2話:約束(後編)〜スキル〜
神にティフォ、補佐役のオジサンにセバスという名を付け、俺の約束はしっかりと果たした。そしたら、次はの約束は能力だ。
今の世界では、五歳になると教会で能力を授かるらしい。勿論授かる人全員がティフォたちに会うわけではないのだろうが、俺は会うことが出来る。それなら、与える存在であろうティフォに少しくらい詳しい話を聞いてみたいものだ。
「そう言えば、俺の能力ってどうやって授かるんだ? ティフォが何かしてくれるのか?」
「んー……前はティフォがあげてたけど、サイキンはセバスにやってもらってるよー!」
お、早速ティフォも名前で呼んでくれてるのか。なんかちょっと気恥しいけど、まぁそれでもやはり嬉しい気持ちが勝つ。
てか嬉しくて危うくスルーしそうになったけど、今はセバスさんに任せちゃってるのか……
「そうですね。最近では能力の概念を持つ世界も増えていまして、世界によって能力も多少異なるので大凡は私がやっています」
「そうなんですか。そしたら、俺の能力もセバスさんが?」
「んーん! ヌシはトクベツ! 今回はティフォがやるよー!」
お……? ティフォがやるのとセバスさんがやるので何か変わるのか? まぁ、別に誰に貰っても良いのだが……
「ヌシはどんなのが欲しー? セバスがやると今あるモノしかあげられんけど、ティフォがやれば新しいのも作れんのねー!」
新しい能力なんて作れるのか……まぁ元々能力を作ったのがティフォなら、それも十分にありだな。
体を左右に揺らしながら俺の目をじっと見ているティフォの発言には、つくづく神だと実感させる力がある。
「でも、能力って言ってもよく分かんないしな……何せ今までずっと体ばっかり鍛えてたから」
「うーん……そっかぁ。でも、こういうのがいいってあれば何でも作れるよー? 例えばセカイをバラバラにできちゃうのとかー」
いやいやいや。それは流石に持て余す……というか、使ったところで世界を壊したあと俺はどうすればいいんだって話だ。せめて基本くらい教えて貰っておけばよかったな……
「それならセバスに教えて貰うといーよ! セバスなら今ある能力全部覚えてるし!」
「え、そうなんですか?」
「そうですね。全能がティフォ様なら、私は全知と言ったところです。世界の仕組みや情報は殆ど頭に入っています」
殆ど……というのは自重か謙遜だったりするのだろうか? それともセバスさんでも知識として持ってないことがある?
いや、今はそんなことどうでもいいな。セバスさんなら教えるのも上手そうだし、能力について知るいい機会だ。
「そしたら、お願いできますか?」
「ええ、いいですよ」
態々この世界の常識を教えるのも面倒そうなのに、嫌な顔一つせず二つ返事で了承してくれるなんて……しかも笑顔で頷いてくれてる感じ、こうやって話すのが好きだったりするのか?
「先ず、能力の活用形態は、大きくわけて二つ。戦闘に用いられる戦闘能力と、日常生活に使われる生活能力です」
なるほど……戦闘用と生活用の二種類か。剣術とか魔法とかの類いが戦闘で、鍛冶とか調理が生活か?
「そして更に、その二種類の能力にも格のような種類があります。例えば、比較的授かる確率が高く一般的な人々が授かる一般的能力。 授かる確率がかなり低く、その効力も高いことから重宝される特殊能力。 この世で一人しか持つことの出来ない固有能力。 そして、種族特有の能力で無意識での発動、または常時発動している種族能力。その計四種類ですね」
おお……結構分かりやすい区分だな。ノーマルにエクストラ、ユニークとパッシブか。ノーマルとパッシブはともかく、エクストラかユニークを持ってる人が強かったりするんだろうな。
「そこでさらに殆どの能力にはランクがあり、下級、中級、上級の基本三階級と、特級、超級の上位二階級の合計五段階に分けられています」
「なるほど……それだと結構な数の能力があるんですね」
「そうですね。まぁ階級のない能力もありますが、基本的には五つに分類されるので。同じ能力をもっていても結構実力差は出るでしょう」
この世界は、思っていた以上に能力が白黒付ける世界だな……そんな能力を選ばせてもらえるのなら、なるべく慎重に決めた方がいいな。
「能力の概要は大方この程度です。後は貴殿自身に選んで頂く訳ですが、先ずは戦闘職と非戦闘職。どちらに就くかが大事です。今のところどちらを考えておいでですか?」
「それは勿論戦闘職です。この世界では冒険者をやって行くつもりですからね!」
「なるほど、冒険者ですか。良いですね。それでは戦闘職で進めていきましょう」
本を片手に持ったセバスさんが、テーブルを挟みつつマンツーマンで基礎から教えてくれる。この一対一の会話は、教師との面談で進路説明を受けてる感じに似てる。
だが、向こうの世界での面談とは全然違う。あの時は進路など全く決まらずにゴタゴタしてしまったが、今の俺には冒険者という明確な夢がある。
俺にとって冒険者とは、前世からずっと憧れていた職業だ。勿論作品によって内容は異なるが、冒険者物の創作品はかなり面白い。自由に世界を旅して、仲間と共に共通の目的を果たす。何ともロマンチックな人生だ。
「それでは先ず、ティフォ様とのお約束である努力が報われる能力ですね。戦闘職に就くということで、固有能力、努力結実(戦闘)をお渡しします。これは世界初の固有能力なので、向こうでの先達はいません。その可能性を御自身で見出して下さい」
おお! いきなり固有能力か! 世界初ってのは何だか胸が踊るな。
「他には何を望まれますか? 努力次第で戦闘に直接関わる技術は全て会得できますが、初期から使えるものがあっても良いかと」
「いや、聞いた話冒険者になれるのはまだ先みたいだし、それまでに自力で習得することにします! 後はそうですね……テイムの能力ってありますか?」
「テイム……ですか? ええ、勿論ありますよ」
「それを貰ってもいいですか? モンスターとの冒険も少し憧れてるので」
テイム……作品の設定上では大して強くないとされているが、テイマーが主人公で無双する作品も少なくない。王道で言うならスライムやフェンリルなどを従えている物が多いが、そんな従魔使いもまた憧れである。
「ええ、勿論構いませんよ。というか固有能力と普通能力の二つだと少なすぎるくらいなのですが……」
「いやいや、努力すれば戦闘用の能力は習得出来ちゃう訳ですし、これ以上多いと逆に強くなる楽しみも無くなっちゃうので!」
本来なら、貰える能力を全部貰って無双――! もいいけど、今の俺には持て余す。慌ただしく活気のある日々もまぁ楽しかったが、今世はまったりスローライフがモットーだ。
「そうですか。それならまぁいいですが……本当にその二つでよろしいですか?」
「はい! その二つでお願いします!」
「分かりました。それではもうそろそろ時間にもなるので、戻られますか?」
授かる能力を決めた後、俺はセバスさんに続き席を立った。そしてテーブルから少し離れたところで二人から一歩離れ、向かい合ってから深々と頭を下げる。
「あ、そー言えば忘れてた! ヌシがこれからい生きてくアイダ、ティフォはたまーにノゾいてるから! そんでヌシが喜びそーなイベント出してあげるから、もしも気がノったら受けてみてねー!」
「え、ちょっ、それってどういう――」
「もージカンないのねー。あと戻ったら新しい能力渡しとくから、後でカクニンしてー!」
「えだからそれも――――」
別れ際にティフォが急に畳み掛け、慌てた俺の言葉を遮るように光が俺を包む。目の前に広がった光にティフォたちの姿は隠され、その空間から俺は引き剥がされた。




