両片思いしてる幼馴染達の当て馬だった僕だけど
宜しければお付き合い下さい。
「ねぇトシ、僕のこの学校での評価ってイケメン……で良いんだよね?」
その日は天気も良く、外でお弁当を食べようと、教室棟の屋上へクラスメイトの親友でもある浅里利通と一緒に向かい、屋上に備え付けられたベンチに腰掛けた後に、僕はそう切り出した。
箸にお米を摘み口へと運ぼうとしていたトシは、一瞬固まってこちらをひと睨みしながら告げる。
「は?カナトお前このやろ、フツメンに対する俺への嫌味か、イケメンめこのやろ」
「い、いや違う違う、そんなんじゃ無いって……自分の顔がそれなりに整ってるのは自覚してるんだけど、ただ最近さ……自信が持てなくてね」
「それなりに自覚ってやっぱ嫌味じゃねぇか!……って自信持てないって……あぁ、そういう事か」
僕こと、進堂叶斗はこの学校ではイケメンなんて言われてそこそこ有名だ、そう評価して貰えるのは嬉しい、しかし慢心しないように身嗜みにも気を付けて日々学業に精を出してはいるが、何故か彼女が出来た事が無い。
遠巻きに黄色い悲鳴を聞く事もあるが、どうやら憧れの対象止まりにされてしまっているようで、高校生活も2年目だというのに未だに彼女の1人も居ないというのが現状だ。
僕だって人並みに思春期の男子なのだ、彼女を作って想い出も作りたい、そこで現状を打破する為に告白もしてみたのだが、これも上手くいかない。
「確か、今回はC組の美木さんだっけか?」
美木さん、僕がつい先日告白し、そして振られた子だ。
「うぐ……そ、そうだよ。好意的に関係を築けてたし……付き合ってる人も居ないって、関係を前に進められるかもって思ったのに」
「思ったのに?」
「他に好きな人が居るって、全力で断られたよ」
良い雰囲気になる事だってあったのに、全ては僕の勘違いだった……美木さんには他に好きな人が居たというのだ。
「その後だよね……美木さん、幼馴染とカップルになってた」
「そりゃ、ご愁傷様」
そう言ってトシは僕のお弁当にきんぴらをよそってくれた、ぼくの好物なんだ……きんぴら。
「ありがとう、トシ」
「で、その前がB組の日向さん?」
「うぐっ」
おいこら、僕の感謝の気持ちを返せ、先日の傷心に苦しむ僕に追い討ちをかけるんじゃない。
とは言え、美木さんの前にも日向さんに告白して振られたのは事実である。
「疎遠になってた幼馴染の男子が好きなんだってさ」
「あー、近頃日向さんが一緒にいる奴か……日向さん最近、めっちゃ良い顔するようになったよな」
「っ……」
「でトドメが3年の籠橋生徒会長か――」
「籠橋先輩に至っては、告白する事も出来なかったよね!呼び出して、さぁ告白だって時に先輩の幼馴染って人が来てさ!そのまま放置されて目の前でカップル成立だよ!え?僕何見せられてるの?っていうか僕が告白したかったんですけどって感じだよ!ていうかこの学校なんなの!?両片思いの幼馴染多過ぎなんですけどっ!?」
とトシに喰い気味に突っかかってしまう。
「お……おぉ、今のお前はちょっとイケメンとは言えない事になってんぞ」
どうどう、とトシが興奮する僕を宥めてくれたので少し落ち着いて来るがやっぱり納得いかない、ホントこの学校、何か呪術的な力でも働いてるんじゃないかってくらい幼馴染の男女で構成されているのだ、意味が分からない。
「完全に、両片思いの幼馴染達が、お互いの気持ちに素直になる為の、当て馬になるイケメン枠だよな、お前」
そう、イケメンなんて言われてはいても、遠目から憧れられるだけで告白される事もなく、いざ告白しても両片思いの幼馴染達の当て馬だ……こんな事が続けば自分に自信なんて持てなくなるというもの。
「コラ!トシ!当て馬って言うな!自覚あるせいでこっちはメチャクチャ気にしてるんだぞ!」
また怒りが込み上げて来た。
「あ、あの……」
と、そこへ僕達に話かけて来る存在があった。
気持ちを落ち着けてから声の主を見やる。
視線の先に居たのは1人の女生徒、腰の辺りでふんわりと軽く結われた黒髪、前髪は長い為顔の半分は隠れてしまっている、分け目から僅かに左目だけが覗いているがその黒い瞳は自信なさそうに少しオドオドとしている、制服のスカートは短過ぎず長過ぎず、校則の規定通り……僅かに覗く足は灰色のタイツを履いている。
いわゆる目隠れっ子、地味子って言われる類の出立ちではあるが、いざこういう子がポツンといたら結構インパクトあると、僕は思うんだ。
とは考えつつも彼女は顔見知りでもあったので……。
「やぁ、雪待さん久しぶり、こうして話すのは去年の委員会以来だよね?」
「あ……はい、そうです進堂くんお久しぶりです……っていうか……私なんかの事、覚えててくれたんですね」
雪待夜宵、去年も今年も同じクラスになった事は無いが、同級生で去年は一緒の委員会に所属していた子だ。
「なんかって言い方良くないよ、それに忘れる訳ないよ、雪待さん委員会の仕事に一生懸命取り組んでたし、上手いことサボる事だって出来たのにそれをしなかった、そんな雪待さんを僕は尊敬してるよ」
そう言って微笑むと、彼女はアワアワと顔と耳まで真っ赤にしながら。
「あ……ありがとう、ございますぅぅ……」
「カナト、お前そう言うトコだぞこのイケメンが」
とトシが何か言っているが気にしない、これが僕という人間なのだ。
「で、雪待さん何か用事なのかな?」
「あ、はいっそうです……進堂くんに、伝えたい、大事な話があるので……放課後、時間貰えませんか?」
「今日の放課後は空いてるから構わないよ」
「では、また放課後に屋上で良いですか?」
問題無かったので了解した事を伝えると彼女は何度もお礼を言いながら、屋上を後にした。
「なぁ、カナト……」
「……うん」
「これはあるんじゃないか?初の告白」
僕の肩に腕を回しながらトシは言った。
これまで想いを寄せた子に両片思い中の男子がいる事に気付かなかった僕でも、そこまで鈍感じゃない。
雪待さんのあの雰囲気、きっとそうなんだろう……でも。
「それにしても雪待さんかぁ」
「何?嬉しくないの?」
「んー、何というかそういう目で見た事は無かったからビックリしてる、彼女も当時はそんな雰囲気無かったし」
「で、もし告白だったらどうすんの?念願の彼女ゲットのチャンスじゃね?」
「きっと断ると思う……彼女との接点は去年の委員会活動だけで何も知らないから」
僕の答えにトシは呆れながら、
「そういうトコはお前のダメなとこだな」
「どういう意味さ」
「いや、後からでも気持ちがついて来るかもしれねーじゃん、とりあえず付き合ってみるとかでもいいんじゃないかって事」
「好意もないのにそれは失礼じゃ無いか?」
「変なとこで律儀だねぇ、お前も」
釈然としないままだったが、昼休みも終わりそうだったので僕達も教室へと戻った。
そして放課後、明日また詳しい話を聞かせろよと、こちらを茶化すトシと別れ僕は屋上へ向かうと、一足先に雪待さんが待っていた。
「しっ、進堂くん、今日は時間を取ってくれて、ありがとございます」
深々とお辞儀をする雪待さんに気にしないでと伝えて、今回の呼び出しの本題に入ってもらう。
「あ、あのっ……私、去年からずっと……進堂君のことが……す、好きでした!どうか、私とっ、お付き合いして下さいっ」
予想していた通り、雪待さんは僕に告白してくれた……しかし去年からか、気付けなかった、やっぱり僕って鈍感かもしれないな。
「気持ちは、嬉しい……けど僕は雪待さんの事、友達だと思ってたから、今直ぐにそう言うことは考えられないかな……だから、ご――」
雪待さんの告白を断ろうとした所で彼女は被せて来た。
「や、やっぱり返事は少し待って下さい!急に気持ちを伝えて付き合って欲しいなんて、やっぱり無理過ぎますよね……ですから、今日から一週間!私と、仮のお付き合いをして下さい!それで一週間後に改めて、返事を……下さい」
お試しって事か……正式にお付き合いする訳じゃ無いから、それなら……良いのかな。
所謂お友達から、みたいな感じだろうか。
「分かったよ、そう言う事なら仮って事で」
「はいっ、宜しく……お願いしますね進堂くん!」
見た目の通りの気弱な彼女が一生懸命に想いを伝えてくれたんだ、一週間後どうなるか分からないけど今はこれで良いだろう、と思えた。
◆◆◆
「で、仮のお付き合いって事になったのか?へぇ……カナトも少しは進歩したじゃん」
昨日の顛末をトシに伝えるとそう褒められた、何か納得いかない。
「実際、彼女ゲットのチャンスだしね……雪待さんとの事は真剣に考えてみるつもりだよ、だから今日から一週間は彼女と一緒に居る時間が増えると思うから」
「おう、俺の事は気にすんな、雪待さんとの事ちゃんと考えてやれよ」
そうして彼女との一週間が始まった。
「進堂くん、約束通り……お弁当作って来ました」
お昼はお弁当を作って来てくれる事になっており、中にはリクエスト通り僕の好物でもあるきんぴらが入っていた。
味は、しっかり濃い目でよく染みていて歯応えがまた良い、ごま油の香りも最高だった!これはご飯も進む。
「ふふっ……進堂くん、きんぴらが好物って少し変わってますね、こういう時ってハンバーグとか唐揚げじゃないんですか?」
そう言った彼女の笑顔は普段とは印象を変え、可愛らしいものだった。
「一緒に、帰りましょう……!」
帰り道では、雪待さんとお互いの事を話した……趣味や最近の出来事など、彼女の色々な事を知る事が出来た。
「それでは、進堂くん……また明日っ!」
電車の進行方向が逆の為彼女とは駅で分かれて、その日は終わりとなった。
そうして1日2日と過ぎて行く、やはり彼女は少しオドオドとした所はあるが何事にも真剣に取り組む事が出来る子だった。
僕との仮のお付き合いにも全力で挑み楽しんでいるような、そんな彼女の態度に僕も次第に釣られ楽しくなっていった。
「進堂くん……!明日は週末、デートを……しましょう!」
デート……相手は友達以上恋人未満?のような関係だから何とも複雑な気分だがとにかくデートだ。
明日の予定を2人で決めてそのまま別れ、デート当日。
少し早めに待ち合わせの場所で待つ事10分程で雪待さんはやって来た。
白のシャツにライトブルーでデニム生地のサロペットスカートでふんわりとしつつも清潔感のある可愛いらしい格好、ヘアピンで前髪を上げておりいつもと違い顔を出していた、それが何だか新鮮で、少しドキドキした。
「進堂くん!……お待たせ、しました」
「今来た所だから大丈夫だよ、雪待さん、服装似合ってるね、それに髪もいつもと雰囲気違って可愛いよ」
「あ、ありがとうございます……服は今お姉ちゃんに教えてもらいながら勉強中なんです、えへへ」
そう言って顔を赤くする、この間教えてくれた大学生のお姉さんの事かな、明るく社交的で友達の多いお姉さんの事を雪待さんは尊敬しているそうだ。
「じゃあ、行こうか」
先ず2人で映画を見て、それから午前中に見た映画の感想を話しながらお昼を食べ、午後からは本を読むのが好きだという雪待さんの為に本屋を周った。
「そう言えば、雪待さんは僕の事を去年から好きだったって言ってくれたけど、どうして好きになったのか……聞いても良い?」
「……そう、ですね。進堂くんは私に、委員会の仕事を一生懸命やってたって、尊敬するって言ってくれましたよね……それ、私もなんですよ」
雪待さんは当時を思い出す様に語ってくれた。
「進堂くんだって、適当に手を抜いてやる事も出来たのに真剣に取り組んでましたよね……一緒に仕事をするのも楽しかったんです、それでいつからか好きになってました」
「たったそんな……事で」
「そんな事で、ですよ。恋に落ちるのなんて時になんて事無い事が理由だったりするんです」
「そっか……案外そういうもの、なのかな」
彼女の言葉はストンと腑に落ちた。
「進堂くん、今日はありがとうございました。楽しかったです」
「こちらこそありがとう、僕も楽しかったよ」
そのまま駅で解散して僕達のデートは終わりとなった。
週が明けて数日、とうとう一週間が経った、今日また改めて彼女に返事をする事になる。
「進堂くん、今日で一週間です……放課後、お返事を聞かせて下さい」
そして放課後……あの日と同じように屋上で雪待さんと2人。
彼女は改めて僕に告白をしてくれた。
「進堂くん、この一週間とても楽しかったです。毎日、進堂くんの事を考えて、前よりももっと進堂くんの事を想って……私の気持ちは一週間前と変わりません、貴方の事が好きです、私とお付き合いして下さい!」
彼女は前回の辿々しい告白と違い今度はハッキリとそう告げた、彼女はこの一週間を通して精神的に成長したように感じる。
と、次は僕の番だ、彼女に返事をしなければいけない。
「僕の方もありがとう、この一週間は楽しかった……でも、やっぱり雪待さんにはそういう気持ちは持てなかった……だから、ごめん」
確かに、雪待さんと過ごしたこの一週間は楽しかった、知らない事を知って知らない顔を見れた、けれど楽しいままで終わってしまった……彼女への想いは変わらないまま。
だから、このまま彼女と付き合うのは何か違う気がした……どこかでトシが呆れる様が浮かんだ。
「そう……ですか、あはは……わた、し……振られ、ちゃいましたね……今まで、本当に、ありがとう、ございましたっ」
そう言って彼女は……涙を零し、微笑った……。
その顔を見た瞬間、変化は一瞬、いつかの彼女の言葉を思い出す。
『そんな事で、ですよ。恋に落ちるのなんて時になんて事無い事が理由だったりするんです』
あぁ、これが……トドメとなった……僕もなんて事無い、彼女のその儚い微笑みで、恋に落とされたのだ。
ならば、この現状はマズい、彼女はそのまま僕の横を通り過ぎようとしている、衝動的に思わずその手を掴む。
零れる涙そのままの彼女と見つめ合う。
「え……?進堂、くん?」
このまま彼女を行かせてはダメだ、自分から振っておいてどの面下げてと言われても、今、この瞬間に僕も彼女に恋してしまったのだから。
「いきなり、こんな事言うのも何言ってんだって……気持ち悪い事言ってるって、信じられない無いかもしれないけど、僕も……たった今、雪待さん、君の事が好きになった……だから、このまま行かせられないって……お願いします、僕と付き合って下さい!」
ポカンとする彼女と、目を合わせ続ける事が怖くなって俯いてしまう。
そんな中、頭の上に彼女の声が届く。
「嫌……です!」
そりゃ……そうだよな、そんな都合の良い話、受け入れてくれる訳ないよな。
そう自業自得だと、悲嘆に暮れかけた時。
「私……進堂くんにたった今振られたばかりなんですよ!正直内心はメチャクチャ嬉しい、です。でも直ぐに返事するのもそれはそれで違うかな……って、もしかすると進堂くんも、私のこんな様に同情してって可能性があるかもしれません……だからっ……少しくらい間をおいて下さい!」
「え……?」
「そ、そうだ!一週間!今日から一週間です!仮のお付き合いして下さい!それで一週間後にまたさっきの言葉、聞かせて下さい!」
「わ、分かった!今日から一週間だ!今度は僕が、雪待さんの事を考えて、君の事を想う!それでまた告白するよ、だから見てて欲しい……!」
「はい!宜しくお願いしますねっ」
こうしてまた、新しい一週間が始まる事になった……とは言えこの前の一週間とやる事はあまり変わらなかった、何故か変わらず雪待さんはお弁当を作って来てくれたし、2人で一緒に帰る……週末にデートをして……2人の距離は縮んで行く。
あれからまた一週間が経った、今度告白をするのは僕からだ……僕の気持ちは変わらない、雪待さんは……どうだろう……。
その日から2人は変わらず一緒に帰っている……小さな変化と言えば、お互いを下の名前で呼び合うようになった事だろうか……。
◆◆◆
「ってな感じさー、我が世の春が来たって正にこれだよね!」
これまでの事をトシに話して、改めて思う。
恋人の居る生活って良いモノだよな!
「あー、はいはいそれは良かった良かった……毎日惚気られるのもいい加減ウンザリしてくるぜー」
なんて2人で戯れあっていると。
「カナトくん!お待たせしました、一緒に帰りましょう!」
用事を終えた夜宵さんがやって来た、相変わらず普段の彼女はいつもと変わらないままだが、僕はどんな彼女も大好きだ、うん今日も僕の彼女は可愛い。
「えへへ、変わらないままでも大好きとか、僕の彼女は可愛いとか……嬉し恥ずかしいです……」
おっと声に出してしまっていたみたいだ……。
「それじゃトシ、夜宵さんも戻ったし僕らはそろそろ帰るよ」
「おう、サッサと帰れこのラブラブカップルめ、あー俺も一緒に登下校出来る彼女が欲しいもんだ」
「ふふん、トシ……彼女は良いよ、君も早く彼女出来ると良いね、居ないの?今気になってる人とか」
「あぁ、それな……彼女の居なかったカナトには悪くて黙ってたけど俺、隣の家に住んでる大学生の幼馴染なお姉さんと、お互いの親公認で昔から付き合ってるんだわ……で、将来の約束もしてたりなんかする……あ、もちろん清い交際だぞ」
「……は?」
お前も幼馴染の彼女持ちかよ!!!!




