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「ただいまっと」
サーシャが館に戻ってくるも、返事はなく中には誰もいないようす。
「誰もいないのか……」
小さくため息をついて、台所へと向かった。飲み物を失敬しつつ食材を眺めているとダリが入ってきた。
「おう、帰ってきたのか」
「うん、ただいまー。また大荷物だね」
「あぁ、魚と肉。それから葉物野菜と果物が手に入った」
「おぉー」
「処理するから、お菓子はまってな」
「大丈夫、お菓子はカフェで食べてきた」
「なるほど」
ダリがテキパキと木箱から食材を取り出してしまっていくのを眺めながらサーシャは聞いた。
「市場はどうでしたか?」
「ぼちぼちだなぁー。最近、タックスイナからの家具系が多く輸入されてるらしいな。商人どもが露天場所がそいつらが優先されてムカつくってな。しかも高くて庶民には買えんって話で盛り上がってたな。んで家具より芋が欲しいって野菜やのおっさんが言ってたぜ。あそこは芋の種類が豊富だから、確かに芋が手に入ったら面白い菓子も作れる」
「菓子は食べてみたいわね。それにしても家具ねー」
タックスイナ国はくだんの留学生の問題もあり、怪しさ満点に感じられた。何よりもこの国、ウシューリナオ国と友好国ではなかった国だ。
「そ、家具がな〜。他には、ヘッスクフェイブがきな臭いだと。鉄を多く輸入してるとか」
「またどこかに喧嘩売る気かしら?」
ヘッスクフェイブはこの国から結構離れた国だが大国で軍事力もあり、かの国の友好国になれば怖いもの無しと言われる。
だが同時に横柄であるのも事実で敵対国は多かった。何よりあえて戦争をしている節があるのだが、死人に口無しとは言ったもので常に勝者の国であるため、誰も文句が言えない。
そしてこの国とも仲が良いとは言えない。距離があるからこそ表立って敵対はしていないという状態だ。
「かもな。まーあそこは傭兵にも金払いがいいからなぁ。寺院への寄付金も多いってきくしなぁ、熱心な信者が多いよな」
「そうね。寺院が出向く案件はないでしょうね。過激な思想なのが厄介だけど……司祭クラスにまで上がれる信者が多い国だし。聖王様もたしなめる程度にしか口出しできないわ。下手に突っついて寺院が攻撃されかねないわ」
「だな」
「そうそう、タックスイナからの留学生なんだけど、議会制度推進派の貴族と仲良しこよしよ」
「おー。これは繋がった感じか?」
「かもしれない。タックスイナってどんな国か詳しく知ってる? 行ったことある?」
「んーあるな。いい意味でも悪い意味でも不思議な国だったな」
そう言いながらダリは魚をさばき始めた。手慣れた様子で塩水で洗い落としながら三枚におろし、内臓を取り除いて骨を取る作業は素早くあっという間に終わってしまう。
サーシャはその手さばきを眺めながら続きを促した。
「それはどういうこと?」
「あそこは、ガイエイス神をいまだに信仰している地域があるんだよ」
「ガイエイス神は昔いた土神だから流転の女神と一緒に信仰する分には問題ないけど……」
寺院としては流転の女神だけを信仰して欲しいが、古来多数の神々が存在しその土地に住んでいたりすると、神に見捨てられてもなお信仰し続けている一族はいるのだ。それは海であったり山であったり特殊な土地と、災害に会いやすい地域は特にその信仰は残されている。
「んーそうなんだが、面白いことに寺院の目を盗んでちょこちょこ変な宗教が生まれては消えてる場所でもあるんだよ」
「えぇ?!」
「もちろん国を挙げて取り締まってるし、寺院側も潰してはいるんだが」
「それは初耳だわ」
「ほとんど害になるような規模じゃねーからな。多くて二十人とかの規模だったぜ。お遊び感もある奴らもいたしな」
「へーそれで派遣されてたのね」
「あぁ、掃除に行ったことがある。なんか知らんが不思議な思想が生まれる国だったな。司祭がなんか言ってたな……なんだっけか?」
唸りながらも、調理する手は止まらず魚を塩漬けにすると次は肉をさばいていく。今日の夕飯は肉なのか魚ののかどっちだろうかとサーシャが予想を立ているとダリが顔を上げて大きな声を出した。
「あ! 思い出した。星が落ちるときにそういう思想を持った人間が生まれるっぽいんだよ」
「星が落ちるとき?」
「そう、あそこは良く星が落ちるので有名な砂漠があってな、俺も休みをもらってみにいったが本当に落ちてるんだわ。真っ黒になった熱い鉄かと思ったら不思議なきらめきがあってな。そういうときに、神の啓示を受けて宗教を立ち上げたっていうやつが多いらしい」
「神の啓示……」
「あぁ」
「ふーん……」
サーシャは訝しげにしながらも、転がってきたリンゴを服で拭いかじりついた。
「甘みが少ないわ」
「つまみ食いすんなって」
かじりついたリンゴは奪われて、かじりついたところだけナイフで切り取られサーシャの手元に戻ってきた。
「これはジャムにするんだよ」
「出来上がったら呼んでね」
「ほいほい」
サーシャは台所から出るとエリオットがいつも使う仕事部屋へに向かった。
筆記用具を引っ張り出すと、忘れないうちに今日のことを時系列で羅列し、自分の考えを最後まとめて書き上げると両手を置いて法術を唱えると文字が消え失せた。
「あぁ、もう戻ってきたんですね。また何かありましたか?」
「えぇ、あったから報告していたわ。エリオットにも伝えた方がいいわね」
そういうと、今日のこれまでのことを話せば。エリオットも頭を抱えて唸った。
「これはなかなか面倒そうですね。職員同士でもピリピリしています。特に派閥争いが」
「あらら」
「サミエル教授に派閥に入れと勧誘……みたいなことをグルーゲル教授がしていましてね。まぁー私も入れと言われましたが。丁重にお断りさせていただきました」
「グルーゲル教授って何科でしたっけ?」
「……グルーゲル教授わかっていないんですね。はぁ、あなたがカエルみたいだと表現された教授ですよ」
「あぁ!思い出したわ! あのいけ好かない差別クソジジイね!!」
サーシャはカエル男を思い出し思わず口悪く罵ってしまった。こちらにきた当初にムカついたことをされたのだが、あまりのカエル顔で笑うのを耐えたことと悪態をついた事しか覚えていない。つまりサーシャ的には相手をするのは時間の無駄と判断した教師だ。
「サーシャ……口が汚いですよ」
「おっと、ごめんあそばせ〜。おほほほ〜。そのカエルがまたゲコゲコ騒いでるのね。礼儀作法の教師とは思えない男よね」
「はぁ……そうですね。まぁ、そいつは第二王子派でした」
「あらーそれは面倒ね」
「えぇ、まぁ要約すると王子の点数が悪いから上げろと言う内容も言ってましたが」
「ふーん」
「どうやら、最近第二王子派の教師陣が活発に活動している様子です。それを中立派やエモニエ公爵派の教師陣が警戒しうごかならざる終えないとも見えますが」
「……のんびり観戦なんてできないって感じね」
「えぇ」
二人がため息をついたときに、サーシャが先ほど送った手紙の返事が返ってきた。
その内容は第一王子と接触せよという内容だった。
「キーマンはどうやら第一王子のようですね」
「ですねー」




