3話:スキル(前編)〜神授〜
「う、つつ……」
光に飲み込まれた俺は、その一瞬間の後に意識を覚醒させた。
ティフォたちのいる空間から引き剥がされたのは、前に言っていた世界からの拒絶だろう。
「消滅させられなかったのがせめてもの救い……か」
能力を貰う約束の後に消滅させられたら、それこそ洒落にならない。今世こそは、悔いのないようにこの人生を満喫する。そう心に決めたのだから。
「これで終わり――だよな? まぁ、とにかくあの牧師さんみたいな人のところに戻るか」
特に何か変化があったという実感はないが、きっと能力は授かれただろう。
そんなことを考えつつ石像の前から立ち上がり、俺は右手をグーパーさせながら部屋の入口に戻る。
「お疲れ様でした。能力についてはあちらの水晶に手を翳せば確認出来ますので、お帰りの際には是非」
正直貰った能力は知っている――というか俺が望んだのだが、確認しないと少し不思議がられるかもしれないな。それにティフォはもう一つどうこうって言ってたし、しっかり確認しとくか。
「ありがとうございます!」
「はい。それでは、神々の祝福がありますように――」
笑顔で頭を下げた牧師に俺も会釈し、そのまま水晶へと直行する。
「えーっと、これに手を翳せばいいんだよな?」
そう呟いてゆっくりと手を翳すと、水晶が淡く青白い光を放った。するとその光に何やらプレートのようなものが浮かび上がり、文字が映し出される。
「おお、これがステータスボードみたいなやつか?」
ふむふむ……なるほど?
目の前に浮かび上がったプレートには、俺のステータスのようなものが記述されている。
なになに……? えーっと、
普通能力、懐柔(超級)。対象のモンスターを従魔にする。能力の行使には圧倒的な実力差、又は対象の合意が必要となる。(超級のため条件を満たせばモンスターランクの上限は無し)
固有能力、努力結実(戦闘)。本人の努力に見合った技術を与える。努力前の階級は下級未満だが、努力次第では超級を超えられる。
特殊能力、神託。協会、若しくは神を祭る依代を介すことで神託を受けられる。(ノーマルではなくエクストラのため、直接的な対話も可)
……っと。
懐柔は上位二階級の超級。最上位の階級か。階級によってテイム出来るモンスターにも上限があるんだろうけど、超級になるとそれがなくなるのか。――つまり、ドラゴンより強くなればドラゴンをテイム出来るのか……!? 夢広がるな! 多分やらないけど!
それと前から約束してた努力結実。これは正直極めればチートだけど、見合う見合わないは俺自身じゃ分からないしな……まぁ夢があっていいけど。
んでもって最後に、ティフォが言ってた神託か。そう言えば次会う約束とかなかったし、これは貰えて良かったな……良いお店見つけたらお守りサイズくらいの石像でも作って貰おう。
「――あっ、父さん待たせてるんだった! 早く戻らんとな……」
こっちの時間ではまだ十分ほどしか経っていないだろうが、ここでゆっくりしていて待たせるのも悪い。ここまで数時間の馬車に付き合って貰った上に明日は散策にも付き合ってもらうのだから、せめてそのくらいの気遣いはするべきだろうな。
そうして俺は、少し足早に父と母の待つ教会の入口に向かう。
「お父さーん! お母さーん!」
教会を出て間もなく父と母を見つけ、俺は二人の元へ駆け寄った。談笑していた二人もすぐに俺に気付き、笑顔で手を振り返してくれる。
「おかえり、アル」
「おう、アル! 早かったな!」
「うん! 丁度他に人がいなくてすぐに出来たよ!」
ティフォたちと話す時とは違い、こっちでは五歳相応の話し方を演じる。幸いにも小さい男の子との関わりも少なくなかったため、そこそこ自然な五歳児は演じられているはずだ。とはいえ中身は十五――ここでの五年を合わせれば二十歳なわけで、話し方や知識では稀に不思議がられることもある。
しかし、それでもそこまで危ない状況には今のところ陥っていない。それもこれも、こっちの世界には随分助けて貰っているのだ。
例えば――、
「そうかそうか! それはラッキーだったな!」
――そう。こっちの世界では、日本語は元より英語も通じる。と言うか、それを言語とする都市があるのだ。
今いるここは、この世界で一番の大国――グレイス王国。そしてここはその国の東に位置する、ニシンという都市だ。グレイス王国は、北のローレン、東のニシン、南のオラリア、西のアメーリと言う四大都市で構成される大国だ。地方によって、話し方や経済も変わってくるらしい。
まぁ、そんなこんなで今の生活は充実しているし、今のところ不満もない。今日で能力も授かったことだし、これからもっと努力していこう!
「そう言えば、アルはどんな能力を授かったんだ?」
うっ、やっぱりそう来るか……
確かに訊かれるだろうとは思っていたが……さて、どう説明しよう……
ノーマルの懐柔と、百歩譲ってエクストラの神託はいいとして、ユニークの努力結実なんて言ったらどうなることか……エクストラとかユニークがどれだけレアなのかも知らないし、ノーマルの懐柔でさえ超級だ。でも流石に授かれなかったなんてそれこそ問題だし、努力結実はこれから先ほぼ確実にバレる。さぁ何と言おうか……
「え、えーっとね……」
冷や汗をかきながら人差し指で頬を掻き、更には目も合わせられない。こんな態度じゃ明らかに怪しまれるのに、他の誤魔化し方が思いつかない。
ここに来る前に何か考えておくべきだっか、いや考えたところでこれは……
「もう、あなた。アルも長時間の移動と初めての場所で疲れてるんだから、せめて宿を探してからにしたら? ねぇアル?」
おおおおおおお! ナイスカット!
父の質問に対しあたふたしていた俺に救いの手を伸べたのは、母、ラフィールだ。俺を見ていた父、カルストルの肩をトントンと叩き、俺から視線を反らさせる。そしてそのまま馬車の御者台に向かわせ、俺にウィンクをした。
前々から事ある毎に機転を利かせてくれる母さんは、ここ数年で何回も俺を助けてくれる。
「それもそうだな。先ずは宿を見つけるか」
「ええ。アルも疲れてるし結局一泊しかしないんだから、成る可く落ち着けるところを見つけて頂戴ね」
「おう、任せとけ! しっかり休めるところ探してやるぜ!」
そう言って、父さんに続き俺と母さんも馬車に乗り込む。
「そう言えば、父さんと母さんはどんな能力を持ってるの?」
「そう言えば話したことなかったかしら。アルは能力のことわかる?」
「うん! 教会で教えてもらったよ!」
本当はセバスさんから教えて貰ったのだが、まぁ教会と言っても嘘ではないだろう。
「あらそう! それならその説明は大丈夫そうね」
「うん! 大丈夫!」
そんな風に話をしつつ、母さんは自分と父さんの能力を全て教えてくれた。
先ず、村の自警団を努める父、カルストルの能力は、
一般的能力の長剣操作(上級)、短剣操作(中級)、俊足(下級)、火炎適性(中級)だ。
全て一般的能力とはいえ、長剣操作の上級はかなり強そうだ。それに俊足があれば間も早く詰められそうだし、距離を取られても火の魔法が使える。
上位二階級の能力を持っていない場合は国家の軍隊や騎士団には入れないが、それでも一般の傭兵家業くらいなら優に熟せる組み合わせだ。
そして次に、母、ラフィールは、
普通能力の料理(中級)、器用(上級)、読心(中級)、治癒(下級)。
この世界では、上級×1、中級×2、下級×1という組み合わせが多いらしい。治癒は戦闘能力だが、料理や器用は家事に特化した生活能力。読心は戦闘で活かす人と生活で活かす人がいるため、明確な区分はないらしい。しかしどれも、母親としては持っていて損のない能力だ。
そしてそんな話を聞いて、俺の能力構成はやはり異常。エクストラを授かる確率は百人に一人、上位二階級を授かる確率は千人に一人、そしてユニークを授かる確率は、数万から数百万に一人という確率らしい。
そんな何ともシビアな世界で、俺はその三つを同時に持っている。
母さんに「もしも」ということで聞いてみたところ、持っているモノにもよるが公に発表すれば上位貴族どころか王家からでさえ呼び出される可能性もあるとのこと。
――全く、平穏で少しスリルも混じえつつのんびりとした人生を歩もうとしていたのに。
まさか開始から五年目で躓きかけるとは……