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魔討鬼人伝  作者: 古谷啓一
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其ノ四 神命樹

 鬱蒼とした草木が生える森だった。老樹蛇走した道を野生動物が走り去る。その後を追う様に紅牙達が現れた。華輪が言った。

「琴葉ちゃん、こっちなのね?」

「はい、あたし親に聞いた事があるんです。今は邪妖が棲んでるから誰も近付かなくなったけど日宮村の村人は大昔この森の奥にある大木を「神命樹じんみょうじゅ」と呼び神木として祭っていたそうです。だから親が向かうとしたら多分そこだと思います」

「神命樹かぁ、、」

 華輪と風馬は少女の話を聞いていたが紅牙は周囲を見やっている。その様子を見た風馬が不思議そうに言った。

「どうしたの?紅牙」

「おかしいな」

「何が?」

「人間の死体がない。邪妖の森なら一つや二つ転がってるはずなんだがな」

 その言葉に琴葉が一瞬怯えた様子で身を震わせる。すると風馬が

「い、いいじゃん!」

「お前は気楽でいいな、風馬」

「確かにおかしいわね、どういう事かしら」  

森に棲む邪妖は他者の侵入を許さない。それ故に邪妖の森には人間の死体が残っているのが常なのだ。

「もしかしたら、、」と紅牙が言いかけた時に風馬が遮った。

「あ!見てあれ!」

 少年は前方に指を差した。巨木が見えた。木は巨大な腕が大地を掴む様にそびえ立っていた。他の木々よりも飛び抜けて大きい。紅牙達は巨木の前まで来て見上げた。

「で、、でっけー!」

「すっごーい!」

子供達は目を輝かせながら言った。巨木はこの森に邪妖が棲んでいる事を忘れさせる程に神々しい。

「これが、、神命樹、、」

 華輪もこの神木の美しさに目を奪われた。しかし紅牙は別の物に目を向けていた。

「嬢ちゃんの親はここで拐われたのかもしれないな」

「どうしてそう思うの?」

「見ろ」

 紅牙は華輪にそう言うと地面を指差した。華輪の目に草履が映った。

「草履ね」

「何故拐ったのか理由は分からないが殺されたんなら血ぐらい付いてるはずだ」

「じゃあ、、」

「邪妖は近くにいる」

「風馬、琴葉ちゃん、二人とも気を付けて」

 華輪は地面に目を向けたまま後ろにいるはずの子供達に言った。しかし返事はなかった。

「二人とも聞いてるの?」

 華輪と紅牙は振り向いた。そして凍り付いた。何故なら子供達が消えていたからだ。

「いない!?」

「二人とも!何処に行ったの!?」

 二人は二度、三度周囲を見渡したが子供達の姿は何処にも見当たらない。すると音が聞こえてきた。不気味な音が。


〈フシュウウウウウ、、〉


「、、何の音だ?」


〈フシュウウウウウ、、〉


「まただわ、、」


 暗闇の奥底から聞こえてくる様なその音は生物の呼吸音に似ていた。深く、荒く。荒く、深く。


〈フシュウウウウウ、、〉


「何処から聞こえるんだ?」


 不意に二人は上を向いた。大きく見開いた二人の瞳に映った物。それは黒紫色の体を有する六匹の邪妖だった。八本の足を持つその邪妖は蜘蛛の姿にそっくりだが目が十二個あり獅子と同じくらいの大きさで巨木の幹をガサガサと地を這う様に蠢いている。そのうちの二匹が糸で縛られた風馬と琴葉を口に咥えている。この邪妖は口から吐いた糸で子供達を捕らえたのだ。二人が呼吸をしている所を見るに気を失っているようだ。

「邪妖だ!」

「風馬!琴葉ちゃん!」

 華輪がそう叫ぶのと四匹の邪妖が地面に飛び降りたのは同時だった。岩が堕ちた様な衝撃が地面を揺らした。この邪妖は人語を介さないようだが虫とも獣とも言えない咆哮をあげて牙を鳴らすその様子は「ここから出て行け」と言っているように見えた。子供達を咥えた邪妖は森の奥に逃げて行った。紅牙が舌打ちをしながら言う。

「しょうがねぇ、先にこいつらを片付けてから追うぜ!」

「ええ!」

 華輪は鬼神器を発現させた紅牙に魔討器を構えながら言った。


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