槍玉に挙げる
「どうでしたか?」
部屋から出てきたサーシャにエリオットは掃除していた手を止めて聞いた。
「嫌な噂を聞かされました。それと人員を増やしてくださるそうです」
「それは良かった。……ということは、まだまだこの国は掃除が必要ということですね」
「えぇ」
エリオットも小さなため息をついて肩を落とした。
「私は、気になることもあるので、ちょっと構内を散歩してきます」
「わかりました。私は、掃除をもう少ししてから授業の打ち合わせにいきますので」
「気をつけてくださいね」
「サーシャさんこそ、女性というだけで狙われやすさは倍増しますから」
「はぁ、確かに」
サーシャは軽く手を振ってその場を後にした。
気になることはたくさんあるが。どれも汚れの根幹には届かないのだ。何よりも第二王子の星がほぼ消えた、王族である人間が違う神を信仰するなんてサーシャからしてみたらありえなかった。
「どこで染まったんだろう」
構内をあてもなく歩いていると、渡り廊下のところで小さなお茶会が見えた。
公爵令嬢と第二王子、そして第二王子の愛人と取り巻きの姿に、サーシャは思わず柱の陰に隠れて覗き見することにした。
「わーなにあれ、もう事件の匂いしかしないじゃない」
聞こえてくる会話は案の定、揉めているないようだ。どうやらこのお茶会は王に言われて毎月開催されているのに、そこに王子の愛人である平民の娘。正確には、この貴族の養女となったらしいが……。
能力が高いという平民の娘の名はエイミーというらしい。
会話からどんどん情報が出てくる様子にサーシャは完全に楽しんで見ていた。
「古臭いしきたりをいつまでもやっているから国が発展しないのだ!!エイミーのように新しい試みをするものを支えるのも王族の務めだ!」
いきなり王子の大きな声が響き渡った。聞こえていた前の話では、礼儀を守れというエカテリーナ注意だったのだが、礼儀作法はあるいみ資格のようなものだとサーシャは思っている。
礼儀作法を知り、その中に入る資格を得るのだ。貴族であれば貴族の礼儀を、一般市民には一般生活の礼儀があるように。時と場所を判別する能力は重要だ。それを一番理解しなければならない王子の口から出たことに、サーシャは孤児院だったら蹴り飛ばして説教していたなっと思わず想像してしまった。
それに対してエカテリーナも黙っておらず、冷静に返しているが。
「あーあれは逆効果ね」
反発すればするほど、王子は逆上していくし、周りは王子の味方だ。エカテリーナ従者がすごい殺気を放っているしでこれは下手したら刃傷沙汰になるのでは? と思うほど殺伐としてきている。
流石に、このままでは危険そうだ。
「多勢無勢ってこういうことを言うのかしら。貴方達、声がここまで響いてますよ」
サーシャが横槍を入れてやると、全員こちらを一気に向いた。手を振ってあげれば、王子は舌打ちをしエカテリーナは礼儀正しく礼をした。
「少し暑くなってしまいました。これ以上はお茶の気分でもありませんし、失礼させていただきます。サーシャ教授、お騒がせしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ〜」
エカテリーナは颯爽と去っていくと、王子達はこちらをにらみながら自分たちだけでお茶会を続行する様子。サーシャはエカテリーナが無事建物内に入ったのを確認すると場所を移動した。
「なんだか、変な空気よねー」
王子達が気になり、お茶会の声がもっと拾える場所へと移動する。
「……たく。頭でっかちな女め」
「本当、上から目線で腹が立ちますね。女王のつもりでしょうか」
「ニコリともしないで可愛くない。はぁ、なまじっか頭がいいと困りますね」
「すぐに感情的になるがな」
聞こえてくるのはやはり、エカテリーナへの悪口だった。上から目線に感じるのは実際、自分が下の立場だと思っているからだろうにっとサーシャは思わず心の中でつぶやいた。王子以外は公爵令嬢より下の身分だ。まさしく正しいのだが。
「それにしても、あの寺院の女。背が低いからとあんな渡り廊下から声をかけるなんて。いつもみたいにエリオット教授の後ろに立って黙っていればいいのに」
「私あの女キラーイ。法術なんてマナを使えばいいのに、こないだマナを封印してきたのよ。本当サイテー。マナを使わずに信仰心でやれですってー馬鹿らしい」
「本当だな、マナを使えば強い威力が出せるのに、寺院の奴らはマナの使用を禁止するばかりだ。脳みそが古いだよ」
「古代の時代から変わってないんだろ」
「本当ですね。マナという力があるのに使わないなんて。時代錯誤もいいところです」
そして、古臭い寺院関係者への罵倒だった。しっかり勉強をすればなぜマナを使うことを禁止しているか分かるものなのだが。どうやら表面的な部分しか頭に入れていないらしい。
「ふむ……もしかして……」
少し考えた後、頭から煙が出そうなほど痛くなったので、エリオットに丸投げすることに決めたサーシャだった。
とりあえず、今思いついたことは後でエリオットに投げて、引き続き構内散歩に繰り出したのだった。




