表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生神子(てんせいじんご)  作者: siro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/37

闇が心を喰らうとき光もまた現れる

 頭が割れるような痛さ、そして顔にかかる生暖かいものに不快感が沸き起こる。ずっと、長い夢を見ていたようだ。

 振り返ると知らない自分が何かを読んでいる。それは小説で、この世界を描いた話。

 このままでは公爵令嬢は、無実の罪を着せられ、その怒りで本当に邪神を呼び出してこの国を滅ぼしてしまうのだ、そしてアルベルトは止められずに戦死してしまう。

 たった一人になった侯爵令嬢自身も邪神に飲み込まれてしまうのだ。この世界を救うのは王子と聖女の女。あんなにひどいことをした連中が勇者になるのだ。到底受け入れられない内容に読んでいた本を破り捨てた。


「だめだ、助けないと」


 前世の記憶だと何故かすんなりと受け入れられた。前世では大学生で、アウトドア好きが高じて、サバイバルゲームにまで手を出して遊んでいた俺なら、この状況から打破できると確信していた。


「まずはあいつらを打ちのめさないとな。法術なんて神頼みの力なんかよりも魔術の方が効率がいい、なにより戦えるようにまずは鍛えないと」


 馬車を操りながらアルベルトだった男はぶつぶつと呟いた。


「やっぱり山籠りで修行だよな。エカテリーナ様ほどのマナを持っていたら魔術だっていける。それに現代の知識があれば最強だろう! ゲリラ戦術を使えば、あんなガバガバな警備も抜けられる。バカ王子どもを見返してやる、公爵家をなめるなよ!」

 爛々とした瞳でアルベルトは叫んでいた。

 エカテリーナならば、魔術だって扱えるし体術を教えれば何があっても対処できる、なによりも今のアルベルトは欲しいと思ったもの武器を具現化できるようになっていた。さすがに前世の世界の武器は無理でも、この世界で見てきたものは出せるのだ。

「ボーガン!!」

 そう叫んだけで、公爵家で使用していたボーガンが手に現れたのだ。

「いける! いけるぞ! 公爵家の平和のためにいざ!」


 アルベルトは驚くエカテリーナを連れて、山の中にある猟師小屋を見つけると、そこで修行をさせることにした。今公爵家に戻っても王子達が待ち構えているのだ。

 まだ事件を知らない公爵はエカテリーナをすぐに引き合わせてしまうだろうと予想していた。物語では、そうなのだ。

「こんな山奥でどうするきなの?」

「ここで修行します。あいつらに対抗するためにも!」

「何を言っているの! 早く公爵家に帰らないと!」

「戻ろうとしても無理でしょう。ここであなたを鍛えてから公爵家に戻ります。公爵家に貴方がいなければ、王子だって何もできやしない! 全部俺に任せてください!」

「なにを馬鹿なことを……」

「バカとはなんだ!!」

 思わずアルベルトはエカテリーナを叩いた。

「サバイバルの知識を伝授するんだ、俺の言うことを聞け! じゃなきゃこの森で獣たちの餌にでもなりたいのか?! もう戦は始まってるんだ!! 王子たちが公爵家に仕掛けてきた! そうだろ?! 婚約者であるエカテリーナ様を捕らえようとしたんだ!婚約破棄までして!」

「……」


 慄くエカテリーナを尻目にアルベルトは、ただ熱く自分の持論を語りエカテリーナに頷かせた。ドレスを破き、騎士のズボンやブーツを具現化し着せると、ひたすらサバイバル訓練をさせたのだった。

 エカテリーナの言葉はアルベルトに一切届かず、なんとか逃げようとするも、彼女の足ではすぐにアルベルトに追いつかれてしまい、連れ戻されてしまう。

 狂気を孕んだアルベルトの瞳を見るたびに、エカテリーナは足がすくみいつものように声を張り上げることができなくなった。これ以上刺激してはいけないと本当の敵に思うも、だがこのままこの状況享受するなんてありえないと、強く思ってもいた。

 そう思っていても、アルベルトが気に食わないと叩かれ、食事が抜かれれるたびに、心が折れそうになっていた。もうこのまま、崖から飛び降りてしまおうとかと思うたびに、父親やクリスティアン王子の顔が思い浮かび思いとどまっていた。


 あれから数日経っても助けがこない、逃げようにも逃げられない。

 山を走らされ、匍匐前進させられたりと毎日泥だらけでヘトヘトになって山小屋に入ればもう気絶するように倒れてしまう、起きろと腹を蹴られるももう起き上がる気力もなかった。


ー 神よ。お助けください


 ただ毎日そう祈るだけ。


 何日経ったのかも分からなくなりかけた時、アルベルトに川に連れて行かれ突き落とされた。泳いでこいということらしいが、生まれてこの方エカテリーナは泳いだことなんてないため、泳ぎ方をしらない。

 もがき苦しむ中、唯一肌身離さず持っていた祖母の形見であるロケットペンダントが胸元から飛び出した。


「ちゃんと泳げ!! そんなんじゃ生き残れないぞ!!」


 お前のために生き残りたいわけじゃない、そうエカテリーナは心の中で叫ぶも、深い川底に吸い寄せられように体は落ちていく。

 揺らめく水面が美しいと思いながら、ふと母が昔語ってくれた話を思い出した。


「エカテリーナ。もしも、どうしようもなくて、誰も助けてくれなくて、死んでしまいそうなほど苦しい時、神様に魂を売ってでも助けて欲しい時。これを使いなさい」

 幼いときに母親から渡された金平糖のような宝石。それを握りしめるとこうささやいた。

「いいですか、これは一回しか使えないものです。そしてこれは私のお母様、あなたの祖母から譲り受けた品です。神様に一回だけ助けてもらえるものです」

「かみさま?」

「えぇ、これを握りしめてお祈りを捧げてからこう言いなさい」


「神慮めでたく 『我忠実なる神の僕 我は不屈の心を持つもの 我は願う 流転の神よ 助けたまえ』 おねがい……助けて」


 ロケットペンダントを握り締めながら、エカテリーナは母が語った言葉を口にした。口から泡が吹き出し、音は出なくとも思いをのせて。


 口から泡も出なくなり、息苦しさに意識が朦朧とする中、ほんの少し漏れ出たマナはふわりと舞うと手の中に吸い込まれ光が漏れ出た。

「ぇ?」

 手のひらを開いてみれば、ての中にはロケットペンダントではなく、幼き頃に見た金平糖のような星が光り輝き現れていた。


ー やれやれ、あんな約束しなければ良かった。

 そんなつぶやきが聞こえ顔を上げれると。真っ青な水の中に真っ白な人のような形が前に立っていた。


ー まぁ、回収できなかったこちらの落ち度だけど。それで? 女帝の星を持つ君はどうして水の中にいて、泥だらけなのかな?


「ぇ?」


 そう言われて自身の姿を見れば、たしかに泥だらけだ。そして体の感覚は水中にいるというのに、もう息苦しくなかった。


ー ん? 思考が落ちているねぇ。といっても私を呼ぶくらい疲弊しているのは見てわかる。さて、君は盟約のもと神である私を呼び出した。君の祖母に感謝することだね。


「お祖母様?」


ー そう。で、君は何を望む? 従者であるあの男を殺そうか? それとも君に婚約破棄をした男を殺す? それとも時間を巻き戻したい? それか死んで生まれ変わるか、それか……神の権能を使うというのは、今の時代では……はぁ、邪教徒が増えすぎてちょっと利用できかねないので、そうだな。我の使いを貸そう。さぁ、どれを選ぶ?


 神と名乗る者にエカテリーナは動揺していた。そういえば、昔祖母は冗談めかして、神様と友達だったとか言っていたっけと思いながらも、本当に目の前の人物が神であるのか判断できなかった。もしかしたら邪教かもしれない。


ー ほら、急ぎたまえ、時間は有限。早くしないと君の従者が駆けつけてしまうよ?


 その言葉にエカテリーナはゾッとした。最も信頼していた自分の従者。だが今は性格も考えも変わりすぎてまるで別人になってしまった。そもそも、このような状況に追い込まれたのも彼のせいだ。


「い、嫌。助けて! お願い。逃げたい……でも……」


 逃げたらお父様にますます呆れられてしまうかもしれないっと一瞬思ってしまったエカテリーナは俯いてしまった。


ー はぁ、逃げないように洗脳がかかっているね。仕方ない。ではもっとシンプルに問う。君は数年前まで遡ってやり直したい?


「いいえ!」


 そんな事をしたって無駄だ。あの無能な王子を愛するなんて出来ないし、あの自分勝手な男を矯正できる貴族もいないのだから。


ー では、ここで君は死に、新たに生をうけたい? もちろん次も貴族だ。

「いいえ……逃げるなんて嫌よ」


 ためらいもなく思わず出た答えにエカテリーナ本人も驚いていた。そうだ、逃げるなんて嫌で、あのよくわからない従者の罵倒を受け入れてしまったのだ。それが間違いなのだから。


 神はエカテリーナの反応を見て考えるように「ふむ」と呟くも、嬉しそうな雰囲気を感じた。


ー では、この状況に陥らせた男達を殺したい?

「……いいえ。私と同じ苦しみを味合わせたい」


 エカテリーナの言葉に神はニンマリと笑みを浮かべたように感じた。


ー では、私が今最大に使える神の権能として、神使いを貸してやろう。君を守り、導くであろう

「はい……ありがとうございます」


 エカテリーナは祈るように両手を合わせ額を付けていた。神使いを貸してくださるということは実質、寺院がエカテリーナのバックについたということになる。


ー では、女帝の星を持つものよ。貴方の運命を取り戻しなさい


 その言葉と共に、光は収縮し神がいた場所に神使いの女性が現れた。


「……神の盟約のもと馳せ参じました。エカテリーナ様、とりあえず安全な場所にお連れいたします。よろしいですか?」

「! はい! 教授」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ