表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

ここは魔法の世界。


そして、今、魔導師の時代。


魔導師が生まれるとともに、国が生まれ。


魔導師が死ぬとともに、国が死ぬ。


魔導師の数だけ、国がある。


これはその中の一つの国、一人の魔導師の話。




私は、先生と二人で旅をしています。


旅芸人です。世界各国を二人で回っています。


しかも、ただの旅芸人じゃありません。旅芸人というと、道端で火を吹いたり、華麗に踊ったり、箪笥を片手で持ち上げたりするイメージなんですけど、私の場合は、トランプを使ったり、花札を使ったり、さいころ転がしたり、パチンコしたり、と特別な芸をしています。まだまだ未熟なんですが、先生は、「そろそろ麻雀を教えようかな」と、新しい芸を教えてくれるみたいなので、とても楽しみです。




さて、説明はこれくらいにして、今私たちがいるのは、大陸最大の国、クリストラ。今まで見たことのないような、人だかり。街並みもきれいだし、道行く人もみんなおしゃれで洗練されています。


「おい。なんで女の尻見て、にやけているんだ」


「見てください、先生。パ、パンツが見えてます」


「バカか、それは見て見ぬふりするのが大人なんだよ」


「違いますよ。あれは見せているんです。でも、ご安心ください先生。先生のパンツの方がそそられます」


えぇ、この街は男も女も美人だらけで、いたるところきらきらしていますが、私の先生の方が、数倍、いや、数百倍、いや比較するのがもったいないほど綺麗です。先生は、この世界では珍しい金色の髪に金色の瞳、まさに神様から金メダルを与えられたような人です。今だって、すれ違う人が振り返って先生の美貌を眺めています。その先生が、わっさわさのまつ毛をぱちぱちさせながら私を見下ろします。


「お前に洗濯させるのやめようかな…」


「そんな!!私、ついに破門ですか!!」


「いや、そうじゃ無くてな…」


「先生に見捨てられたのなら、私に生きていく意味などありません。死にます」


護身用に与えられた剣を握る。


「ちょっと、お前が言うと冗談に聞こえない。もういいから、そこで飲み物を買ってこい、お金上げるから」


ポケットをあさる先生の表情はとても困っているようだった。


「…戻ってきたら、誰もいないんでしょう?あぁ、そうやって私をおいだそうとするんですね。それなら、はっきり言ってもらった方がましです」


涙と鼻水を垂れてきたせいか、先生の顔がドン引きしている。


「どこにも行かないから、ほれ、俺の分の飲み物も買ってこい。俺は金は無駄にしないたちだってことぐらい知っているだろう。その飲み物を受け取るまではここを動かんから」


そういって、先生は無理やり私に小銭を握らせて、背中を押して店の方に向かわせた。ちょっと強引なところが気になったが、もともと先生はマイペースだから、考えるだけ無駄なほうが多い。


でも、気になって振り返ると、先生は空を見上げていた。




空には、鷹が一匹。先生を見下ろしていた。




あぁ、動物にも先生が綺麗だってわかるのね…






「久しいな、クリフォード。50年ぶりか」


声をかけると、空を飛んでいた鷹は足元に降りてきた。


「あの戦争からもうそんなに経つのか、…ジーク」


鷹から聞こえてきた声は、予想していたものとは違った。


「…クリフォード、お前、女になったのか」


驚きを交えて言うと、鷹が笑った(気がした)。


「はは、有名な話なんだけどね。ジーク、君は相変わらず美形だね」


記憶にある『クリフォード』は、神経質な顔をした、気持ちが悪いほどまじめで、どうして生きているのか不思議なくらい暗かったイメージがあるが、この声からは、そんな感じはしなかった。


「やめてくれ、その話は嫌いだ」


「これこそ、昔は有名な話だったけど、まぁいいや。さっきの女の子は、奥さん?」


「違う。あれは弟子だ」


「弟子…」


その言葉に、クリフォードは詰まる。弟子という言葉に思い当たることがあるのだろう。もし、自分が彼の立場なら同じことを思うはずだ。


「今は旅芸人だ。その弟子ってこと」


「なるほど」


俺の答えに納得したのか、鷹が両翼でポンッ(実際にはパサッ)と手をたたくようなまねをした。器用なやつだ。


「…ところで、急に呼び出してきた理由を聞こうか」


じゃないと、あいつが戻ってくる。




「先生!!遅れました、ごめんなさい」


「お前、飲み物取ってくるのにどれだけかかるんだ。待て、走るな、こぼれているだろうが!!」


先生に怒られてしまい、ここはへこむところですが、今日はいつもの私じゃありません。気遣いのできる、弟子!!ですから。


「じゃじゃーん」


ポケットから紙袋を取り出して先生に見せる。


「先生が、鳥と話しておられたので、パン耳買ってきました。どうぞ、お納めくだ…


ばこっ


「俺は無駄遣いが嫌いだとあれだけ言っているだろうが。なんで俺がかせいだ金(実際には弟子)で、鳥なんぞ養ってやらねばならんのだ、考えろ馬鹿。大体いまどき、パンの耳で金をとるなんて、…」


「だって」


「いいわけはいらん。お前は昼飯抜きだ。パン耳かじっていろ」


えぇ!!都会のレストランに入ってみたかったのに…でも、今回は私が悪いので、文句言えません。今度からは、パンの耳はただでもらえるところを探します。


私が考え事しているうちに、先生はさっさと歩いていっていました。


「先生、どこ行くんですか!?」


走って追いかけると、先生は振り向いてくれた。


「建国記念パレード」






「すっごい人ですねぇ!!まだパレードまで、一時間もあるのに」


道沿いに並んで待っている人は、今か今かとそわそわしています。その興奮が伝わって、私もつい大声を出してしまいました。怒られるかと思ったのですが、先生もこの雰囲気にのまれたのでしょうか、何も言いませんでした。


「まぁ、年に一度しかない王と魔導師を眺められるイベントだからな」


「じゃあ、先生は王様と魔導師様が見たくて、急にクリストラに行くって言い出したんですか?」


私の問いに先生は少し考えるように、首をかしげた。


「どうなんだろうな」


「先生は、都会が嫌いなのかと思っていました」


「は」


何かを考えていたはずの先生が急に私の方に向いた。


「今まで、私は何度もクリストラに行きたいと言ったのに、先生は聞こえていないかのように無視してたじゃないですか」


「いや、悪いが全く記憶にない」


「これはきっと、都会に劣等感を抱いているに違いないと踏んでいたんですが、まさに今日、心のハードルを一つ乗り越えたんですね!!さすが、私の先生」


私が心から、賛辞と尊敬のまなざしを先生に送った。だが、帰ってきたのは目潰しだった。


「うぎゃ」


「お前につきあうと、俺までおかしくなる。そんなことより、ちゃんと場所とっとけ。飯食ってくる」


「はい」


先生の言いつけどおり、私は他の人に場所を奪われないように、威嚇しながら、ポケットから耳パンを出した。






マーチが流れる。


ラッパと太鼓の音が往来に響く。それをさらに盛り上げるように歓声が広がっていく。


世界最高の国といわれるだけのことはあります。


式典用なのだろうか、飾りのついた軍服を着た軍人さんを筆頭に行進が続く。


足並みのきちっとそろった行進はそれだけで見ものです。


そのあとに続いたのは魔法剣士。白い馬に乗ってあらわれたときには、思わず私も、素敵だと思ってしまいました。でも、後で先生の方が素敵だとちゃんと謝っておきました。


そのあとも、僧侶、魔術師、ピエロに、象と、続いていくと、


急にあたりからこれまでとは比にならないくらいの声が上がった。


「マリエル陛下!!」


「ジュリア様!!」


「クリストラ、万歳!!」




道を歩く二人が目に入る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ