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転生神子(てんせいじんご)  作者: siro


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疑惑の補講

 エカテリーナは制服の袖を通し、姿見の前で思わずため息が出てしまった。今日は本来休日で、私服で良い日だ。

「大丈夫ですか? お嬢様」

 心配そうに制服を身につけたスーリャが部屋に入ってきた。今日の補講に彼女も引っかかっていた。

「えぇ、大丈夫よ。そろそろ行きましょうか」

 部屋を出るとそこにはアルベルトが待っていた。彼は今日の補講に引っかかっていないが制服姿だ。


「やはり他の教師に抗議を、いえ公爵様に言いましょう」

 不機嫌そうにアルベルトは言い募るがエカテリーナは首を振った。

「ダメよ。それだけだと私だけが免除されてしまう可能性があります。補講が嫌で権力で訴えたように見られてしまうわ」

「ですが、あの女性は何もうご」

「サーシャ教授とお呼びなさい! 立派な教師です。それに寺院の者であっても慎重に行動しなければならない、それが我が国の派閥に関することであれば尚更です。逆にそれも把握されているということ。実際に、全く動いていないというわけではないでしょ。スーリヤ」

「はい、エリオット教授が表立って抗議されております。エリオット教授のご実家は他国ですが貴族出です。抗議される立場としては妥当かと思います。サーシャ教授は寺院の方で臨時教授に対して調査を行なっているようです」

 スーリャの回答にエカテリーナは頷いてアルベルトに言った。

「それに、あの方達は神使いです。夜は穢れを祓うお仕事もされている。そんな中、私の話もちゃんと耳を傾けてくださいました」

「はい……」

 まだ納得していない様子でありながらもアルベルトは頷いた。お仕えする大事なお嬢様が不当な理由で補講を受けさせる等、アルベルトにとって許せない行為だった。エカテリーナと公爵の許しがあれば臨時教授とかいう男を殴ってやりたいほど腑が煮えくり返っていた。

 何よりも、エカテリーナの婚約者の王子が法術の補講が免除され、しかもエカテリーナが補講になったと知り笑いながら絡んでくるようになったのが許せなかった。去年のエカテリーナの法術の成績は優秀と付いていたにも関わらず。

 どうみても、あの臨時教授の評価の仕方がおかしいのだ。だが、第二王子の派閥で力のある家柄のせいで誰も何も言えない状況。エカテリーナは第二王子の婚約者でもあるのに関わらず、あの臨時教授の態度は最悪だったのだ。


 政略的な婚約だというのにも関わらず。あの王子は何かにつけてエカテリーナに突っかかってくるのだ。平民の女を側に侍らしてまで。


「行きましょう」

 エカテリーナの声にアルベルトはハッとして、慌てて憎しみの思考から抜けた。エカテリーナの後ろに付き従いながら、その姿にアルベルトは見ほれていた。颯爽と歩く姿は美しく金の髪は今日も紫のリボンで綺麗にまとめられている。


 エカテリーナは、アルベルトの様子に気付きながらもため息をつかないようにしながら、周りの突き刺さる視線の方がまだマシだと思いながら補講教室へと向かった。


 補講教室に選ばれていたのは講堂だった。まるで見せしめのように扇状に広がった椅子に座るのは補講生徒、その後ろに集まっているのは補講を免除された人たちが私服で見物にきていた。

 この臨時教授のおかしな態度が気になるのか補講を受けにきた生徒を笑いに来たのか……どちらに興味を持ったのかは半々だろう。


 補講で集まった生徒たちは皆不満顔だ。去年は成績優秀だったものが半分、そこそこだったものもいる。何よりも落第点をとったものは去年は数人だというのに、今回は三十人もいるのだ。どう考えてもおかしい状況だ。

 そして、本来なこのおかしな状況を止めるべき人物である第二王子は、エカテリーナをここぞとばかりに悪口を言い放ち止める様子もなく煽っている。


「みなさん、集まりましたね」

 最後に入ってきたのは臨時教授の男。ニヤニヤ顔がいやらしいと、エカテリーナは心中毒づいた。


「さて、どうして呼ばれたかお分かりですか。貴方達の法術が弱すぎる! その一点です。理解もされていない! 何よりも第二王子の婚約者がここにいるとは嘆かわしい」

 早速エカテリーナを攻撃してきた教授にエカテリーナは思わず眉をひそめてしまった。それに呼応するように第二王子も頷き、取り巻き達も嘲笑った。

 後ろで控えるアルベルトは殺気立っているし、横に控えるスーリャも臨時教授を睨みつけていた。


「全く、この学園に通う生徒がここまで弱いとは私は驚きです。ですが、私がきたからにはまともに使えるようにいたしましょう。では、皆さん、まずはこの魔導具に触れてください」

 そう言って木のケースを教卓に起き、中を広げて見せた。


「これは、より正確にマナを測定する道具です」

 胸を張っていう様子にエカテリーナは大きなため息をついてしまった。マナを使用する魔導具は許可された者しか使用許可されていない。それは一般的な常識だ。

 マナ測定も、魔導具を利用したいものが申請書を提出してやっと受けられるほどだ。


「では、まず君から」

 一番前に座っていた生徒が呼び寄せられ、無理やり手をおかされてしまった。測定器は動き針が数値を示すも、生徒は倒れてしまった。


「なんと、マナが少なすぎですね」

 嘲笑うように言い放つ臨時教授に補講の生徒達はざわめいた。見学していた生徒達も測定器の使用について知っているものが異常だと囁いているがエカテリーナにも聞こえた。


 生徒の友人であろう人たちが倒れた生徒を抱き起こして急いで席へと移動させた。臨時教授は助けもしないで次の生徒を呼び寄せている。もちろん誰も行くはずがない。


「静粛に!! 次!早くきなさい!!」

 イラつき始めた臨時教授の声が講堂に響く。三十人全員調査する気だろうかとエカテリーナが危惧していると、勢いよく扉が開いた。


「やっと見つけましたよ。サミエル」

 笑顔でサーシャが入ってきたのだった。

「なんですか! 無礼ですよ」

「無礼? 散々私たちの呼び出しを無視した人が何を言っているのです? それに補講? 誰の許可をとって補講なんてしているのですか? 我々に報告が来ていませんが?」

「何を言ってるのです。私は臨時教授として授業を行い劣等生の面倒を見ているのですよ」

「だから、誰の許可を取って行なっているのですか?」

「お子様はお呼びではないのですよ。私の授業の邪魔をしないでもらえますかなぁ。お嬢ちゃん」

「……」

 臨時教授の発言に生徒達は息を飲んだ。サーシャ教授をお嬢ちゃんと呼んだ男性は初めてだ。いくら若く見えようとも、彼女は寺院のしかも神使い。少し調べれば見た目と年齢が違うことも調べがつくのだ。

 寺院との繋がりは貴族に取っても重要。だからこそ、学園に来ている寺院関係者はすぐ実家が調べていることが多い。


「若造が何ほほざいてやがる」

 ボソリと呟かれたドスの効いた声は、笑顔のサーシャとは似ても似つかず。思わず生徒達は二度見してしまった。


「はい?」

「ん? そちらの生徒顔色が悪いですね。どうしました?」

「さ、サーシャ教授。実は……」

 臨時教授を無視してサーシャはまだ朦朧としている生徒に近づき額に手をあてた。

「マナが急激に落ちていますね。なるほど……魔導具を使われたと……刑事罰対象プラスですね」

 最後の言葉はすぐ近くにいた生徒にしか聞こえなかった。




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