サマーダンスパーティー24H サーシャ
王子の洗脳も考慮し、試しに解毒効果のあるクッキーをジェモン王子のお菓子に紛れこませてみたりとしてみたが、目立った効果もなく、王宮に侵入するという事もルースに試させてみたものの、やはり王に近づくのは難しかった。
王の信頼している重臣という男に試しに手紙を忍ばせてみても、返事をもらう寸前でボヤ騒ぎがあり消失してしまった。
これ以上の潜入は敵側にバレてしまう危険もあり踏み込めずにいる間に、あっという間に学園の夏のダンスパーティーの日になっていた。
サーシャたちは普段の法衣服ではなく、金と銀の刺繍が施された格式のある正装姿だ。
「はぁ、正装ってどの服も、なんで動きにくいんでしょう」
「えぇ、しかも少し重いですよね」
エリオットとサーシャがブツブツ文句を言いながら、会場に着けば生徒たちは色とりどりの花を咲かせるようにドレスを身にまとい楽しげに談笑している。
教師陣は上の階のバルコニー席が待機スペースとなっていた。サーシャ達もそこで談笑しながら、雑談に花をさかせていた。
「今年もお二人の正装を見れて、光栄です」
「えぇ、えぇ、なかなか神使いの正装なんて見れませんから」
「そうですね」
「我々もなかなか着る機会がないので、入るかどうか毎回袖を通すたびにドキドキしてしまいます」
エリオットの言葉に女性教師たちは笑いながら離そうとしない様子に、サーシャは笑みを浮かべながら一歩一歩と距離を置き、エリオットの逃げるんですか?! という視線を無視してその場から逃げ出した。
「あら、そういえばサーシャ教授は?」
「飲み物を取りに行ったようです。私もそろそろ生徒達に挨拶にでも行ってきますね」
「それもそうですね。私たちも一緒にいきますわ」
「……はい」
エリオットはもうしばらく逃げることは難しそうだった。
そのころ、サーシャは控え室にいたルース達と合流し、ロメリアに幻影の法術をかけてサーシャに見えるようにしてから目立つ白い正装を脱いで、下に着ていた黒い服装になった。
「じゃ、行ってくるわ。ロメリア、影武者をよろしく。私らしく適当に振舞っておけばいいわ」
「はーい」
「エリオットは予想通り女性教師陣に捕まったから。チェインは護衛のクルエリオと一緒に王のもとに向かってちょうだい」
「了解」
そう指示するとサーシャ達は窓から部屋を出て行った。チェインは王がいる建物へ、サーシャは第一王子クリスティアンがいる館へ。
暗闇の中、ルースの案内のもと館の前につく頃には、一時間ほど立っていた。
学園のパーティーということで警備は会場の入り口付近は厳重ではあるが、他の警備はすこし緩んでいる様子にルースは不可解に感じた。
「人員が会場に割かれているのでしょうか」
「どうしたの?」
「いえ……いつもより緩い感じがして」
ルースの言葉にサーシャとしては判断も難しいため、とりあえず当初の目的のために法術を唱えた。
「神慮めでたく 館を見守る者 悪しき者へ 優しい眠りを与えたまえ 」
そう唱えると、周りで倒れる音が数カ所からした。
「すごい威力ですね……」
「目覚める度合いは信仰具合で変わるから急ぎましょう」
「はい」
効き目は人それぞれなため、二人は急いでクリスティアン王子の部屋へと向かった。そこには、咳き込むクリスティアンと従者と侍女が二人部屋にいた。
「誰だ!」
従者の男が振り向きざまに短剣を構え、すかさずルースがサーシャをかばうように立ち位置を変えた。
「今晩は、星を抱く信徒、クリスティアン王子」
そうサーシャが声をかければ、クリスティアン王子が手をあげて従者の男を止めた。
「やめよ。ルエン。寺院の方だ」
「え?!」
「ようこそ、いらっしゃいました。といってもおもてなしはできませんが」
「いいえ、私たちはエカテリーナ様から伺い、会いに来ました」
サーシャの言葉にクリスティアンは驚いて身を起こそうとするも、力が弱っているのかベッドに倒れてしまった。弱々しい姿とは打って変わって、サーシャの瞳には星の輝きが強く見えていた。
王子でなければ、神使いにもなれるレベルだと心の中で思いながら、逆にここまでの星を持っているから今まで死なずに済んでいるのだろうと推測した。
「王子!」
慌てて侍女と従者が抱き起こしながらクッションを背に挟ませた。
「すいませんお見苦しい姿を……」
「いいえ。エカテリーナ様からお話しは伺っていました。それに私たちも星を抱く貴方に何度か接触を試みたのですが、握りつぶされ。このような方法を取らさせて頂きました」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。この通り、軟禁されているような状態でして。エカテリーナ嬢は、お元気ですか?」
「……えぇ、といっても第二王子とは上手くいっていませんが」
サーシャは二人の間柄が思っていた以上に親しそうなため、あえて情報を追加してみると、案の定クリスティアンは表情を曇らせた。
「そう、ですか……。彼女は……彼女にも心配されていましたか」
「えぇ、貴方に会ってほしいと。寺院といたしましては、貴方を今すぐにでも保護したい状況です」
「それは……ゲホゴホ」
興奮しすぎたのかクリスティアンは咳き込でしまった。ランプの光に照らされた顔色は悪く、頬も痩せこけていた。
「……食事は取れていますか?」
「取っているのですがね……なぜか良くならないです」
「失礼。神慮めでたく ……」
サーシャは近づいて王子の額に手を当てて小さく呟くと、クリスティアンの体が淡く光った。
「マナの暴走と毒ですね……解毒効果のあるものを食せばよくなるでしょう」
サーシャはまた法術を唱えると、クリスティアンの顔色が良くなった。
「はぁ、少し楽になりました」
「それは良かった」
「それで、早速移動を「ありがたいですが」」
クリスティアンはサーシャの言葉を遮った。
「寺院の保護を受けることはできません」
「それはどういうことで? このままでは貴方は最悪死んでしまいます。寺院として星持ちが殺されるのを見放すなんてことはできません」
サーシャが強く言えば、クリスティアンは首を振った。
「違います。私が今ここから消えれば、第二王子派は父を殺すでしょう。最悪エカテリーナ嬢も殺されるかもしれません」
「まさか」
「父も体調を崩していると風の噂で聞いています」
クリスティアンの言葉にサーシャはルースを見れば、ルースは無言で首を横に振った。それはわからないという意味だった。
「今、王のもとにも寺院の者が向かいました。なので王も」
「警備はどうでしたか?」
その言葉に、サーシャはふと、ルースが呟いた言葉を思い出した。
「つまり、罠だと?」
「もしくは、会場で何か……」
「会場にも寺院の者がいます」
「ずっとですか? 何か外で騒ぎがあったら呼び出されるのではないでしょうか? 私ならそうします」
「その場合、私たちを貴方達に近づけさせた意図が見えません」
「妨害する必要がなくなったということでしょう……私がいなくなれば、それを理由に寺院が狙われます。そして王が倒れれば」
その言葉にサーシャは眉間を抑えた。こんなややこしい話は苦手だと思いながら、確かに王国騎士団が寺院に来れば、この国と寺院の関係は悪化し、信仰が揺らぐ可能性もある。それはある意味悪魔の狙いの一部に過ぎないだろうと思いつつも、こんな状況の星持ちを置いていくというのが最善とも思えなかった。
「どうしますか?」
ルースの声にサーシャは顔を上げた。
「一人づつ、神の祈りを行なってください」
サーシャの言葉で従者、侍女、クリスティアンの順番で神の祈りを捧げた。その力の差を見ながら、サーシャは悩んだ末に決心した。
「わかりました。今はお連れしません。ただし毎日、信頼の置けるものだけで、朝晩神の祈りをこの部屋で捧げてください」
「朝晩ですか?」
「えぇ、とりあえず。マナの暴走は沈静化できます。毒素を完全に抜かなくてはいけませんが……。それと食べる前に、食事にも法術を使ってください。できれば、寺院の聖堂に置かれている十字星があればいんのですが」
「あ、あります。この館にも小さな聖堂があります」
「では、それを持ってきてもらえますか? 今すぐに」
「はい」
侍女が頷き小走りに部屋を出て行った。
「十字星にはある程度祈りが溜まっています。貴方は星持ちですから、祈り続ければ体を癒し、守ってくれるでしょう」
サーシャがそういうと、二人は神妙に頷いた。侍女は数分と経たぬうちに、手には杖つきの燭台ほどの大きさの十字星を持って戻ってきた。それを王子のベッドサイドのチェストの上に置いた。
それにサーシャも祈りを捧げると、その場を後にした。
「良かったんですか?」
「良くないけど、政治的な話を考えると、今はこうするしかないわ。それにあの十字星を触媒に近い状態にしたから連絡手段として使えるわ」
「なるほど」
「それより、会場が気になる」
「そうですね」




