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1話:死、そして転生(後編)〜全能の神〜

 オ、ジ、サン! オジサン神様来たァー!!

 おーおー! やっぱ神様はオジサンじゃなくちゃなー! これで風格とかそーゆーのも出るってもんだわ!


「――どうやらご想像通りだったようですが、申し訳ありません。残念ながら、私は神ではないのです」


 神様じゃないオジサン来たー!! 来たよ神様じゃないオジs……ん?


「神じゃ……ない?」


「ええ。興奮されていたところ申し訳ありませんが、神様はそちらで、私は単なる補佐役ですので」


 なん……だと……?


 かなり伸びた真っ白な髪と髭。その他眉毛なども全て真っ白で、皺のあるその顔は威厳と言うよりも優しさが滲み出ている。神と言うよりも仏に近い感じだが、神と言われれば十分納得出来る容姿だ。

 そんな俺のイメージを体現してくれたようなこのオジサンが、単なる補佐役だとは……


「あー、えっと……補佐役って言うのは?」


「少し、話を致しましょう。神代殊有様」


 そう言って、補佐役と名乗ったオジサンは優しい笑みを浮かべる。そしてパチンと指を鳴らすと、俺の前に、一つのテーブルと三つの椅子が現れた。


「ささ、どうぞお座り下さい。少し、長い話になりますので」


 長い話はちょっと苦手なのだが……でも、確かに興味はある。興味のあるものなら多少はマシに聞ける……か? うん、聞いてみよう。


「まず、貴殿が想像する神の像をお聞かせしてもらってもよろしいですか?」


「え、ええ。俺がイメージしていた神は、貴方のような容姿で全知全能。全てを知り全てを行い、この世を動かす……いや、見守る? んんんんん……?」


 そう言えば、神のイメージって何だ?

 色んな神が多すぎてこれと言ったイメージが固まらない……全知全能なイメージは強いけど、世界には干渉してるのか……?


「きっと、それが正常だと思いますよ。元々、直接面識のなかった存在へのイメージはそんなものです」


 確かに、元々いるかどうかも分かっていなかった存在を正確にイメージすることなんて出来ないな……


 神のイメージで頭を抱えた俺に、補佐役のオジサンはニッコリと微笑みかけてきた。

 やはり、優しさが滲み出るこの人の笑みはどこか落ち着くものがある。そう言えば、緊張とか全くないし、やっぱりこの人が神なんじゃ……?


「多くの人々が神様を全知全能と想像していますが、実のところ神様は全能なだけなのです」


「全能なだけ……ですか?」


「ええ。見ての通り神様は純粋無垢で崇高なお方。ですがその反面、知や深い思考を持たずに気分だけで全てを行使なされます」


 気分だけで……? それってかなりマズくないか? 全能で気分屋なんてビ○スどころか全○様クラスでやばいだろ……


「それでよく世界は滅びないな……? 下手したら明日にでも世界が亡びてもおかしくないんじゃないか?」


「いえいえ。確かに気分で力を行使されますが、人間たちと接触する機会がほぼないので気分を害すことはほぼありません。たまに貴殿のように気に入った方の魂を呼ぶことはありますが」


 なるほど、確かに気分を悪くしないなら無闇に消すことはないのか。

 ――というか、気に入った? 俺は気に入られたのか? こんな可愛い子ども……あいや、神様に?


「それで、俺を呼んだのは? 転生って言うのは、態々こっちに呼ばなくてもできるんじゃないんですか?」


「確かに、普通に蘇るだけなら生命循環の過程で普通に行えます。ですが、先程も申し上げました通り神様は貴殿のことを大変気に入られております。なので貴方の死に伴い、こちらにお呼びした次第です」


 なるほど……? いつどこで気にいられたのかはよく分からないが、特に悪いことでもないから良しとしよう。それよりもまず気になるのは、俺の今後だ。


 そんな疑問を胸に、俺は神である子どもの方に視線を向ける。――うん、やっぱり可愛い。


「ヌシの今後は、特にキメてないのなー! なんとなくで呼んじゃったから、ジユーにしていーのな!」


 お、おお……やっぱりこっちは心の中読まれてるのか……全能の神様相手にこれじゃ、変なこと考えられない……って、もう手遅れじゃね!? 散々可愛いだのなんだの思ってんじゃん!


「別に、カワイーって思われるくらい全然イイのなー! それに、カワイーって言われたほーがボクもウレシー!」


 セ、セーーーフ! 良かったぁぁぁ……!


 心を読まれているとどうもやりにくいが、やはり害はないようだ。と言うよりも可愛いという言葉にも純粋に喜んでくれるし、全能なこと以外は普通の子どもと何ら変わらない。

 まぁ、全能という所が大き過ぎるほどの違いなのだが。


「それにしても、好きにしていいって言われたってなぁ……」


「ボクはカミサマだから、何でも出来るのなー! それにボクはヌシのこと好きだから、ヌシがやりたいこと何でもやらせてあげるのなー!」


 な、ん、で、も……!

 何と魅惑的な言葉なんだろう……というか、何でも出来ちゃう子どもに何でもしちゃうなんて言われたら……!!

 ――ととと、危ない。これ以上はダメだ。たとえ本当に神が許したとしてもこれ以上は俺が許さない。純粋無垢なこの子ども心を俺の一時の邪神で穢すわけにはいかない!


「んー?」


 ああもう可愛いなぁくそっ!! 保て俺の理性……!


 邪な思考を抑えつつチラッと神様の反応を伺うと、そこにはまさに純粋そのものの可愛い顔があった。俺の思考がどこまで読み取られたのかは分からないが、特に怪しんでいる様子はないようだ。


「と、ところで! 何でも出来るって言うのは、例えば記憶をこのままに転生……みたいかことも可能なのか?」


「んー? 全然ヨユーだよー? 実際に何人かやったことあるしねー!」


 そう言えば、確かに前世の記憶がある人もいるなんてテレビでやってたな……本当なのかは知らないけど。


「じゃ、じゃあ! 異世界的なのは? そもそも、この世に世界って何個くらいあるんだ? やっぱり実際は一つ?」


「んー……」


 この微妙な反応……

 やっぱりそう都合よく異世界なんて物はないか……


「分かんない! ケッコーいっぱい!」


 そっか、いっぱい……やっぱりいっp……いっぱい!?


「いいいいっぱいって、そそそんなにあるの!?」


「いっぱいあるよー。ねー?」


「ええ、そうですね。私たちの管轄の物では数百……他の神様方も合わせれば数万数億でも効かないでしょうね」


 神様っていっぱいいるものなのか……


「そしたら、俺の記憶をそのままで異世界転生してみたいんだけど……」


「ん! いーよ! どーゆーセカイがいー?」


 そ、そうか……一概に異世界と言っても数は数百……

 俺の好みにあった異世界の条件は……先ずはショタ。これは決まりだな。これがない世界じゃ生きていける気がしない。それから異世界のテンプレと言えば、魔法に魔獣……魔王はなんか面倒だからいらないとして、冒険者制度とかギルドもあれば面白いな……時代は近未来よりは西洋風……? それから冒険するならやっぱり仲間も欲しいし、スキルの概念とか……あー、錬金術の類いもあっていいかもな……あ、それから……


「ちょちょちょっ! ちょっと待って欲しいのな! いくらボクでもそんなにいっぱい考えられるとビミョーに探すのメンドーになるのな!」


「あ、ああ……ごめん……ん?」


 ビミョーに探すのが……面倒になる……?


「――ギクッ」


 あ、やっぱり……

 たしかに数百の中から探すのは面倒だよな……


 俺がチラリと視線を向けると、神様は口を尖らせて音の鳴らない口笛を吹く。そんな如何にもな態度が、より一層俺の心を惹き付けるのだ……


「と、ととととりあえず! ヌシのキボーに合うイセカイは見つけたのな!」


 お、見つけられたのか。やっぱりなんだかんだ言って全能すげぇ……


 かなり慌てているが、やはり全能というのはやる気を出せば何でもできるのだろうか。その見た目や仕草の可愛さもだが、全能という事にも多少惹かれるものがある。異世界に行かないでここで一生遊んでる、ってのもアリだったのかもしれない。


「後はヌシの最初のキボーの、ドリョクが報われる? だったっけ。それもちゃんと約束してあげる。能力(スキル)のあるセカイだから、まーそれはむこー行ってからのオタノシミ!」


 な、なるほど……確かにそう言えばそんなこと思いながら死んだな……

 結局あの世界じゃ努力してても報われないこと多かったし、報われるかもしれないところで死んだからな。


「な、なあ……あの、さ。俺が守ろうとした後輩って、どうなった……? って言うか、どうなるんだ?」


「んー? んーっと……どーなんのー?」


「はい。貴殿が命を落としてしまった時点で、件の輩は全員逃走。警察と一緒に御友人様たちが戻ってきた頃には既に貴殿は命を落としていて、貴殿の親御様も御友人様も、誰も彼もが涙を流しておりました。因みに後輩様たちは陰ながら貴殿を心底慕っておりましたので、あの後も貴殿の制服や私物などを一つずつ貰い、大切に扱っているとのことです。勿論、貴殿が早めに御用意しておられた卒業する時のプレゼントも」


「ほ、本当、ですか……? 皆……俺のこと、そんなに……?」


 いつの間にか、俺の目からは涙がボロボロと零れていた。死を実感した時でさえ出なかった涙が、今、大量に溢れ出る。

 後輩が無事だったこと、後輩に好かれていたこと、そして後輩に限らず皆が涙を流してくれたということが、嬉しくてたまらない。人に好かれていることを知って、漸く自分は安心できた。


「貴殿は、御自身で思っている以上に周りから慕われている存在です。それに、貴殿の御友人方もとても優しい人ばかりです。類は友を呼ぶ、とは、こう言うことなのでしょうね」


「ありがとう、ございます……」


 涙を拭いながら呟いた俺に、補佐役のオジサンは「いいえ」と優しく微笑んだ。やはり、この人の笑みはどこか落ち着くものがある。


「それでは、そろそろお時間ですね。我々の世界では、貴殿たちのような人々はほんの少しの間しかいられません。この空間に完全に拒まれると魂をも消滅させられるので、そろそろ転生と致しましょう」


「え、あ……そうなんですね。――分かりました」


「それじゃ、テンセーするよー!」


 という事は、この空間で一緒に過ごすことは不可能だったのか。まぁ、確かに人間と神じゃ住む場所は異なるよな。


 逸早く立ち上がった補佐役のオジサンに続き、俺と神様も席を立つ。そしてテーブルから少し離れたところで、神は俺に両手を向けた。


「あ、最後に! 二人の名前は……?」


「我々に名前はありません。神と、その補佐。その役割があるだけです」


「そ、そうなんですか? そっか……名前で呼んでみたかったんですけどね……」


 神にも名前くらいはあると思っていたが、やはり空想と現実ではかなりの相違点がある。こんなにも良くしてくれる二人を最後くらい名前で呼びたかったが、ないのでは仕方ないだろう。

 多少の後悔を胸に、俺は少しずつ光となって消えていく。


「あ、それじゃーまたコンド名前付けに来てよー!」


 ――え?


「向こうの世界では、五歳になると教会で能力(スキル)を受けることになります。その時に少しだけ、こっちの空間にいらして下さい」


 な、なるほど……生きていても教会に出向けば会えるのか……? なら、そこまで寂しくはなさそうだ。


「分かった! 五年間のうちで、良い名前を考えておくよ!」


 半分以上光となった体で、俺は二人に思いっきり手を振る。



 ――さあ、ここからが俺の第二の人生だ。

 努力が報われる世界で、人一倍努力を重ねて、思う存分異世界を満喫しようじゃないか――!

ここまで読んで頂きありがとうございます!

次回からはいよいよ異世界編に突入しますので、是非引き続き読んで頂けるとありがたいです!

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