サマーダンスパーティー24H チェイン
数時間前〜
サーシャと別れたチェイン達は、庭園から王の住まいへと向かっていた。貴族の遊びとして高い生垣で作られた小さな迷路は身を隠すにもうってつけだ。
チェインは小さく法術を呟いてから、護衛騎士でありルースと同じく暗器を扱うクルエリオに聞いた。
「良く迷わないな。外から行っちゃダメなのか? くねくね歩かずさー」
「この中は兵士も迷うので入ってきません。外は警備兵でうようよしていますよ。それと、話をするためだけに法術なんて使わないでください」
「だって、使わないと話し声でバレるだろ? なぁなぁ、結構遠いの? 建物に入ったらすぐ?」
「前にルースさんと行った時は、警備の関係上そこまで深くいけませんでした」
「うん、で遠いの?」
「気をつけてください。しっ」
チェインの質問を無視するクルエリオにむすっとしながらも、もうすぐ生垣の出口というところで身を潜ませた。気配を殺していると、警備兵達の話し声が聞こえた。
「なんか騒がしいな」
「第二王子が張り切ってるから催し物じゃないか?」
「あー花火あげるとかいってたよな。王もよくお許されたよな」
「最近、邪教徒の報告が多かったからな。気晴らしが欲しかったんじゃないか?」
「確かに、寺院から苦情が来てたんだろう」
「あぁ」
そんな会話をしながらダラダラ歩いていく警備兵が入り口を通り過ぎ、後ろ姿を確認してから、チェインとクルエリオは庭園を抜けた。
「ここから先は無駄話は無しで」
「うぃーっす」
チェインは肩をすくめながら答えると、館内に侵入した。警備兵は等間隔で巡回しているらしく。要所要所で隠れながら進んでいく。
小部屋に入り使用人通路を通り抜けていくと、また廊下に出た。周りを確認してから、部屋にはいるとクルエリオは壁を軽く叩き始めた。
「おいおい、何してんだ?」
「前に来た際に、この壁が開いて王の従者が中に入っていくのを見たんですよ。確か、ここら辺を叩いて……」
「おいおい、ぶっつけ本番で使う気かよ」
チェインは楽しげにいうと、クルエリオもニヤリと笑みを浮かべた。
「一か八かでやるのもありでしょ? 上の階はそれこそ兵士が廊下に立っていて侵入は不可能です」
なんだかんだで、こういうところは気が合う二人なのだ。
「なるほど、なら俺の出番じゃね? 神慮めでたく 風よ、その先の道を開け」
チェインがそう呟くとふわりと風が舞い壁に突き抜けていくとカチリという音と共に開いたのだった。
「そうえいば 神使いでしたね」
「おい!」
そんなやりとりをしながら隠し通路を抜けて上の階に侵入すると、やはり王の部屋の隣の小部屋に到達したのだった。
覗き穴から中を確認すると、ベッドに横になりながらも、書類を手にする王がいた。
「それで、パーティーはどうだ?」
「はい、つつがなく」
「ジェモンはちゃんとエカテリーナをエスコートしたか?」
王の問いに、臣下の男は一瞬目を泳がせて答えた。
「……はい」
「はぁ、していないのだな。教育係は何をしておる!!」
「王子が首にされました。」
「あやつにそのような権限を渡しておらん! 取り巻きを一掃せねばならんな……これ以上公爵家と関係を悪化させるわけにはいかぬ」
「はっ……」
「……もうよい、下がれ!!」
「はい」
王は胸に手を当てながら怒鳴ると、臣下の男はそそくさと部屋を出て行った。無能そうな臣下しかいないのか?っとチェインが思っていると、王は書類をまとめ、横に置いた。そして……。
「はぁ……今は誰もおらん。出てくるがよい」
王の言葉にチェインとクルエリオは顔を見合わせた。
「バレてるな」
「ですね」
そういって二人は頷くと、チェインは法術で部屋全体に防音を施してから、隠し部屋から王の部屋に入った。
「邪魔するぜ王様。神使いの一人 チェインだ。こいつは俺の護衛騎士」
「神使い……はぁ…そうか」
チェインが名乗り、胸元から十字星を見せると、王はホッとしたのか肩の力を抜いてベッドヘッドに背を預けた。片手だけ不自然に布団の中に入っていた手も引き抜くも、その手の位置は変わっていない様子にチェインはニヤリと笑みを浮かべた。
「王様はすげーな。敵か味方わからないのに呼んだのかよ」
「ふん、どちらもあり得るからな。寺院の神使いが直接くるとは、我が国はまずいのだろう……」
そう言いながら、深いため息をついた。
病に倒れたからといって、臣下たちが指示に従わなくなっているのだ。今までに無かったことだ。このままでは、自分の命を狙いに来る輩もいるだろうと予想していた。
「……おう。そうだ、忘れないうちに先輩からの手紙渡すわ」
チェインはサーシャに言われて持たされていた手紙を王に渡した。
「そうか……そうか……」
王は顔を半分手で覆いながら、疲れたように頷きながら、一通り内容を確認すると手紙を法術で燃やした。
「ジェモンは星を見失ってしまったのか……」
「あぁ、ジェモン王子はせっかく持っていたものを手放しちまった」
「……王子二人とも星持ちであったのになぁ」
その言葉で、王にとって自慢の王子たちであったのであろうことが伺えた。
「先輩の話だと、第一王子の星は強く光ってるから平気だってよ。ちゃんと王様は子供たちにあってる? コミュニケーションは大事だぜ?」
「そうだな……。はぁ、色々妨害が起き、対処に後手後手になってしまたな」
そう言いながら立ち上がろうとする王に、チェインはさりげなく支えた。かすかに王の体から香った独特な香りに眉根をひそめた、それは毒に侵された人間の香りだった。
「王様、食べ物には気をつけないと。食事の時は面倒でも祈らないとダメだぜ。特にあんたみたいな特別な人はな」
「!……ははは、そうだな。幼き頃には口酸っぱく言われていたものだったが、ここ最近忙しくてサボっていたわ」
王はその言葉で、気づかないうちに毒を摂取していたことに気づいた。法術には弱い毒であれば除去できるのだ、王族はまず最初にそれを習う。もちろん術の精度によって除去率は変わってしまうが。
問題が起きすぎて、歳と心労がたたったのかと思っていたが、毒のせいだったかと王は思い直した。
「まぁ、この俺様が少しだけならよくできるぜ」
椅子に座らせてからチェインは法術を唱えると、王の顔色が良くなった。
「ほう、神使いの法術を受けられる日が来るとは。これほどとはな」
「自己治癒力を上げただけだから、完全には治らねーよ。それで、お手紙の返事はもらえるか?」
「こちらで対処をしたい、それが本音だ。ただ、間に合わなければそちらの良きように」
その言葉にチェインは頭を掻いた。
「それじゃーますます後手だぜ?」
「星を持っていたあの子が。道を外したとは信じられん。一度無理にでも会いに行くつもりだ。そうじゃ、見せるものがあった」
そう言って立ち上がると、本棚からある一冊の本を取り出した。
「これは王家に伝わる本でな。ただの日記なのだが、神使いが現れたら必ず見せるようにと書かれている。この日記には連絡手段も載っているそうだ」
そう言われてチェインは急いで本を受け取ると目次を開いた。そこには、日記と言っていた内容とは違った内容の文字が浮かび上がっていた。神使いにのみに読むことが許された内容が。
「こりゃーサーシャが探してた内容じゃん。王様ありがとう。これ、すげー重要、できれば借りたいだが?」
「それはダメだ。必ず王が管理し、手元から離してはならないと書いてある」
「まじか」
チェインは急いで中身を確認していく。内容は当時の王(この日記の主)と神使いが書き記したものだった。そして当時現れた悪魔を撃退した方法まで載っていたが、その方法にチェインは目を輝かせた。
そして、どうして王が持っていないといけない事まで書かれていた。
「チェイン?」
「すげーな。確かにこれは王が持ってないとまずいな。なるほど、だからか。法術が切れかかってるからか……」
そういうと、チェインは本に法術を重ねがけした。
「神慮めでたく クルウルスの勇士達に送る 祝福と守りを」
そう唱えると強く輝いた。
「それは……?」
王が驚く中、チェインは本を返した。
「王様のご先祖様でやんちゃな人が居たんだね。その人が昔神使いと共に他国に留学中に悪魔退治したんだって。でめっちゃ喧嘩売っちゃったらしく、悪魔に恨まれてるっぽいから当時の神使いクルウルスが友である王にお守りとしてこの本に法術を仕込んだって書いてあったよ。今回、この国が狙われた理由がわかったよ」
「なんと!」
「大事にしたほうがいい、これがあるだけで、王様はとりあえずある程度は安全さ」
そういうと、チェインはクルエリオに振り返った。
「チェイン、そろそろ戻ったほうがよさそうですよ」
「時間がたりないな。そうだ、王様、時々は聖堂で祈ってよ。懺悔室ならなおよしだよ。じゃね」
「あぁ、気をつけて」
チェインはやつき早に伝えると、急いで隠し通路に戻った。




