火蓋は切って落とされた
全員が集まったときには、外は白くなりはじめていた。ブラックコーヒーを一気に飲んでからエリオットから報告が始まった。
「寺院には緊急用の手紙で送りましたが、時間が時間ですので、朝に返答が来るかと思います。それでは、情報を精査しましょうか」
机の上にはメモ用紙が詰まれ、関係者の名前を書き込んで配置していく。パーティー会場で目立った人物の名前と場所を書き記すと、それまでの行動を一人ずつ話していく。
チェインの情報、そしてサーシャの情報、エリオットがみた会場の出来事を総合して出した結論は。
「王子は邪神と契約しているわね」
サーシャは邪神と書かれたメモ紙と第二王子をピンと紐でつなげた。
「確定ですね。しかし、そうなるとエカテリーナ嬢に罪を着せやすくなる。自分たちの証拠を彼女に置き換えて仕舞えばいいわけですし」
エリオットが苦い顔で言えばサーシャも同意だと頷いた。
「そうね。だからこそ、侍女であるスーリャを向こうは抑えたいはず。でも」
「我々が保護できた」
「そういうこと。あと問題は、エカテリーナが見つかればいいんだけど」
すでに捜索の手配はしているが、すぐに見つかると思ったエカテリーナはいまだに見つかっていなかった。
「従者の青年大丈夫でしょうか?」
ルースの言葉にサーシャは集められた情報だけでは確信が持てなかったが、まずい状況だと思っていた。
「侍女のスーリャが毒に侵されていたわ。しかも穢れもあった。主人に恋心を抱いていた彼も同じ状況かも、もしくは最悪な状況かも」
「というと?」
「会場の穢れを感じた?」
「嫌な空気だったけど、あれは穢れ?」
チェインが首を傾げながら聴けば、サーシャが頷いた。
「えぇ、何か変質した穢れよ」
「つまり」
どういうことだとエリオットが促せば、サーシャは険しい顔のままいった。
「王子たちの方向の穢れは代わり映えしていなかったわ、つまり従者の青年に何かしら穢れが発生して暴走したかもしれないってこと。このままだとエカテリーナは危険。第一王子の予想通りまんまと向こうの罠にハマった感じよ」
悔しそうに言うサーシャにエリオットが肩を叩いて宥めた。
「寺院としては、早急にエカテリーナ嬢を保護する方針で話を合わせています」
「そうね、彼女の家柄、そして信仰心は邪神にとっても邪魔なはず」
思っていた以上にまずい状況に周りも押し黙った。この人数で対応し切れるとは思えなかったが、現状やるしかないのだ。どうしたものかと思案している中ロメリアが口を開いた。
「あの、王家の方々はどうしましょう。王様も体調を崩していますし」
「一応、聖堂か懺悔室で祈るように言ったぜ?」
「クリスティアン王子も対処療法だけ伝えたわ、保護したいけど王家の存続のためにも拒否されたわ……そうね、なんとかして法術と解毒薬も渡したいところだけど」
「私が侍女として侵入するのはどうですか?」
サーシャが悩んでいる中ロメリアが手を挙げていった。
「ちょっと、一人でなんて危ないわよ」
「大丈夫ですよ。幸わたしの顔はあまり知られていないですし。ちょっと術でごまかせばいけますよ。中のこと知ってそうな人もいますしね!」
そういって指さしたのはソファで座るスーリャだ。
「確かにそうだけど……」
「サーシャさん、私はもう子供じゃないんですよ!」
「……わかった。でも、危ないと思ったら何がなんでも逃げてくるのよ」
「はい!」
元気よく返事をしたロメリアにまだ心配だと言う表情を隠しきれないサーシャに対し、エリオットが笑った。
「まるで初めてお使いにいく娘を送り出す母ですね」
「サーシャさんはある意味私たちのママですから!」
「ロメリア」
胸を張って答えたロメリアとチェインにサーシャは大きなため息をついた。ついつい心配してしまうのはやはり親心というものだろうかと思いつつ。
いったん解散となった。
*
翌日になっても状況が良くなると言うことはもちろんなく、ジェモン王子が流した噂と危機感を持った生徒達による正しい情報とで学院内は異様な雰囲気となっていた。
「あの、エリオット教授。エカテリーナ様がその邪教と…」
本日何度目かわからぬ問いかけにエリオットは困った顔をしながら優しく諭した。
「嘘を信じてはなりません、エカテリーナ嬢は寺院が認める敬虔なる信徒ですよ」
「そ、そうですよね」
「はい、ですから寺院も必死に捜索しているのです。力の強い信徒は時に邪教徒にとっても邪魔な存在として狙われることがあるのです」
「そ、そうなのですか!」
エリオットは周りを見渡してから、女子生徒の耳元でささやいた。
「ここだけの話、エカテリーナ嬢ほどの方ならば本来なら寺院に所属していただくのですが、王家に嫁ぐ予定でしたので、辞退されていたのです」
「まぁ!」
ふわりと香る乳香と耳の奥響くエリオットの美声に女子生徒の頬は桃色に染め上がった。
「あなたも悪しき話には耳を傾けてはなりません。良いですね」
「はい!」
元気よく頷くと恥ずかしそうに駆けていってしまった。
「……詐欺師にむいてるんじゃない?」
柱の影からひょっこりと顔を出したサーシャに、エリオットは疲れたように肩を落としながらため息を吐いた。
「あなたが耳元で囁けば一発だといったのではないですか」
「言ったけど、想像以上の効果覿面! で驚いてるわ。まぁ、これでしばらくは変な噂で塗りつぶされることはないでしょう」
「そうですが、想像以上に噂の周りが早いですよ」
「まぁ、向こうは仲間が多くいるのだから仕方ないわ。こっちは権力と顔でどうにかしましょうよ」
「それって私の顔ですか?」
「あたりまえでしょー」
サーシャはニヤリと笑みを浮かべて歩き始めた。
「まずは学園内にいる邪教徒を殲滅するわよ」




