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転生神子(てんせいじんご)  作者: siro


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法衣の正しい使いかた

 愕然とした表情で固まるサミエルにサーシャは悪い笑みを浮かべた。

「法術を極めればこのくらい普通ですよ。さて、魔導具は没収です。ルース」

 そうサーシャが言うと、どこからともなくルースが現れ、サミエルの手元から魔導具を奪った。今日の服装は寺院の護衛騎士としての正装だ。白銀の胴鎧を身につけ、認識阻害のマントを身につけていた。

 サミエルは驚き、逃げようとするも、入口はエリオット達が、窓の方向にはサーシャとルース。目の前には生徒達がいる。


「わ、私はフリューゲル伯爵家の!」

「はいはい、フリューゲル伯爵家のお坊ちゃんなんですね。それがどうしましたか?」

 まるで効果のない様子にサミエルの顔は真っ青だ、その視線は講堂の上に向けられる。サーシャもチラリと目で追えば、そこには第二王子がいた。

 不愉快そうな顔でサミエルの視線を無視する様子に、どうやら見捨てられたようだ。


 サーシャは心の中でため息をつきながら、エリオットを見れば、彼も頷いて人事官に告げた。

「寺院からの紹介ではないということですので、彼に法術の授業は無理。この補講は無効。この男がつけた生徒の評価も無効です。よろしいですね?」

 そう宣言すると補講にきていた生徒達は嬉しそうに手を叩いて喜んだ。法術の授業は一部の生徒にとっては就職先が決まる授業でもあるのだ。卒業後、跡取りでない貴族の子は寺院に所属することが多いのだ。

 その際に見られるのは法術の成績だ。


「えっと、フリューゲル伯爵からのご紹介なので、そのお…んびんに……」

 人事官はもごもごと何か呟き、なんとかしようとしている様子にサーシャがジロリと睨めば、人事官は身を小さくしてその視線から逃げるように視線を逸らした。


「彼は寺院関係者ではありません。むしろ犯罪者です。未来ある寺院の小さな星達を潰そうとしたのですから。これは歴とした背信行為であり、犯罪です」

 サーシャが断言するとサミエルは声を荒げた。

「わ、私は本物だ!! 法衣は本物!! これは寺院関係者しか着れない! 偽装する服屋もない!!」


「そうですね。その衣は本物ようですが、本当に本人のものですか?」

 エリオットは顎に手を当てて言い放つと、サーシャも頷いた。


「そうですね。生徒達もこのような機会なかなかないでしょうし。未来の小さな星達にも見せた方がいいですね。では、法術を唱えて名を名乗りなさい」

 サーシャが杖を向けてサミエルに言い放った。

「知ってるだろうが。俺の名は」

「法術を唱えて」


「サーシャ殿、私が見本を見せます」

 そういってラディエルが前に出た

「神慮めでたく μάγοςマゴス υπηρχεωイクニオス メタリエッズ ラディエル」

 唱えると衣の胸元の帯が淡く光、古語でラディエルと浮かび上がった。生徒達は身を乗り出してその様子を凝視した。小声で古語の意味や、法術の言葉の意味を考える生徒達までいた。


「さぁ、貴方も唱えなさい」

「な、なんで俺が」

 サミエルは冷や汗をかきはじめていた。古語は貴族にとって必須科目だ。単語は読み取れなかったサミエルでも、何かまずいことが起きると言うことはわかった。


「唱えないとあらば、神使いの権限によりあなたは処刑ですよ」

「は?!」

「偽物の聖職者を野放しにするわけがないでしょう? しかもこの学園で教鞭をとったとなれば、なおさら」

 サーシャの言葉と同時に、横に控えていたルースがするりと剣を抜き、サミエルに向ける。


「ちっ……神慮めでたく マゴス イクニオス  メタリエッズ サミエル」

 サミエルがヤケクソで唱えた瞬間、帯が淡く光り、違う名前が浮かび上がると、結び目が解けてサミエルの首を締めた。

「ぐぁっ!!!」


 その様子をサーシャとエリオットは冷静に観ながら

「「処刑です」」

「ダリ、こいつを寺院の牢獄に」

「はいよっと」

 ひょっこり現れたダリも今日は正装だ、そして暴れるサミエルを軽々と持ち上げると講堂から連れて行ってしまった。


 ラディエルは顔を真っ青だった。後ろにいる人事官も同じように真っ青だった。生徒達はざわつき、思い思いに話している。


「このように、神官の衣装を勝手に着る行為は処罰対象になります。なので、もしも神官になったさいには、自分の服を貸してはいけませんし借りてもいけません。個人個人に名がつけられ、身を守る鎧、そして武器にもなり得ます」

 エリットの言葉に、一人の生徒が手を挙げた。


「はい、なんでしょう」

「エリオット教授、先ほどサミエルきょ……彼が唱えた時、古語で、エスターシャと浮かび上がったように見えました。ラディエル教授と違ってオレンジ色に光ったのは何故ですか?」

「素晴らしい、古語を理解されているのですね。えぇ、あの法衣の持ち主の名前です。そして持ち主が探すための法術も放っていたので、オレンジ色に光り、帯が彼の首を締めたのです」

「はい、何故今締まったんですか?」

「認証の法術を唱えさせたからです。まぁ、彼が一歩でも寺院に足を踏み入れていたら、関係なく帯が彼の首を締めましたけどね。そう言う防犯の呪が施されているんですよ」


 エリオットが説明し終わったタイミングで、講堂の扉が勢いよく開いた。駆けつけたのはこの学園の理事官の一人。ズーエンという男だ。 

「どういうことですか?!」

「どうしましたか? ズーエンさん」

 サーシャが嬉々として返事をすれば、ズーエンは嫌そうにサーシャを見た。

「サミエル教授を連行するなんて! 彼は伯爵家から」

「伯爵家には寺院からおしらせします。偽物を学院に送り込み、しかも神官を名乗る詐欺罪の容疑で」

「ぇ?!」

「もちろん、学院側にも通達させていただきます。身元が不確かなものが教員を名乗るなどあってはならないこと。寺院としては監視人を増やさないといけませんね」

「は、はい」

 監視人という言葉で、やっとズーエンは事態の深刻さに気づいた。チラリと見た第二王子は興ざめしたのか取り巻きと一緒に教室を出て行った。


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