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転生神子(てんせいじんご)  作者: siro


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蠢く闇1

 学園では、エカテリーナ不在のためにジェモン王子の横暴さが増していた。寺院への明らかな差別発言から、エカテリーナの派閥に属していた人々へのいじめに近い嫌がらせなどが起き、学園側が対応に追われる日々が続いていた。


「退学にさせたい」


 思わず呟いたサーシャにエリオットは大きなため息で返事をした。


「王が動ければできるんですがね、あまり大きく動くと危険すぎます。足の骨を折ればいけますかね」

 小テストの用紙に書かれた暴言に赤いインクでバツを書き込みながら、小声で「いや頭に怪我をさせれば、それを理由に病院送りにできるか?」などとブツブツ言い出した。


「おいおいおい、途中からサーシャよりも物騒になったぞ!!? エリオットもおちつけ?!」

 壁のように立って見守っていたダイが思わず突っ込みをしてしまった。

「えーめっちゃ良い案じゃん! ちょっと法術でばしっとね」

「いいですね!」

「お前らおちつけって、そんなことした時点でお前らが学園から追い出されて、寺院と国の全面戦争になるだろうが!」

「ちぇー」

「はぁーですよねー」

 二人はふてくされたように返事をしながら提出された書類に視線を戻した。エカテリーナが行方不明といえど、授業は続いているため仕事は変わらずあるのだ。


「それにしても、敵はどう動くつもりかしら? エカテリーナはまだ敵の手にも落ちていない様子だし」

「そうですね、噂話は潰しているといっても、敵対する派閥にはいい餌な状態で消える様子はありません。ですが、そろそろ問題を起こしても良い頃合いかと。」

「やっぱりそう思うー?」


 二人が予想した通り、事件はその数日後におきた。

 ジェモン王子が校内の広場で、珍しいものを手に入れたと派閥の生徒達にある物を見せびらかしはじめたのだ。広場といっても、他の生徒も行き交う場所のため、固まられると邪魔である。

 他の生徒達は不愉快そうにしながらも、注意する勇気もなく避けていくものや、教授達に知らせる者もいた。

 そしてその生徒の一部は、エリオット達のもとに駆けつけていた。

「エリオット教授、また王子が騒いでいるのですが」

「エリオット教授! 王子が変なものを持ち込んでいます」

「エリオット教授!」

「皆さんおちついて!」


 次から次へと報告しに来る生徒の様子に、エリオットとサーシャは顔を見合わせた。今までもジェモン王子が問題行動を起こしていたが、ここまで報告しに来る生徒はいなかったのだ。


「何か嫌な予感がするわ」

「見に行きましょう。すみませんが、次の授業は遅れると誰か伝えてもらえますか?」

「はい、私が連絡します」

 次の授業に参加する生徒が手をあげて教室へと向かった。

 エリオットとサーシャは生徒達には次の授業へ行くように伝えて、現場へと急いだ。


「変なものってなんでしょう?」

「報告に来た子達は皆、法術が一定基準を超えた子達だったわ。その子達がおかしいと思うものは?」

「邪教関連でしょうか」

「だと思うわ。そうじゃないことを祈るけど」


 広場を見渡せる二階のテラスに二人が到着すると、そこにはすでに数人様子見をするために来た生徒達がいた。

「エリオット教授だ」

「教授、王子が」

「皆さん、もう次の教室へ移動してください」

「散った。散った!」

 サーシャが手を叩いて生徒達をテラスから追い出すと騒がしい広場を見下ろした。そこにはかなりの生徒が集まっていたが中心に王子はいなかった。

「あれ? いない?」

 エリオットは胸元から取り出した単眼鏡を伸ばしのぞいたで集まっている生徒達をみた。

「中心ではなく少しずれた場所に王子は移動していますね、中心にいる子は……留学生ですね。何か黒い卵のようなものを持っていますよ」

「なんか変なオーラが出てきてるわね……ルースいる?」

「はい、こちらに」

「ダリを呼べるかしら?」

「今の時間なら大丈夫でしょう。チェイン達が護衛として屋敷にいるはずです」

「すぐに呼んできて」

「あ、でしたら。銃も一応持ってきてもらえますか?」

 エリオットがすかさず言うと、ルースはわかりましたと言ってその場から去った。


「さて、どうしますか?」

「王子が怪我するなら見てるだけ、生徒が傷ついたら助けますかねー」

 サーシャは手すりに寄りかかりながら、注意深く集団を眺めた。エリオットはまた単眼鏡で生徒が持っているものを見た。

「ん? 卵のようなものが先ほどよりも大きくなっている?」

「え? んー……マナを吸わせているみたいね」

「魔道具でしょうか?」

「魔道具って感じじゃないのよね〜」


 何か留学生が言ったらしく、歓声があがった。その様子に王子は満足げに頷くと卵に触れ、マナを注ぎ始めた。

 脈打つ卵をみなおもしろそうに見つめながら、次は周りの生徒達が触れ大きくしていく。


「これは……」

 エリオットは思わず単眼鏡を覗くのをやめてサーシャを見れば、サーシャもこちらをみていた。

「やばそうね!」

「ですよね?! もしや」

「呼ばれて飛び出てダリさまだー!」


 二人の間に割って入ってきたダリに思わず二人は思いっきし頭をはたいた。

「いてっ!」

「ふざけてる場合じゃないわよ!」

「そうですよ!」

「なんだよー、急いで来たっつうのに! ほい、銃もってきたぜ」

 エリオットに銃と弾丸を渡したダリは広場を見下ろした。

「わーなんかやばそうなの持ち込んでるな」

「そうなのよ!」


 ちょうど、他の教授が騒ぎを聞きつけて生徒達に何か注意している後ろ姿が見えた。それに対し、王子は「ふざけるな! 俺は王子だぞ!」と叫び教授の静止もきかずに突っかかっていた。

「あれは、デンホルム教授ですね、社会科の」

「彼は中立派よね。止められるかしら?」

「無理そうですね」

 周りの生徒達も教授に従わず騒ぎ、ブーイングの嵐だ。もう限界だろうとサーシャが手すりに足をかけた瞬間、王子が大きくなった卵のようなものを持ち上げ地面に向かって投げて割ってしまった。


「「え」」


 割れた卵からは黒いもやが吹き出し、周りの生徒達は驚き戸惑いながら距離をとっていた。デンホルム教授は「退避しなさい!!」と叫び一目散に逃げ出している。

「逃げ足早いな、あの教授」

「感心してる場合じゃありませんよ! サーシャ!生徒が残されているですから!」

 見れば、驚気固まった生徒がまだ多くいた。そして黒いもやしだいに獣のような形をつくり、見上げる生徒に向かって咆哮をあげた。

「穢れだわ! あなた達!!早く建物の中に避難しなさい!」

 サーシャが声を上げると、気づいた生徒は走り出した。だが、それに気づいた獣とかした穢れは襲いかかってきたのだ。

「神慮めでたく 風よ足かせになれ」

 サーシャが祈ると、獣の前に小さな竜巻がおき、その牙は生徒に到達せずにすむも、手で薙ぎ払われ消されてしまった。

「エリオット! 結界をお願いします。銃でとりあえず、獣の足止めと構内への侵攻方向に壁的に」

「わかりました」

「ダリは、私と。ルースはエリオットの補助」

「「了解」」


 サーシャが指示を出したところで、また下から悲鳴があがった。見れば獣が一頭大きく膨らみ生徒を飲み込もうとしていたのだ。

「ちっ。間に合わない…… ならば、 神慮めでたく 風よ 纏え 杖を運び 幼い子らを守れ」

 そうサーシャが叫びながら杖を勢いよく広場へと投げ入れた。


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