3話:スキル(後編)〜告白〜
父さんの走らせる馬車に揺られながら、俺は母さんとの話を一頻り終えた。そして話が終わるのを見計らっていたかのようなグッドタイミングで、今夜泊まる宿に到着した。
「おし、着いたぞー」
そう言って、御者台から降りた父さんは外から馬車のドアを開けてくれた。これまでの生活でも感じていたが、父さんは見かけによらず意外と紳士的だ。読心の能力を持った母さんと比べればまだまだだが、それでも俺たち家族には本当に良くしてくれる。
眉毛は濃く口髭を生やし堀も深い顔で、目力もそこそこあるため、一目ではその心の優しさには気付けないだろう。自警団の仕事柄傷も少なくないし、第一印象は気難しそうで怒らせたら絶対に怖いおじさんだが、この五年間で俺は父さんの怒った姿を見たことがない。本当に温厚で優しい人だ。
「あら、結構いい部屋ねぇ」
「そうだろ? ここは温泉もあるらしいし、後でゆっくりするか!」
おお、温泉か! あの村には温泉なんてなかったけど、こっちの世界にも温泉はあるんだな。
「――と、その前にだ。アル、お前がどんな能力を授かったか訊いてもいいか?」
「ちょっと貴方、そればっかりね」
部屋に入るなりくるりと俺の方を向き、父さんは再び俺に能力について問いかけた。そんな父さんに母さんもフッと笑い、同じく俺の方を見る。
やっぱりその質問は来るかぁ……
だろうなとは思っていたしどう伝えるかも考えてたけど、いざその時が来ると少し戸惑うな。
「ん! いいよ!」
まだ少し心の中に躊躇いはあるが、自分の中でだけだが一度決めたことだ。寧ろここでおどおどしたら余計に怪しまれるだろう。
「んっとね! 僕が貰ったのは、懐柔(超級)と、努力結実(戦闘)だよ!」
――言った。もう後戻りは出来ない。
俺は、父さんと母さんに能力のことは話しておくと決めた。
勿論、俺の中でも本当にいいのかという疑念はある。それが故に、ティフォたちのことや転生のことは言わない。だから、神託については話せないが、たまたま凄そうな能力を二つゲットしたという設定にする。
その為には先ず、五歳児でよく分かっていない風を装うことが大事だ。
さぁ、この何の躊躇もないような返答に、二人はどんな反応をするのか――?
「――――」
俺の告白に、黙って目を丸くする二人。そんな二人はそのまま顔を見合わせ、その後ゆっくり俺の方に向き直った。これは明らかに、規格外の能力に対する驚きだ。
そしてその能力を手にしているという当の本人の俺は、二人の反応を理解していないようにキョトンとした表情を作る。
「――ふっ、はははははは! そっ、そうかそうか! そんな能力を貰ったのか!」
――え?
思っていた反応と全く異なる二人の態度に、俺は一瞬呆気にとられた。
驚愕や説明の追求は必至と思っていたのに、あろうことか父さんは大きい声でバカ笑いをし始め、その横で静かに母さんも笑っている。
――これは、信じていないのか?
「いやはや、物心ついた時から他と比べて規格外で、何かと俺たちを驚かせてくれると思っていたが……」
「まさか能力でも驚かせてくれるなんて思ってなかったわ。ノーマルの超級を授かって、もう一つは聞いたことの無いユニークだなんて! ちょっと、ごめんなさい。少し落ち着かせて……」
「え? う、うん?」
これは……一応信じてはいるのか?
確かに三歳で剣を使いたいと言った時も、村に来た行商さんが売っていた難しそうな魔法の資料が欲しいと言った時も、二人は何かと笑っていた。今まではただただツボが浅いだけかと思っていたが、ここでも笑うのか?
「いやいや。ごめんな、アル。まさか貴重能力を二つも授かってくるとは思わなくてな……あれだけ剣や魔法を練習していざ授かった能力が生活能力ばっかりだったらどうしようかと思っていたが……エフォート? って何だ? それで剣か魔法は使えるのか?」
――そうか。いくら超級と言えど、それはノーマルのしかも懐柔に過ぎない。そしてもう一つは、ユニークだからこそ詳細の知れない二人は笑うしかないのだ。
大方神託について話さないということで、二つしか能力を授かっていないマイナスと中和でもされたのだろう。
そして一頻り笑い終えた二人に、俺は固有能力の努力結実についての詳細を話した。
「努力した分だけの成果が得られる能力……なるほど。――そりゃぁいいな! 努力家のアルにはピッタリじゃないか! 神様はアルのことをよくみてるのかもしれないな!」
そう言って俺の背中をバンバンと叩く父さんの力は、普通の五歳児だったら泣くんじゃないかと思うほどの力だ。この人は加減というものを知らないのか、それとも俺がこの程度では泣かないということを知っているのか、それはまだ分からない。
しかし、父さんも母さんも、二人が俺の能力について素直に喜んでくれているのは確かだ。二人に敬遠されることがなくて、本当によかった。
「よぉし! それじゃあアルの能力も分かったことだし、取り敢えず温泉行くか! アル、背中流してやるぞー!」
「あ、うん!」
ガハハハと気持ちよさそうに笑い、父さんは着替えやらタオルやらを準備して部屋を出る。そんな父さんに俺も慌てて準備し、部屋を出ようとした。
「アル。ちょっと待って」
「ん? なーに、お母さん?」
荷物を持って部屋を出ようとした俺を呼び止め、母さんは俺の目をじっと見た。
「アルの能力はね、お父さんの言う通り本当に凄いの。でもね、その能力のことは、他の人には言っちゃダメよ。悪い人にそれが知られたら、アルが利用されちゃうかもしれないから。アルの能力は、悪いことに使うものじゃない。それだけは、忘れないでね?」
確かに、俺の能力は無限の可能性を秘めている。もしも誰かがその可能性に気付けば、必ず悪用しようとする輩も出るだろう。
だが、俺はそんな輩に手を貸すつもりはない。
「うん! 分かってるよお母さん! 他の人には言わない!」
「ん、いい子。引き止めてごめんね。行ってらっしゃい」
「はーい!」
曇りのない清々しい返事で母さんに微笑み、俺は父さんの行った後を追う。
前の世界では、父さんと母さんの知らないところで勝手に命を落とした。その分、二人には大きな心配と迷惑をかけただろう。
だから、この世界では二人に心配を掛けさせるようなことは絶対にしない。村に帰ったら即訓練。そして冒険者になるために、数多の技術を磨いていこう。
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そうして俺は、あの後父さんと温泉に浸かり、豪華な食事を済ませ、久々の敷き布団で眠り、次の日は王都を散策した。
王都の散策で先ず初めに向かったのは、憧れだったギルドだ。流石王国の大都市にあるギルドで、受け付けや掲示板も広く、椅子やテーブルが置かれているホール部分も目を剥くほど広かった。
そんなギルドでは父さんが自警団の団長として村の安全報告序に村で狩った魔物を売っていた。父さんの話では、年に一回程度こうして村の報告に来るらしい。そこで何か問題があれば冒険者への依頼としてギルドに提出するのだ。
その後ギルドを後にした俺と父さんは、自警団用の装備の補充と、俺の訓練用の武器を幾つか買ってくれた。
因みに、俺の住む村は国の末端にあり、そこまで赴く冒険者が少ない。そのため村の自衛は勿論、自給自足の面では自警団で狩った動物を食べ、狩った魔物は王都に来て一括で売り捌く。
凡そ一ヶ月に一回魔物を売りに来るため、その分の金額も上がる。しかしうちの村は自給自足で十分賄えるうえに、辺境すぎてほぼ国の管理がない。その代わり税金もかなり格安で、その分装備に費やせるのだと言う。
自警団の給金分と家のための貯金を残し、俺は数多の武器を買って貰った。
長剣、大剣、斧は両手物と片手物それぞれ、その他にも短剣や槍、弓、魔法行使補助のための媒介とする杖などの主流武器から、個人的に興味のある鉈、それからハンマーなどの鈍器だ。
途中から父さんもノって来たのか、王都のあちこちを周り狩りには使えなさそうな武器すらも買って、家に帰ったのは夕方の四時。
予定よりも大幅に遅れて帰ったことで、父さんは母さんに怒られた。久々に怒った母さんを見ておかしくなった俺はぷっと笑ってしまい、序に俺も怒られた。
そうして夜道を馬車で帰り、家に着く頃には俺はもう寝てしまった。途中で一緒に歩き回った父さんも疲れて眠くなってしまい、それからは母さんが馬車を走らせた。
そして次からはもう一人大人の男性を連れて行くことになったのは、言うまでもない。




