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コシュマール ~薔薇の心臓~  作者: 路明(ロア)
Episodio due 死者の部屋
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Finestra ci sono fantasma. 幽霊のいる窓 II

「ロドリーニ家であなたとの婚姻話になりそうなのは……」

 アノニモは記憶を探るように上方を見た。

「オリヴィア嬢とかいませんでしたかね。あと、分家のレナータ嬢とか」

「……レナータは八歳のときに亡くなったが?」

「ああ、そうなんですか」

 アノニモは言った。

 おかしな部分だけ情報が抜けているのだな、とランベルトは思った。

「オリヴィアは、以前許嫁(いいなずけ)にという話があったが、何となく有耶無耶になったらしい」

「いつ頃?」 

「いつ頃かな……」

 ランベルトは口に手を当て記憶をさぐった。

「というか、何故うちのことにそこまで詳しい」

「契約者の情報ですから」

 アノニモは肩をすくめた。

「たかだかお遊びの降霊術で呼び出されて、そこまで調べるものなのか」

「そんなのは人によります」

 ランベルトは仮面の顔をじっと見据えた。

「礼拝所でコンティに忠義がどうのと言っていなかったか」

「言いましたね」

 アノニモは微笑した。

「以前からコンティと何か関係が?」

「コンティへの忠義を示さなければならないのは、あのとき現れた者たちです」

 ランベルトは、あの時の異様な様子を思い浮かべた。

 普通ではない様に内装を施された礼拝所。

 赤く染まったのかと錯覚する異常な空気の中に、突如影のように現れた大勢の男女。

「あの者たちは何者だ」

「あの女悪魔たちの同族です」

 アノニモはそう説明した。

「……あの者たちは同族殺しをしたのか?」

「おぞましいでしょう」

 アノニモが肩を揺らして笑う。

「いや、それは」

 それを命じていたのは、この男ではなかったか。

 唐突に目の前の男に寒気を感じた。

 元から正体が知れないが、あの者たちに命じていた時のこの男は、別人のように威圧感があり冷徹な人物に見えた。

「やはりお前は悪魔か?」

 ランベルトは眉根をよせた。

「どうしてそうなるんでしょう。霊だと何度も言っているではありませんか」

 アノニモは大仰に肩をすくめてみせた。

「大事なことをポロッと忘れる方ですか? ランベルト」

「いやしかし普通の人間が……」

「普通の人間ではなく、死んだ人間です」

 アノニモは、胸に手を当て一礼してみせた。

「せっかく契約者の身をお守りしようと、あのとき馳せ参じたのに」

「それは感謝するが……何というか少し距離を置いてくれるか」

 ランベルトはさりげなく後退った。

 当たり前のように目の前に現れ会話をしているが、霊というだけでそもそも非日常なのだ。

「近づくなと言われると近づきたくなりませんか」

「そんな習性は知らん」

 ランベルトは眉をよせた。

「まず、お前の正体を明らかにしてくれ。仮面を取ってくれないか」

 アノニモはこちらの顔を覗きこむように見ていたが、やがて、クッと口角を上げた。

「死んだときに貼りついてしまって取れなくて」

「嘘をつけ。女悪魔の前では取っていたではないか」

 ゆっくりとアノニモは腰に手を当てた。何かを考えるように(あご)に手を当てる。

「ただで取るというのも、ちょっと」

「何が欲しい」

「そうですね……」

 アノニモは宙を見上げ、しばらく考えていた。

「接吻などしていただければ」

「は?」

「接吻です」

 アノニモは淡々とそう答えた。

 理解が追いつかず、ランベルトは頭を抑えた。

「男に接吻してもらって嬉しいのか」

「ぜんぜん嬉しくないですねえ」

 アノニモは言った。

「だから、お互いに嬉しくないことはやめましょう」

 アノニモはすれ違うようにして窓から離れた。

 何だ。この会話は。

 煙に巻かれたのだろうか。

 ランベルトは前を横切る男を目で追った。

「いや、仮面を」

「接吻したいですか?」

「いやしたくない」

「では、この話は終わりということで」

 論点が何か変では。

 アノニモがすぐそばを通ったとき、かすかに香水の香りがした。

 何となく覚えのある香りのような気がする。

 気のせいか。

「生前の名前と素性をせめて教えてくれ」

 アノニモを真っ直ぐに見据えランベルトは改めてそう言った。

「仕草と発音から察するに、それなりの家柄の者と見受けるが」

 アノニモは何かを考えるように宙を見上げた。

「うちと関わりのある御家の者か」

 重ねてランベルトはそう問うた。

 アノニモが人差し指を口の前に立てる。

「内緒です」

「な……」

 ランベルトは、ぽかんと口を開けた。

「それでは、お前を信用することはできない」

「信用することはありません。肝心なときに指示に従ってくれさえすれば」

「信用出来ない者の指示に従う訳が」

「ご自分の身を守るための指示ですよ?」

 そうアノニモは返した。



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