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転生神子(てんせいじんご)  作者: siro


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寺院の地下には

 エリオットとサーシャは都の中心にある寺院に来ていた。この地域で一番大きな寺院といってもいいだろう。堅牢な外壁と神官たちが住まう宿舎、そして増改築によって大きくなった本殿がある。

 下位を示す灰色の法衣を身にまとう神官たちは敷地内で掃除に励んでいる。

「ここは落ち着いていていいですね」

 サーシャが思わず口にすれば案内を任されている寺院の騎士が誇らしげに頷いた。

「はい、ここは一番清らかな場所です。精霊たちも時々遊びにいらしているそうです。私は見ることができませんが。子供達には姿を見せていることが多いそうです」

「なるほど。それは素晴らしい」


 精霊達は滅多に姿を現さない。気に入ったものや清らかな場所にしか出てこないのだ。

「精霊が出ると……見てみたいですね」

「エリオットはマナが多すぎて近づけないだけですよ。もう少し抑えられれば見れます。端っこで貴方のマナを食べてる精霊をよく見かけますから」

「これでも結構抑えているのですが……マナなんていっぱいあげるのでぜひ近くで見たいですね」

 残念そうにエリオットはつぶやいた。その様子に寺院騎士はびっくりしながらも、立ち入りが制限されているエリアへと進んでいった。


 ここに来たのは、邪教徒たちをここの地下牢へと拘束しているからだ。この地域の寺院も邪教徒を野放しにしていたわけではなく、小さい組織はしっかりと取り締まっていた。そして、大体の清掃が終わったという報告もきたため、確認のためにきたのだ。もちろん中には組織の中心人物も紛れていた。


 寺院の地下牢は薄暗く、松明がほのかに照らし、出入り口には法術が刻み込まれ淡く輝いている。これによって囚人達が外に出ることが叶わない。力技で出た場合はすぐに警告音が響くのだ。


 そして中では汚い言葉が飛び交っていた。

「われらの神が本物だ!」

「権力者の犬め!! 腐敗した神官どもが!!」

「何が流転の神だ! 我らの力に怯えてるだけだろう!」

「いつまでもいい気になるなよ!!」


 まともに聞こえた言葉だけをサーシャは少しだけ聞くと小声で法術を唱えて音を遮断した。それに驚いたのは牢にいた囚人たちだった。どんなに叫んでも声は聞こえず、ただ口をパクパクさせるだけ。


「静かになりましたね。ホルポクラースというのは初めて耳にしますが」

 エリオットがサーシャが唱えた知らない単語について聞いた。

「神々の時代にいた沈黙の神です。騒がしい場所が嫌いな神なのであまり文献にも残っていない神ですよ。このような場所にうってつけです。まぁ信仰心が足りないと全く効力を発揮しませんが」

「なるほど……ホルポクラース、ホルポクラース覚えました。それで、その神は」

「まずは仕事を終えてからですよ。エリオット」

「わ、わかっています」

 エリオットはもっとその神について知りたかったが、ぐっと堪えた。

 サーシャは時々エリオットでも知らないことを知っているのだ。そういう時は、思わず前のめりで聞いてしまうのだった。地域によって違う神の話、何よりも法術も古代語で唱えたほうが威力が上がる謎。小さい頃からの影響もあるのかもしれないが、神についての探究心が疼くのだ。


 寺院騎士は静かになった周りとサーシャの法術のすごさに感銘していた。それに気づいたのはエリオットで咳払いをすると、気持ちを切り替えて案内をする寺院騎士を促した。

「すいません。案内をお願いします」

 寺院騎士は慌てて返事をして奥へと案内された。ここにはマナ量が多い囚人が入れられている。狭い一人用の檻ににはマナ封じの印も掘られて力技で抜け出せないようになっていた。


 両手を鉄枷で封じられ、猿轡まで施されている。

 エリオットのモノクル越しに見えるマナ量は燃え上がるように強く光って見えていた。

「ふーん。マナ量は結構ありますね。なるほど、法術を頼らなくてもマナだけでやったほうが早いという考えに至ったと」

 睨みつけてくる囚人を見ながらエリオットが自分の考えを呟けば、サーシャはため息をつきながら頷いた。

「法術の方はからっきしといったところですね〜。はぁ、邪神にしっかり印をつけられてる。穢れが魂にくっついてるわ、これは剥がせない」

「魂ですか? では浄化でも厳しいと」

「えぇ、これは取れないわ。輪廻転成も無理ね……考えたわね」


 二人の言葉に寺院騎士は驚いた。

「輪廻転成もですか?!」

「えぇ、もうこの世界の住民として扱えなくなっているわ。死んだら終わり消滅か、悪魔に魂を食べられるだけね。食べられた後どうなるのかは知らないけど」


 その言葉に寺院騎士は恐ろしいものを見るように囚人達を見た。言われた本人達は気にすることもなく堂々としている。


「はぁ、この世界の摂理の思考はもうないようですね」

 サーシャがため息交じりに呟けばエリオットも頷いた。

「処刑しかありませんね」

「えぇ、このまま置いておくのも危険です」

「では」


 二人は顔を見合わせ、エリオットは杖を出現させて祈りを行なった。

「「神慮めでたく 親愛なる流転の女神よ 神使いの使命を持って かの者達を審査奉」」


 そう二人が唱えると囚人達は青い炎に包まれ始めた。


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