたそうだ。
「あれは賄賂を受け取っている可能性がありますね」
「それは別機関が調査するでしょう」
エリオットが報告書に大きく書いてるのを横目で見ながらサーシャは、叩けばまだまだ埃が出てくるかもしれないなと思いつつも、とりあえず大きな問題を片付けなければならないと思った。埃を片付けるのはまたそれ専門の部署が行う事だ。
まだまだ派閥や寺院と国との関係に疎いチェインはイライラした様子で言った。
「もうさぁー、ここまで第二王子が犯人ですって感じなんだから異端審問に呼び出せねぇの?」
「チェイン、無理に決まってるでしょ! 王子なんだから、物的証拠を用意しないと! 貴族の反発もあるだろうし周りの国からの心象もあるわ」
「でもよーロメリア」
「でもじゃない!」
「そうそう、ロメリアの言う通りよ。権力を振り翳しすぎても、寺院への反発がおきるだろうし。正当性を見せないといけないのよ」
「えーサーシャまで……めんどくせぇー」
天を仰ぐチェインにエリオットが小さくため息をつきながら「それが政治ですよ」と小さく呟いた。
「バッとやってバッと解決ってしてぇーのにぃー」




