5月30日 ある御者見習いの手記 +α
●Δαίσιος λ'
忙しくて日記があいてしまった。
忙しかったのは、邪教のせいだったんだけどそれだけじゃなかったし。
しかも、サーシャさんと一緒にお茶ができなかった!! みかけてもサーシャさんはイライラしてる様子だった。誰だよ!サーシャさんをイラつかせる奴は!エリオットか?!って思ったら、エリオットもイラついてた。
原因は、なんでも、寺院関係者でもない奴が関係者と偽って法術の臨時教師になってたとか! なんて奴だ! 法術はとても神聖な行為なのに!
サーシャさんの法術はとても素晴らしいだぞ。ほかの人たちとは違っていて、サーシャさんが振るう杖と一緒にとても綺麗な音と包み込むような感覚がするんだ。
キラキラして本当に美しい。祭事のさいのサーシャさんの姿は女神そのもの、あの年も、って話がずれちゃった。
そうそう、それで僕も都市の寺院を巡ってそいつが本当に在籍しているかとかの証拠集めに走らされたんだ。
本当に大変だった。良い寺院もあればクソみたいな寺院もあったし、全部報告書にあげたけどね!
使いっ走りだからって僕も寺院の馬丁に所属しているだぞ! 表向きは馬丁だけど竜だぞ竜! 言ってやりたいけど竜って貴重だしさらわれやすいから言えないだよなー。
そうそう、それで、そいつをとっ捕まえたらしい。僕も一緒に居たかったーーー!ちょうどその時お使いで外に行ってた最中だったんだよね。
かえってきたらダリが教えてくれたけど、そいつサーシャさんを侮辱したらしい。僕が尋問してやりたかった!寺院を名乗るのも最低なのに、サーシャさんを侮辱だぞ許すまじ!!!
ボッコボコにしてやるのに!!
しかもサーシャさんが特別授業をしたとか羨ましい!なんだよそれ!僕も見たかった!!
その場にいた生徒たちも見たらしいけど、見たとかいう生徒の話し声を聞いた感じ、寺院で習う初級編を教えてくれたらしい。くそぉーーー僕も習いたかった〜!
僕は思いが強すぎるからコントロールするまで使っちゃダメって言われてるのにー!
何よりもサーシャさんのファンが増えちゃってるじゃないか。サーシャさんが素晴らしいのを理解してくれるのは嬉しいけど!嬉しいけど!!
うぉおおおおおおおおお!!
僕もサーシャさんの法術がみたいよー!
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僕が思いの丈を日記にしたためていると、肩を叩かれた。
「うわっ! なんですか?!」
振り返れば、綺麗に髪の毛がセットされたご令嬢。見ただけで貴族だとわかるセンスの良い香りとシワのない制服。そして後ろに控える従者であろう生徒。
「わぁ! ぼ、ぼくになんのご、ごようですか?!」
あわてて日記を隠しながら立ち上がれば、ご令嬢は苦笑された。
でも後ろにいる男性は僕を睨んでくるんですけど!!
「あぁ、アルベルト睨むのはやめてちょうだい。彼はサーシャ教授たちの関係者ですよ」
「はっ」
ご令嬢がたしなめるとすぐに視線は外れたけど、僕は怖いよ! ここなら誰もこないと思ったのに、ここって穴場のカフェテリアなんだよ。教員たちが使うエリアの端っこにあるお茶とお菓子しかない場所だから。人が少ないし。館にも近いから日記を書くには便利なのに。
「ごめんなさいね。日記の途中に」
「い、いえ!」
「その、サーシャ教授についてお聞きしたくて」
「サーシャさんですか? あの、神使い様のことについてはお話しちゃいけないんです」
「……そうですか。いえ、先日特別補講を受けて、とても素晴らしくて」
「え! サーシャさんの授業を受けられたんですか! いいな! 僕も受けたかったー」
「……えぇ、とても素晴らしかったんです。やはりサーシャ教授の授業は特別なんですね!」
ご令嬢はもしや、サーシャさんの魅力に気づいたファンか! よし、ここは僕が先輩としてサーシャさんの素晴らしさを教えてあげよう。ついでにどんな授業だったか聞きたいし!
「ええ! もちろんですよ。サーシャさんは寺院に入られた時から、素晴らしい法術使いです。催事の際のサーシャさんはとても美しく、神の息吹がより身近に感じられるんです。どうぞ!椅子に座ってください!あのですね!サーシャさんはとっても素晴らしいですよ。普段控えめにされてるんでわからないと思いますが!」
「えぇ、そうですね。私も直接お話をさせていただいて、感じました。サーシャ教授といるとホッと致します」
「そうなんです! サーシャさんの周りはまるで寺院の聖域のように、静謐で心が穏やかになるんです! なので孤児院にいた時には、子供達に常に囲まれていたんですよ!」
「まぁ、孤児院にも在籍されていたんですか?」
「はい、僕もその時からお見かけして。というか僕もその子供の一人なんですけどね。寺院関係者の子供は孤児院でも遊んでもよくて、僕もよくサーシャさんにしがみついていたんです。サーシャさんてきにはずっと孤児院の神官でよかったらしいですが、あんなに素晴らしい方を見過ごすわけありませんからね!」
「確かに、そうですね。サーシャ教授は長年寺院にいらしたんですね。とても若く見えます!美しいし品もありますし!」
「えぇ! 長く在籍されていますよ! サーシャさんは長命種らしいですからね。元は貴族だそうですよ。旦那さんが亡くなられて寺院に来られたそうです。もうとても清らかですよね! なによりもあの笑顔はまるで女神様みたいで!」
「まぁ、貴族で、ご結婚も? それではお歳はかなり上なんでしょうか?」
「本当の年齢は知らないですが、兄よりも年上だし、あいつよりも年上だって聞いたことあるからー……25歳以上はのは確かです」
「そうなんですね……ありがとうございます」
「いえいえ。それで、特別補講はどうでしたか?!」
「えぇ、とても有意義にな時間でした。他の教授では教えていただけなかったことや、何よりも神への祈りの大切さを学べましたわ。法術にマナは関係ないと言われて、ホッと致しましたし」
「あぁ、法術とマナを同一に見る人は多いですよね。サーシャさんなんてマナがとても少ないですから。本当マナ量と関係ないです」
「えぇ、私も実感いたしましたわ。でもマナで補ってしまう人が多いのは困りますね」
「やりすぎると自分に跳ね帰ってくることを知らない人がこの国の人は多いですよね」
「跳ね返る?」
「あれ? そこまではされていないんですね」
やばっつ喋りすぎちゃったかな。でも、基本だから忘れないようにって寺院では習うけどなー
「マナに頼りすぎてはいけないとは教わります。マナは生命力だと」
「えぇ、だから頼りすぎてマナを使いすぎると生命力は失われて、最悪死んじゃうから使いすぎてはいけないですよ?」
「なるほど……だから寺院は魔導具を規制されているんですね」
「はい。魔導具なんて人のマナを関係なしに吸い取っちゃう代物ですからね」
「それで跳ね返るというのはどういうことでしょうか?」
「えっと……その……法術は神への祈りによって成立する術なので神様を無視し続けるのは冒涜に当たりますよね?」
「はい」
「なので……その……」
あんまり話しちゃいけないって言われてたの思い出しちゃった。跳ね帰りは文字通り、術が帰ってくるだよね。最悪体が壊れちゃうとか。
「……誰にも言いませんわ。サーシャ教授のような素晴らしい方になりたいのです」
「ここだけの話ですよ。文字通り術が帰ってきちゃうんです。マナを取り戻すために体が勝手にやっちゃうそうなんですけど。攻撃のマナをだしていたら、自分を攻撃しちゃうし、癒しをかけていたら自分を癒しちゃうんです。そうなると、ちゃんと法術を理解しないかぎり、術は自分自身にしか使えなくなっちゃうんです」
「まぁ、そうだったんですね。ありがとうございます。有意義な時間でしたわ。あ、そうでした。これサーシャ教授にお礼の品としてお渡しいただけますか? こちらは皆さんようです」
ご令嬢はそういうと、女子生徒が持ってきたプレゼントを僕に渡して立ち去ってしまった。
「話しすぎちゃったかな? というかこれはなんだろう? クンクン、一つはお菓子だな。もう一つはわかんないや」
でも、サーシャさんに貢物だなんて。さすが貴族。早い!僕もお小遣い溜まったらサーシャさんに何かプレゼントを贈らなければ!!




