お怒りモードです
「神慮めでたく──……。測定器なら……マナを取り戻す法術で戻せますね」
サーシャは青白い顔の生徒の肩に触れながら言った。
「貴方なら出来るでしょう。私の言葉を復唱して」
そう言ってサーシャは法術を唱え始めた。それに習い生徒も声は小さいが復唱すると徐々に顔色がよくなった。
「これは……」
「不当に吸われたマナは取り戻すことが可能です。他人のは難しいですが、自分自身のマナであれば、信仰心が強いものほど可能です。よくできましたね。貴方は特星2です」
サーシャがニッコリと微笑みながら言った。特星とは成績だ。普通は特星のみだが、その上に特星2がある。
「貴方の法術であればすぐに寺院に入信できますよ」
「ほ、本当ですか!」
「えぇ」
サーシャはニッコリと微笑みながら答えた。
その後ろで顔を真っ赤にして立ち尽くす臨時教師に、周りの生徒はチラチラと様子を伺っている。
「あぁ、忘れていました。もう喋っていいですよ」
サーシャがそう言って杖を回すと、臨時教授は陸に上がったかのように口を開いて息を吸った。
「さ、サーシャ教授」
助けたもらった生徒は臨時教授の形相におののきサーシャの後ろに隠れるように身を縮こませた。両隣にいた友達も同じように身を寄せ合っている。
「き、貴様!!」
「なんです? 治療の邪魔をされそうでしたので、黙っていただいたのですがね」
サーシャは悪びれた様子もなく、むしろ不思議そうに首を傾げた。
「これは、私の授業だぞ!!」
「はいはい、それで誰の許可を取って授業をされているんですが? ご自分の間違った理論を広められるはご自身の中だけにしていただけませんかね? 生徒を殺す気ですか?」
「殺すだと?! マナ測定器で人は死にませんよ。測定をするだけなんですからね!」
「測定するにはマナを機械に通さないといけないんです。それもかなりの量を、だからこそ寺院が立ち会いのもと測定器にマナを流しても問題ない量を保持しているか確認が入ります。そもそも貴方にマナを見聞できる力があるとは思えません」
「それは寺院の言い訳でしょう。魔導具を理解していない!」
「貴方は寺院関係者ではないっと言うことですね。やはり」
「いいですか、君では話にならない」
「それはこっちのセリフですね」
二人のやりとりに生徒達は固唾をのんで見守っていると、言い争う二人を破るかのように扉が開いた。
「これはどういうことです?」
エリオットの声で二人は振り返った。
「見ての通り、口論していました。まぁ話の通じない人間だと言うことがわかりましたが」
「貴様……! エリオットさん、貴方は自分に仕える人間を見たほうがいいですよ」
「はい?」
臨時教授の意味のわからない問いかけてエリオットは首を傾げた。そして、その後ろに控える法術科長のラディエル教授と人事課の二人も何がなんだかわからない様子だ。
「ほら、バカでしょ?」
「この、クソ生意気な小娘め!!」
サーシャが指差して言うと、臨時教授はサーシャを殴ろうとするも、即座にサーシャの回し蹴りが決まり教壇に倒れこんだ。
「サーシャ……先輩。ダメですよ。淑女の学園では品よく振る舞わないと」
エリオットが大きなため息をつきながら首を触れば、サーシャは肩をすくめた。
「すいません。ちょっとストレスが過分に発生して、おもわず」
サーシャはパタパタと法衣の裾を叩きながら倒れた臨時教授のもとに駆け寄ると杖で男の服を引っ掛けて持ち上げた。
「うわぁ?!」
女性の力で成人男性を軽々と杖で持ち上げる姿は異常だ。もちろん人事部の人も生徒達も驚き固まっている。
「サーシャ先輩。ここは寺院ではないので悪ふざけはいけませんよ。法術で筋力アップなんてして」
「えー、人をバカにする愚かな人間にはこれが一番効果覿面なんですけどね?」
「はいはい、おろしてください」
「はーい」
サーシャが下すと男は怯えながらエリオットの足にしがみついてサーシャを指差した。
「な、なんなんだこの小娘!!」
「小娘とは……どうしてそう思うんですかね?」
「あんた! 自分の部下だろう!」
「部下? サーシャ先輩が部下ですか? この地域の寺院に所属していれば、サーシャ先輩の位を正しく理解し、小娘だなんて言えないはずですがね。だってこちらに来た際に全ての寺院にご挨拶しましたから」
にっこりと笑顔で答えたエリオットに男は焦りながらも立ち上がっていまだに言い逃れ続けた。
「私は、臨時職員でして、特定の寺院には所属していないのですよ。何かあった際に派遣されまして」
「寺院に所属していないとはおかしな話ですね。そのような制度はありません」
「私はれっきとした寺院のものだ。見ろこの法衣を!」
確かに男は寺院関係者しか着ることができない灰色の法衣を身にまとっていた。袖の色は黒で法術師の資格を示す色だが、どう見ても男にその資格は与えられるはずがないものだった。
ちなみに、サーシャ達は神使いであるため色は白、袖の縁は金で彩られている。
「確かに法衣は寺院のものですね」
「そうだ! この法衣は寺院のものしか着ることができない!これが証明だ」
「はぁ。そうですか? ですが、法術の授業が著しく逸脱しているとお聞きしましたよ。ちなみになぜマナ測定器を利用されたんですか?」
エリオットはニッコリと微笑みながら男に尋ねれば、男は姿勢を正して自慢げに言った。
「マナ量を見るためですよ! 最新のやり方です。マナの量で法術の威力は変わります」
「マナの量で?」
その発言に思わずラディエルは声を上げてしまった。神使いである二人が仕切っている場であるにも関わらず。だがサーシャとエリオットはもっと大きな声を出していた。
「「ありえない!」」
二人の声はハモり大きな音となって教室に響いた。
「グラウス人事官、本当に彼は寺院のものだと断言できますか?」
「えっと……そう紹介を受けました。書類も出されております!」
エリオットに名指しで聞かれたグラウス人事官は画面蒼白になりながら答えながら持ってきていた書類を渡した。長く学園に勤めているゆえに、この男の発言がおかしいと気づいたのだ。
エリオットはやっと渡された書類に目を通しおえると、サーシャに渡した。
「なるほど、ではラディエル教授、検査させてもらいますがよろしいですか?」
「どうぞ」
「では、サーシャ先輩どうぞ」
「はいはーい。あなたは臨時職員だというけど、ここに記載された寺院には登録されていなかった。つまり貴方は公的文章を偽造、また神官偽装をした」
「過去に所属していたんですよ! 今は野良の神官でしてね」
「野良! いい言葉ね、でもそんな神官存在しないわ」
「は? 神使い様はご存知ないかもしれないが、我がいとこは野良で貴族として跡取りを」
「それは俗世に還元したのでしょ。そのもの達は臨時神官として、ちゃんと寺院に所属し登録はされていても野良とは名乗らない」
サーシャがニッコリと笑みを浮かべながら一歩前に出た。
「で、あなたはだれですか?」
「……」
男は舌打ちをして懐から魔導具を取り出すも何も起きなかった。
「な?!」
「どうしましたか? 魔導具なんて高級な物をいくつも持っているなんて。すごいですねー、ですがこの部屋全体的に今、マナの使用制限をかけているので発動は難しいと思いますよ?」




