新たな神使い
邪教徒の活動が全くなくなった。第二王子に接触する怪しい人物もなくなり、手詰まりな状態になってしまった。
このまま平和が続けばいいと思いながらも、サーシャ達はいまだにこの国から穢れが払われ無い様子に、調査と準備に余念がなかった。
そうしている間に応援の神使いが到着した。
「やっほー!!サーシャのチェインがきたよ!」
そう言いながら口の中でクラッカーオンをさせてキメ顔を向けたのは黒髪に青い目の青年、チェイン。
「あははは、相変わらずねチェイン。それにしてもまた背が伸びた?」
「うん!!」
「……」
エリオットを無視してサーシャに抱きつくチェインに、一緒にいた神使いである少女が襟首を引っ張った。
「チェイン、はしたないわよ。ここは孤児院じゃないんだから。お久しぶりですエリオット、そしてサーシャま……」
「あ、お前だってサーシャママって言いそうになってんじゃーん」
「チェイン、やめなさい」
サーシャが止めれば素直にチェインは返事をした。
「はーい!」
「久しぶりね、ロメリア」
「はい!」
金髪に青い瞳のロメリアはそばかすが少し目立つ可愛らしい少女だ。二人とも寺院の孤児院出身で、サーシャがそこで奉仕していた時の子供達だった。
そこで奉仕する神官達は、子供たちからママやパパと呼ばれていた。人によってはお姉さまお兄様とも呼ばれるが、基本パパママ呼びだ。
エリオットは面倒な人間が増えたと思った。よりによってこの二人かと。
ロメリアは良いが、チェインは何かとエリオットに突っかかってくるのだ。そもそもサーシャとパートナーとなった際に自分がなりたいとごねた一人だ。法術の力が弱いエリオットに対しても良い目で見ていない。
基本神使いは男女で組まれる。サーシャは背が少し低く、見た目も少し幼いために年高に見える神使いと組むことが決定していたなか、チェインはごねたのだ。
ダイと同じくサーシャのファンの一人だ。
「エリオットも元気そうですね」
「そちらも相変わらずな様子ですね。チェインの子守は大変でしょうロメリア」
「はい、ですがあの顔とナルシストな性格は便利でした。被害も被りましたが」
にっこりとロメリアは毒を吐いたが、それを気にせずにチェインは胸を張って言った。
「俺がかっこいいのは当たり前だろ? それを有効活用しただけさ⭐︎」
またカッコつけるようにウィンクをしクラッカーオンをさせたチェインに、エリオットとロメリアは笑顔だが、こめかみがピクリとした。
「あははは、それよりも長旅で疲れたでしょう。部屋に案内するから」
「「はい」」
「エリオットはロメリアをお願い」
「えぇ」
サーシャは早々にチェインとエリオットを離した。この二人は何かと馬が合わないのだ。まさかこの二人が呼ばれるとはと驚いた、法術に対しては申し分ないが、うまくやれるだろうかと不安もあった。
「サーシャは大丈夫? あいつにいじめられてない?」
「いじめられるわけないでしょ? チェインもエリオットは優秀ですよ。そう邪険にしない」
「だって、あいつの信仰心は司祭レベルじゃないか。なんで神使いなんだよ」
「あのマナ量で司祭ほどの信仰心は珍しいですよ。それに信仰心は少し足りないかもしれませんが、神を信じていますから」
「あれは、ただの研究対象としてだろう」
「なんであれ、同じ信徒ですよ。仲良くしてください」
「ぶーぶー」
子供用に答えたチェインにサーシャは大きなため息をついた。孤児院の時は可愛いく大きくなったらサーシャママと結婚するっと叫ぶやんちゃな男の子だったが、どうやら大きくなっても変わらない様子に可愛いが困っていた。
「そんな態度で……」
「ねぇねぇ、それよりこの国の問題は今どうなの? 一応報告聞いてるけど直接しりたい」
サーシャはとりあえず今までの出来事を説明した。
「あいつのマナでもダメだったの? やべーじゃん」
「えぇ」
「でも法術の守りは有効かー。僕たちにかかれば結界はかけられるけど」
「何度もかけ直すとなると頭のいい方法ではありませんね」
「だねー」
「んー第二王子が怪しいんでしょ? 僕たち生徒として紛れ込んで見る?」
「どうやって? 今から転校生として入るなんて目立ちすぎますし、試験を受けさせてもらえるかどうかも」
「制服を借りて入ればいいだろ? 溶け込むのは得意だよ。ちょっとした魅惑術があるんだ」
チェインはウィンクをしながら両手で呪い師のように動かした。
「それは規律ギリギリな……誘惑の仕方によっては裁判ですよ?」
サーシャは思わず引きつった笑みを浮かべた。魅惑術というものがあるにはあるのだが、相手を陶酔させるようなもので、悪用すれば訴えられる代物だ。もちろん、王侯貴族はそういうのに耐えられるように訓練されたりするが。
「大丈夫だよ。貴族には近づかないしやらないって、怪しい留学生とか貴族のお付きになってる従者や侍女達に近寄るんだよ」
「それだったら……平気ですかね? ぇー? ちょっとそれはロメリア達も交えて」
「ロメリアも賛成してた」
「……とりあえずそれは護衛騎士達も混ぜて再度話しましょう」
サーシャはとりあえず問題を棚上げし、部屋を出た。休憩スペースと化している部屋に入れば、そこにはエリオットが本を並べて読みふけっていた。
「お疲れ様です。彼に何か言われたんですか?」
「えぇ、まぁ」
サーシャはため息をつきながら先ほどの案を伝えると、エリオットは眉間にしわを寄せながらもうなづいた。
「確かに、彼らに潜り込んでいただいて探ってもらうのが一番でしょう、実はロメリアからも言われました」
「そうですか……」
「ということで、先ほど、ルースに制服をくすねてくるようにお願いしときました」
「えぇー?!」
もうすでに手が回されていることにサーシャは驚いて身を起こした。
「チェインの案というのがムカつきますが。こちらで生徒に紛れこめる人材はいませんから。私たちはすでに教師として在籍してますし、護衛騎士も顔バレしています。ダイにやらせるには不安要素が多すぎまから」
「確かに……」
サーシャの不安をよそに、護衛騎士達も集めた話し合いでも、やってみようとなってしまった。二人につけられている護衛騎士は変装をし、騎士に見えないように下働きの格好でうろちょろするそうだ。こうして、学園内の探りを別角度ですることになった。
そして学園は夏のダンスパーティーに向けて生徒達が浮き足立っており、紛れ込むのには最適だった。やはり会場が今年は王宮ということもあり、女子生徒達はどのようなドレスにするかと盛り上がり、またドレスを購入するのが厳しい生徒達は、卒業生達が寄付したドレスが学園の衣装室に保管されており、衣装室に通う生徒が多かった。
もちろん形が古いものもあるので、自分たちの手でリメイクしたいという生徒もいた。
「ねぇねぇ、やっぱりお花つけたほうがいいかな?」
「この肩のモコモコとりたいー。古いよね!」
「これはまだ誰も手つけてないよね?!」
休日になると女子生徒達が大騒ぎでドレスのチェックをしている。そんな中、制服を着て眼鏡をかけたロメリアも入り込んでいた。寄付されたドレスの一覧を見ながらまだ決めていない生徒のふりをしながら。
「どうしよー。やっぱり貴族の人たちとかぶったらダメなんでしょー? というか流行りのデザインってどれー?!」
「そこは大丈夫よ。学園側と貴族の間で取り決めされてるんですって。ご令嬢達と被らないようになってるらしいわ」
「へー!そうなんだ!」
「そうそう、で流行りのドレスかどうかは、あそこに雑誌があるから、それに近いデザインに自分たちで手直しするかそのまま着るしかないわ!!」
「ひぃー! 私裁縫苦手なのにー!」
ロメリアが泣き真似をすれば、別の女子生徒が肩を叩いてこそこそ話するように言った。
「ふふふ、お小遣いが少しでもあればね、お裁縫が得意な子にお願いする方法もあるわよ」
「うそ! そんな方法が!!」
「そうそう、で学園側から金額の上限がつけられてるから安心よ。まぁ、そういっても頼んでる人が多いとテインオーバーで受けてもらえなかったりするけどね」
「それってもう無理なのでは?!」
「あはは、大丈夫よ〜! まだ受け付けてるって聞いたもの」
どうやらみんな得意な子にお願いしている様子だった。まさしく金で解決である。
「でも、そんなにお小遣いないので、がっつり変えるのは厳しいです〜」
「あー安く済ませたいなら、まぁ。ある人がいるけど」
「えー私は嫌よ。あの子」
「うんうん。取り巻きになれって言われるじゃない。公爵令嬢を敵にしたくないわ」
「平気よ、エカテリーナ様はそんな心狭くないし、貴族的な考えの人じゃない」
どうやら数人は誰を指しているのかわかっている様子にロメリアは首を傾げながら周りを観察した。気にしないタイプと気にするタイプがいるのが面白いと思いながら聞いているとどうやら理由があるらしい。
「だって、あのこ絶対に綺麗に仕上げてくれるわよ。ちょっと自慢話が長いけど」
「そうそう、あんなのよいしょしとけばいいだけ。王子様の愛人なのが自慢なんだから簡単よ」
「あのあの、もしやエイミーさんで?」
事前に聞かされていた学園の情報で王子の愛人なんてたった一人しかいない。ロメリアはまさかと思い確認すると案の定そうだった。
「そうよ。まぁ、癖が強いけど、平気ならオススメするわ」
「うんうん。あの子学園に入る前は、お針子をしてたんですって。その証拠に王子に刺繍入りのハンカチをあげてたのよ。自慢げに話してたから私はお母様からもらった手袋のレースをを直してもらったら綺麗に仕上げてくれたわ」
「へー」
「だから、一般生徒の一部の子達はあの子に制服のほつれとか直してもらってるのよ。結構安いわよ」
「そうだったんだー」
ロメリアはなるほどーと思いながらも、どうして一般生徒達がエイミーとの距離感が絶妙なのかわかった。
「そしたら、皆さん仲良くなりそうなのに、そんなに自慢がすごいです?」
「えぇ、面倒よ。何より表裏が激しい」
「うんうん。怖いくらい違うわ」
周りの人たちが同じように頷いた。それからはエイミーの話で盛り上がったのだった。
そして場所が変わって、チェインの方は、男子学生たちが借りる衣装部屋に来てみたが、そこはあまりデザインを変えるほどのこともなく、サイズの確認をするくらいで済んでしまっていた。
軽く会話をするも、誰を誘うかという話だけで収穫はなく、どうやらクラブに入らないと情報が手に入らなそうなことがわかった。
「やっぱり、サーシャが見つけたあのクラブかな」




