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転生神子(てんせいじんご)  作者: siro


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22/37

悪魔へ喧嘩を売りました

 囚人の一人は余裕そうに身動きもせず神使いであるサーシャとエリオットを睨んでいた。だが隣の独房にいる男は違った、チリチリと身を焦がす炎に恐怖を感じていた。


「ううぅう! うう!!」

 熱くはない、ただ足先から何かを失っているような感覚がするのだ。他の牢でも先ほどと違った声が響いていた。神に助けを乞う声が響いていたのだ。どうやらこの青い炎は他の者達にも燃え広がっているようだった。


「どうやら、流転の女神は相当お怒りのようですね」

「はい、ここだけかと思いましたが、他の囚人達も燃えているようです。きっと魂が穢れてしまったのでしょう」

 サーシャは残念そうにいった。

 囚人達は誰に助けを乞うているのか、流転の女神であれば輪廻転成の輪に戻してもらえるだろうが、邪神であれば不可能だ。きっと先ほどの会話が聞こえていた囚人もいたであろう。

 目の前の囚人達は怯えながら助けを乞う仕草をする者、睨みつけながら暴れるものと様々だ。ただそれらをサーシャとエリオットは静かに見つめた。


「か、神使い様。これは」

「穢れた魂の処刑です。ただ、この男は完全に悪魔に飲まれたか異界の魂に変化したようです。流転の女神の管轄外となってしまったようですね。炎の色が緑色になってきている」

 一人燃え上がりながらも、表情を変えずに暴れもせず、睨み続ける男をサーシャは静かに見据えた。


 睨み続ける男以外は、炎が全てを焼き尽くすと、残ったのは衣と手枷だけになった。灰も残さずに燃えつきた。

「き、消えてしまいました……」

 寺院騎士は驚き一歩後ろに下がった。


「神の炎ですから信仰心あるものにとってはただ暖かい風ですよ。恐れる必要はありません」

 サーシャが説明する中、緑色の炎に包まれていた男の体に模様が浮き出し始めていた。


「か、神使い様。これは神語が浮き出て?!」

 寺院騎士は全ては読めないが、その形は知っていた。

「貴方は優秀ですね。そのまま信仰心高くいなさい。さすれば神は見届けてくださいます」

 エリオットが優しくいうと、寺院騎士は背筋を伸ばして返事をした。


「サーシャ。準備はできています」

 エリオットはそういうと、懐に手を入れた。

「……わかりました。やりましょうか」

「はい」

「では、猿轡を外してくださいますか。何か聞けるかもしれません」

 サーシャがそういうと、寺院騎士は驚きつつも、頷いて牢を開けて男の猿轡を外した。


「ふん。あんたらが世界を牛耳ってる寺院とかいうやつか」

「私たちを見るのは初めてで?」

「おかしいですね」

 サーシャとエリオットは男を面白げに見つめた。

「はっ、この世界はぜーんぶ流転の女神とかいう神一人とか言いやがって。狂ったやつらしかいない。アホか狂信者供が!!!」

「ふふ、それで貴方は誰? 言語は通じているのは分かったけど。どこから来たの?」

「答える義理はないね!」

「迷子でもなく、自らこの地に来たと? この国を引っ掻き回して何を得ようとしている!」


 エリオットが杖を地面に突き怒鳴れば男はケラケラと笑った。

「教えるわけがねーだろ。バァーカ」

 そう言って唾を吐いた。

「こいつ!!」

 寺院騎士が思わず抜刀仕掛けるもそれをサーシャが止め、男に問いかけた。

「貴方、教典はちゃんと読んでなさそうね」

「教典なんて嘘ばっかりだろうが。俺は俺の信じる神に仕えてんだよ」

「そう……」

 サーシャは目を細めた。その姿に男はなぜか寒気が走った。なんだろうかと、サーシャを見つめると不可思議な瞳の色に吸い込まれるような感覚に慌てて顔を振った。

 男は、まるで獰猛な獣の前にいるような気分になったことに驚いた。剣を持った者に対峙した時でさえこんな身震いはしなかったという自負があった。

「悪魔はお前らだ! そうだ! お前らだろうが!! 俺たちの仲間を何人も殺しやがって!!」

「神に背いたからよ」

「巫山戯るな!! 何が神だ! そんな不確かな存在を信じて馬鹿じゃねーのか!! 俺たちは生きているんだよ! 生きてる人間といもしない神を信仰する馬鹿な奴らが!!」

 その言葉に寺院騎士は怒りに震え怒鳴った。

「貴様!! 神は生きている!! 我らを見守っている!!」

「はっ! 何処にいんだよ。いねーだろ? それに比べて俺たちはちゃんと存在する神についてるんだよ。みーんな神様から力をもらってるんだ」

「神にあったと?」

「あぁ」

 エリオットの問いに男は自慢げに言った。それに対してサーシャが笑みを浮かべた。

「それは良かった」

「は?」

「エリオット。お願いします。やりすぎないように」

「はい。神慮めでたく 流転の女神にお願い奉る 神使いの名の下に 我らが世界に侵入した悪魔に通じ 悪しき魂を罰する力を与えたまえ」

 そう唱えながら、懐に入れていた手を抜くと、そこには銀色の銃が出てきた。その銃は淡く光、神語が刻まれた場所はキラキラと強い光を放っている。

「はっ! 俺も殺すのかいいぞ! やってみろよ人殺しが!!」

「神慮めでたく 神使いの名の下に かの者と繋がる異界の悪魔へ裁きを与え! 我らを守りたまえ!」

 今度はサーシャがつぶやき杖を高々とあげ、同時にエリオットは男に向けて撃った。


 撃ち抜かれたのは心の臓、だがその中は血肉ではなく、歪んだ空間が見えた。その異様な光景に寺院騎士は小さな悲鳴を上げかけた。

 そしてそこに向かってさらにもう一発エリオットが撃つと吸い込まれていった。だが同時にその穴から不気味な悲鳴が聞こえた。

「当たりましたね」

「そうみたいね。でも体が限界ね」

 サーシャが言った通り、男の体は端から黒い靄になって崩れ落ちていった。


「ああぁあああああああぁぁあ!!」


「魂は、神に決められた世界以外に移動しちゃいけないのよ。異界の魂よ」

 サーシャがそういった時には男の顔はほぼ崩れ落ちていた。


「か、神使い様……これは?」

「邪教徒が仰ぐ悪魔に少しご挨拶をしただけですよ。出て行けとね」

 サーシャがにっこり微笑みながら言うと、寺院騎士は少し震えた。

「それより戻りましょうか」

「は、はい」

 サーシャに促されて地上へと戻る道すがら、生き残った囚人達は怯えながらサーシャ達を見つめていた。先ほど見えていたものと違うものが、その者達の目には見えていた。

 行きでみた二人は普通の憎い人間に見えていたのに、なぜか今は淡く輝き恐れ多い空気が漂っているように見えたのだ。恐ろしさのあまり囚人達は身を付して祈りを捧げている。

「……」

 その様子に案内をする寺院騎士は変な高揚感を感じていた。畏怖もある、だが同時に誇らしくもあった。なぜそう思うのかは分からない。ただそう思えたのだ。


「エリオット、耐えられますか?」

「大丈夫です」

 サーシャが小声でエリオットに声をかけると、顔色が悪くなっているエリオットはにっこりといつもの笑みで答えた。いつもならすぐ仕舞う杖をしまわずに、ついている。

「少し休みましょう」

 そういって、地上に出ると寺院の庭園に移動した。

「ここでよろしいのですか?」

 寺院騎士は庭園の途中で立ち止まったサーシャに不思議そうに尋ねた。

「はい、隠の気に触れ過ぎましたので身を清めるのに、ここはとても空気も気も綺麗です。何よりも陽の気に満ち溢れていますので。」

「わかりました。では、私は司祭様に報告しに参ります。他のものをよこしますので、少々お待ちください」

「はい、お願いします」

 サーシャは笑顔で寺院騎士を送ると、急いで杖をしまい。エリオットの体を支えて近くのベンチに座らせた。

 エリオットの顔は青白くなっていた。額をさわれば冷たくなっている。


「神慮めでたく θεραπεία,ίασις 」

 サーシャがそう唱えると血色が少し戻った。

「少しは楽になりましたか?」

「えぇ、だいぶ楽になりました。はぁ、あの銃は本当に凄いですね」

「凄いじゃないですよ。やりすぎないようにと言ったでしょう? 神代の技術を入れたとか言う危ない代物なのですから」

「ですが、そのおかげで邪神に一泡吹かせられましたよ!」

「はぁ……いつも冷静なエリオットは何処にいったんです?」

 嬉しそうに言うエリオットにサーシャは額に手を当ててため息をついた。先ほどエリオットが使った銃は特殊な銃で、寺院の研究者達が古文書から作りはしたけど、マナも消費して危険すぎるという代物だった。

 それをマナ貯蔵庫であり自己調整ができるエリオットだけが使用許可をもらえているのだが、マナを込める量は自分で選べ、また威力も変えられるのだ。

 今までは大量のマナ消費ではなく、結界などの少量のマナで十分な用途でしか使用していなかった。今回のような悪魔への攻撃は初めてで、実はぶっつけ本番という荒技で時空を曲げて穴を開けてみたという怖いことをしていたのだった。

「はぁ、成功したから良かったですが」

「理論上可能でしたから。いやーすごいですね。こんなにマナを消費するとは思ってもみませんでした。子供の時以来ですよ! 神代の人たちはどのくらいマナを持っていたんですかねぇ。技術的には存在していましたが誰も法術では不可能でしたし。マナと法術を混ぜるという技法は結構良いのでは?!」

「そんな青白い顔で言われて、はい、そうです、とは言えないですよ。他の人がやったら死んでしまいます。そもそもマナの消費は寺院が認めていないでしょ。貴方の場合は特別に許可されているだけだということを忘れなきよう」

「あははは。確かに」

「あの法術はきっと異界の魂を撃ち抜いたことで可能だっただけでしょうし」

「と言いますと?」

「エリオットのマナだけでなく、あの囚人のマナも使用して悪魔がいる空間へと捻れさせたということです。悪魔から力を得て、しかも直接あっていたということは、それだけマナ量も多かったはずですし、強固な繋がりができていましたからね」

「確かに、ですが異界の者に法術は効きにくく、マナであれば攻撃が効くということは実証されましたね」

「えぇ、逆にマナの消費も激しいだから体が崩れたのでしょう。逆に、馬車の転移も同じ現象が起きてるやもしれません」

「痕跡が残らないほどマナ消費させるということですね」

「えぇ」


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