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転生神子(てんせいじんご)  作者: siro


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エカテリーナの心の内は?

「お嬢様、このまま見過ごすのですか!」


 お茶会から離れた時、アルベルトが悔しそうに言うのを聞いて、エカテリーナは思わず眉間にしわを寄せてしまった。隣にいるスーリャも悔しげな表情をしている。


「いえ、見過ごす訳ではありません。ただ、あそこで争ってもなにも生まれないでしょう。流石にこの件については王とお父様に連絡します」

「あの場にいた子息達の家にも!」

「その判断は、お父様がするわ。アルベルト、腹立しいのは分かるけど、殺気を抑えてちょうだい。あの場で何かあっても、全て王子達の良いようにしか物事は進まないわ」

「……はい、申し訳ありません」


 アルベルトは謝罪したが、その両手はきつく握りしめられていた。エカテリーナもいい加減、我慢の限界に近づいてきている。本来なら婚約者同士の交流会という名のお茶会だというのに、今は交流とは言い難い時間になり、回を追うごとに王子たちのあたりもきつくなっているのだ。


「部屋に戻るわ」

「「はい」」


 エカテリーナは部屋に戻ると、疲れたようにベッドに横たわった。スーリャは紅茶の準備をはじめ、部屋の中に芳しい香りが充満し、体の緊張が少し抜けた。


「いつまであの王子の相手をしなきゃいけないのかしら」

「お嬢様……」

「さっさと結婚して、愛人と一緒に離宮にでも引っ込んでいてほしいわ」

「本音がダダ漏れですね。アルベルトが見たら驚いてしまいますよ」

「アルベルトね……あの殺意どうにかならないかしら。向けたくなるのは分かるわ、私も向けたいもの。でも、あの場所では抑えないと」

「そうですね。……彼はお嬢様一筋ですから」

「一筋ね……はぁ」


 エカテリーナは頭痛が増した気がした。あそこでサーシャ教授が現れて本当に良かったとエカテリーナは思った。一度ならず2度も助かったのだ。これでこの国の内情が見せられたとも。

 エカテリーナは重く感じる体をベッドから引き剥がすと、机に向かい手紙をしたため始めた。


「もどかしいわね。公爵令嬢といっても、名前ばかりで使える手が少ないわ」

「お嬢様、ご学友たちはどうでしょうか?」

「信用できる子は、力がないから突っ込ませる気は無いわ。他の子は、どっちつかずね。あの王子を見ていればそうなるでしょう」


 まずは父親の手紙を書ききると、一息つけるためにスーリャが入れてくれた紅茶を飲んだ。


「スーリャ、手紙が書き終わったら……学園内はいま微妙ね。そうね、アルベルトと一緒に学園の外の郵便で手紙を出してちょうだい」

「かしこまりました。その方がよろしいかと思います。侍女たちの間で一部のお嬢様のお手紙が紛失しているそうです」

「そう……王の派閥の子達かしら」

「はい」


 その言葉に、エカテリーナは頭を押さえた。きっと手紙の中身を見て処分されたのだろう。王子の態度は褒められるものではない、ましてや学園はあるいみ未来の小さな国だ。この中で起きていることを親に伝え判断を仰ぐ子は多い。

 もちろん、エカテリーナもそれを十分理解している。自分の所作で公爵家がどう見られるか……。

 言葉を選びながら、なんと王への手紙をしたためきると、二つの手紙に封蝋を施し、しっかりと乾いたのを確認するとスーリャにお駄賃と一緒に手渡した。


「気をつけて行ってきてね」

「かしこまりました。お嬢様もお気をつけてください」

「大丈夫、部屋から出る気は無いわ」


 そう微笑むと、スーリャを送り出した。


「はぁ……疲れた」


 エカテリーナはそう呟きながらも本を取り出し、読みかけのページを開いた。

 心を落ち着かせるためにお茶を口にするも、頭の中では学園内のことでいっぱいだ。寺院側の動きはいまだに読めず。神使いが今年も滞在するということは、まだ神の御意志に反するものがこの国にいるということだとエカテリーナは思っている。

 もしくは、第二王子の行動そのものが神の意思に反しているのではと、何よりエカテリーナと第二王子の婚姻は寺院も認めるものだと聞き及んでいる。


(寺院側も私と王子を婚姻させたい理由があるはず。ならば、この状況をよく思わず介入してくれるとおもうのだけれども)


 それでもまだ静観している様子がある。やはり王子の派閥ということで向こうも慎重になっているのかと思案するも情報は少なすぎて判断が難しかった。


(とりあえず、先ほど助けてくれた様子にこちらに味方をしてくれるそぶりがあったと思うべきね)


 そう自分自身を納得させると次に思い浮かぶのは第二王子だ。

 貴族の令嬢として、王子の妃になるため。それを目標に今まで頑張ってきたのだ。それをあんな怪しい女子生徒に王子の心が奪われ、学園でも王子としての役割を果たさない男に怒りがこみ上げてきていた。


「あんなんでも、昔はマシだったのに……。クリスティアン様が倒れてから、もう王太子気取りね……あくまでも第二王子だというのに」


 エカテリーナはかつて王宮であったことのある第一王子クリスティアンを思い出した。もう、本の中身は頭に入ってこない。

 王宮でわがままな第二王子のジェモンに泣かされて中庭に隠れていた時に助けてくれた5歳年上の王子様。エカテリーナにとって、まさしく本の中に出てくる王子が出てきたかのように思えたほどだった。


 優しくて、なんでも知っている優しい王子様。


 あの当時、クリスティアンは病弱ではなかった。やはり、権力争いにより毒を盛られているのだろうとエカテリーナは予想していた。だからこそ、はやく直にお会いしたいのだが、病弱を理由に今やどの貴族も会いに行けない。

 

「早く、王宮に入らないと……」


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