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コシュマール ~薔薇の心臓~  作者: 路明(ロア)
Episodio sei 踊り場に悪魔がいる
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L'assassino è la figlia della fidanzata. 殺戮者は婚約者の令嬢

「死体が動いていたのは分かった。それがなぜ他の使用人や私を襲うのだ」

 私室を後にし、玄関ホールへと続く階段を降りながらランベルトは尋ねた。

 屋敷の中で動いている者は誰もいない。

 いつもは廊下やホールのあちらこちらに灯してある蝋燭が一切点けられていないので、行く先々はどこも真っ暗だった。

 前方でアノニモの使役する悪魔が、手の上に松明のように焔を灯して先導し、後ろには手燭を持ったアノニモが付いて来ている。

 二つの火で薄く照らされ、複雑なレリーフや肖像画をぼんやりと浮かび上がらせた屋敷内は、自身の育った家ながら中々に不気味だ。

 羽織った外套の肩の辺りを直し、持ち慣れない拳銃の入ったポケットを確かめる。

「とっくに気付いていたかと思いましたよ」

 後ろを歩きながらアノニモは言った。

「あの薔薇を送ってきた人物が、やらせてるに決まっているではないですか」

「送ってきた人物」

 ランベルトは振り向き仮面の顔を見た。

「ダニエラ殿だが……」

 にわかには意味が飲み込めず眉をよせた。

 話の流れを素直に受け取るなら、ダニエラの差し金ということになるが。

 何のことやらとランベルトは思った。

 蝶よ花よと育てられる貴族の令嬢に、こんな大それたことが思いつく訳もない。

「バルロッティ家の使用人か何かが?」

「戯言を言っているのですか、あなたは」

 アノニモは(いら)ついたように眉間に皺を寄せた。

「何がだ」

「使用人が、女主人の婚姻の相手に、独断で怪しげな仕込みをしたものを送って何を得することがあるんです」

「ではバルロッティ家に潜入した、どこぞの間者か何かが」

「話を無駄にややこしく創作するのやめてもらえませんか」

 アノニモは額に手を当てた。

「しかし、いち令嬢がこんなことをやる訳が……」

「あなたが狙われた理由が一つ分かった気がします」

 アノニモは言った。

「コンティ家の悪魔払いの素質がどうこう以前に」

 ずいっとアノニモは顔を近づけた。

「騙しやすい」

「な……」

「魔力のようなものは通じないが、そもそも普通に騙せる」

「なん……」

 呆気に取られて、ランベルトは仮面の顔を見た。

 完璧だった兄パトリツィオ程ではないにしても、兄の死後、真面目でしっかり者で通って来た。

 少しでも兄と比べて見劣りしないよう、努力してきたつもりだ。

 アノニモは離れると、肩を竦めた。

「こんな坊っちゃまが次期当主とは。コンティの先が少々」

「お前に関係ない」

 眉を寄せランベルトは言った。

 不意に足元に何か大きな物が落ちているのに気づき、足を避けた。

 何だろうと、まじまじと見た。

 階段の途中にこんな大きな物が横たわっているなど、見たこともない。

 甘酸っぱい臭いがした。

 果物などの爽やかな甘酸っぱさではなく、複雑な匂いの混じった、濃厚な甘酸っぱさだ。

 匂いに心当たりがあった。

 ゆっくりとランベルトは口に手を当てた。

「ランベルト、気をつけて」

 アノニモが言った。

「死体です」

 息を微かに震わせ、ランベルトは必要以上に足を上げ避けた。

 アノニモが屈んで手燭を死体に近づけ照らす。

 格好からすると、下男のようだった。

 顔に覚えは無かった。

 おそらく直接顔を合わせたことはほとんどなかった者だろう。

 見回すと、暗闇に慣れてきた目に、いくつか同じような大きさのものが映った。

 階段のもう少し下の段、階段下のホール、いずれにも人と思われるものが複数転がっている。

「あの女中たちにやられたのか?」

「そうでしょうね」

 アノニモは手燭をゆっくりと動かし辺りを照らした。

「何が目的で」

「さあ」

「さあって」

 ランベルトは、階段の二段ほど上にいるアノニモを見上げた。

「彼女の一番の目的は、あなたの筈ですので、それ以外の殺戮となると何がしたいのやら」

「彼女? 女中たちのことか?」

 ランベルトは言った。

「文脈的に女中のはずがないでしょう」

 アノニモは眉間に皺を寄せた。

「ダニエラ殿でしょう」

「いや待て」

 ランベルトは静止するように右手を出した。

「お前は、ダニエラ殿を悪者にし過ぎではないのか?」

「悪者も何も、あれはコンティと対立してきた悪魔どもの現女王ですよ」

 無言で、ランベルトは仮面の顔を見た。

「……えっ」

「えっじゃない」

 アノニモは子供を叱咤するような口調で言った。

「いきなり言っても理解し難いだろうから、徐々に説明して行こうかと思っていたのですが」

 アノニモは言った。



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