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コシュマール ~薔薇の心臓~  作者: 路明(ロア)
Episodio sei 踊り場に悪魔がいる
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C'è un diavolo in pianerottolo. 踊り場に悪魔がいる III

「ほとんど」

 アノニモは復唱した。

「他にも伝えられていた者がいるのを知っているのかな?」

 アノニモが軽く首をかしげる。

「跡継ぎのランベルト坊っちゃまですら伝え聞いていなかったことを」

 ククッと(のど)を鳴らし笑う。

 暗い階段から階段ホールにかけて、わずかに空気が揺れたのをランベルトは感じた。

 気になり周囲を見回す。

「貴殿はどこで知った」

「とある女性に、寝物語で」

 アノニモはそう言い、肩を揺らして笑った。

「成程。あなたは生者ではなく霊だ」

 バルドヴィーノはそう言った。

 もう一段、階段を降りる。


「ギレーヌか」


 ゆっくりとした口調で、そう続けた。

「冥界とやらで、彼女に会ったのか」

 アノニモは喉を鳴らしククッと笑った。

「話を戻しましょう。あなた方は、違う種類とはいえ、人類であるがゆえに、ある程度なら私たちと価値観は同じだ」

「左様」

「つまり、同族殺しは本能的にタブーだ」

 アノニモは言った。

 バルドヴィーノはやや不快そうな表情で腕を組み、こちらを見た。

「何が言いたいのかな」

「やれ!」

 アノニモは声を上げた。

 周囲の空気が、ぐらりと大きく揺れた。

 脳が揺さぶられるような強烈な吸引の感覚に、ランベルトは頭を抑えた。

 いつの間にか、三人の周囲を様々な容姿の悪魔が取り囲んでいた。

 俯き顔に影がかかり表情は判別出来ないが、周囲を強い磁力のような気が渦巻いていた。

「くっ」

 バルドヴィーノが噛み殺した声を上げた。

 何かに雁字搦(がんじがら)めにされているように全身を捩って(もが)く。

 歪んだ気が、バルドヴィーノの身体の周囲で特に大きく歪み、見えない縄のように絡んで捕らえていた。

「時間稼ぎお疲れさまです、ランベルト」

 向こうを向いたままアノニモは言った。

「時間稼ぎ……?」

 ランベルトは歪んだ気に当てられ、よろめいて手摺に手を掛けた。

「さすがに「上級」の者を捕らえるには準備が要りますから」

 アノニモは腰に手を当てた。

「もたもたと思い出せない振りをしてくれたので、助かりました」

「もたもた……」

 ランベルトは困惑し将校服の背中をじっと見た。

「まさか本気でもたもたしていた訳ではないでしょう?」

 無言でアノニモの背中を見た。

「……していたんですか」

「くっ」

 バルドヴィーノはぎこちなく両手を動かし、歪んだ気の拘束を逃れようとしていた。

「あなた方「悪魔」は、身分の上の者ほど魔力が強いらしいですね」

 階段の上方を眺め、アノニモは言った。

「ああ、逆か」

 そう続け、口許に手を当てた。

「私たちの種族が、軍事力のある者ほど権力を手に入れていったのと同じで、あなた方の種族は、魔力の強い血筋が支配権を手にしていった」

 アノニモは言った。

 バルドヴィーノは、(もが)いた格好で口の端を上げた。

「軍事力で権力を手に入れる種族の中にあって、魔力で身分を手に入れたコンティを、貴殿はどう思っている」

「何事にも、例外はあるそうですよ」

 アノニモは肩を竦めた。

 コツ、コツ、と革靴の音をさせ階段を昇ると、アノニモはバルドヴィーノに近付いた。

 やや前屈みになったバルドヴィーノの(あご)に手を掛けると、上向かせた。

「こちらに取り込まれてくれませんか。あなたなら、面白い戦力になる」

 アノニモは言った。

「男に取り込まれる趣味はないと言ったであろう」

「大丈夫。兵としてしか使いませんよ。私も男の趣味は無いので」

 アノニモは身を屈ませると、バルドヴィーノの顔を覗き込んだ。

「そちらの女王様より、よほど待遇は良いつもりですが」

「断る」

 バルドヴィーノは言った。

「では、自力でここを脱出するしかありませんが」

 アノニモは手を離し肩を竦めた。

「がむしゃらに魔力を放てば、あなたを抑えている同族の者たちを殺してしまうかもしれませんねえ」

 肩を揺らしアノニモは笑った。

「全力で抑えさせていますから」

「コンティの、特におぞましい「悪魔使い(ディアボロマエストロ)」」

 バルドヴィーノは、嫌悪を募らせたような押し殺した声で言った。

「真の悪魔は、催眠(イプノティズモ)の魔力で取り込み、同族殺しを強制する貴殿ではないか!」

「何とでも。こちらも、とっくに忘れ去られていたような古臭い因縁で、大事な次期当主を殺される訳にはいかない」

 バルドヴィーノは、クッと喉の奥を鳴らし(もが)きながら笑った。

「やはり貴殿は、コンティの一族の者の霊か」

 バルドヴィーノは言った。

「いや。誰なのかは、もう分かっている」

「え……」

 ランベルトは二人の様子を見上げ身を乗り出した。

「分かっているのか? 誰だ」

 アノニモは(あご)をしゃくり、バルドヴィーノを見下ろすようにして睨み付けた。



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