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Il tuo profumo rimane.　あなたの香りが残る

「生きろ」

　小声だが、きっぱりとした口調でパトリツィオはそう言った。

「お前は、ヨボヨボになって家の者の手を借りまくって、一人で食事も出来ん惚(ぼ)けた厄介者の当主と言われるようになるまで生きろ」

　パトリツィオは踵を返し、背を向ける。

「それが要求する報酬だ」

「いや……兄上」

　予想外の要求に戸惑いつつもランベルトは反論した。

「申し訳ないが、先のことは分からん。もしかしたら兄上のように突然」

　ランベルトはそこで、妙な推測に行き当たった。

　つい表情が曇る。

「……そういえば、兄上の死因は何だったのだ」

　いまだ知らないと気付いた。

　別種の人類である女性、ギレーヌの血を引いたコンティ家。

　その別種の人類逹は、突然に心臓が止まる病で滅びかけていると聞いたばかりだが。

「兄上」

「先にお前のために働いてやったのだ。今さら報酬は払えんは聞かん」

　ランベルトの問いかけを遮るように、パトリツィオはそう返した。

「契約を破るようなら、命でもって償わせる」

「……矛盾していないか兄上」

　ランベルトは眉を寄せた。

　無言で出入り口のドアノブに手をかけた兄の動作を、ランベルトは目で追った。

　扉を開ければ、その先は冥界の入り口と直結しているのだろう。そう直感する。

　兄が現れ始めた当初、鏡を通してコンティ家の屋敷とそっくりの場所に押し込められた。

　あれは、冥界の入り口だったかと今更ながら思う。

　あの場所に、兄はいつもいるのか。

　この人がどれだけコンティのことを忘れていないかが伺い知れると思った。

「またたびたび来てくれ、兄上」

　ランベルトは言った。

「たびたび来られるようなことはするな。馬鹿者が」

　パトリツィオは扉を開けた。背中を向けたまま、コツコツと靴音をさせ前に踏み出す。

　次の瞬間、白い将校服の姿は消えていた。

「兄上」

　ぱたんと静かに閉まった扉に向けて、ランベルトは呟いた。

　ハーブと小麦粉菓子の混じったような、懐かしい香りがふわりと漂った気がした。

　FINE　

　Un affettuoso saluto.

最後までお読みいただきありがとうございました。