17話:整えられる地盤
俺が手にしているのは、カルロスさんに直接頼んで造ってもらった槍。
槍の長さは俺の身長に合わせてあり、太さも丁度握りやすい。しかし、それだけでは普通のオーダーメイドでも出来る。この槍には、カルロスさんだからこその技術と仕掛けが仕組まれている。
「本当にできるのか、ここで試してみるか。――スイ、やってくれるか?」
「キュイッ!」
槍を体の周りでグルグルと回して構えた俺に、スイはやる気十分と言った顔で答えた。
一時はどうなることかと思ったが、流石は俺の相棒だ。つい数分前までいざこざがあっても、戦闘となればそれを一旦置いてくれる。切り替えが早いのは、戦闘に於いてかなり役に立つ。
「――やるぞ」
横に持った槍を体の前に持って来て、少し膨らんでいる太刀打ちの中心部分をそっと手でなぞる。
太刀打ちの中心部分にある膨らみは何かを嵌め込むための窪みがあり、その窪みの大きさは俺にとって馴染みのある大きさだ。
「キュキュッ!」
隣に並んだスイが跳ね上がり、自らその窪みにすっぽりと入った。
そして――、
「伸縮」
叫び、俺は槍を力ずくでぶん回す。
「ギギャッ!?」
「グゲッ!」
「ギャギッ!」
「ギィィッ!」
瞬間、俺の構えた槍の間合いに入っていなかったゴブリンが、血飛沫と苦鳴を上げて次々に倒れていく。
「――これ、は……強いな……」
伸縮は、スイの持っている能力だ。体が液体と個体の狭間にあるスライムは、その体をある程度自由に伸縮または変形させることが出来る。
そう。つまりこの新しい俺の槍は――、
「スイの能力の効果を反映させられる武器」
スイの伸縮を槍に反映させることで、普通は長さの決まっている槍を変えることが出来る。言わばこれは、殺傷能力の高まった如意棒だ。
「俺もリュカも固有能力持ちでスイはそもそも種族のユニーク。その上武器も独特ってんじゃ、このチームのユニークじゃない所ってなんだ……」
俺とスイ、そしてリュカに加え、新たな固有能力を持った武器が追加された。これは固有能力は世界でも一人しか持つことが出来ないし、スライムのユニーク個体もまだ公には公表されていない。そしてこの武器は、あのカルロスさんが試作品として渡してくれたものだ。
武器に魔物の能力を乗せるという発想は元々あったが、それを実現出来る人は今までにいなかったらしい。そしてそれはカルロスさんも同じで、どうやらユニーク個体じゃない普通の魔物というのが原因かもしれなかったと言う話だ。
つまり、この武器は未だ世界に一つだけの得物。仕様や製法、特色は未だ出回っていない。
「確か、スイがその窪みから出るか能力を解除すれば自動的に元に戻るはずだったか?」
『んー……多分能力は解除出来ないよー。試してみたけど戻んないー』
――ふむ、そうか。やはり試作品というだけあって多少の不具合はあるみたいだな。まぁ最初から上手くいく確率なんて低いし、その辺は当然といえば当然か。
「分かった。じゃあその窪みから出てみてくれ」
『んー、分かったー』
そう言って、スイは体を窪みの中でぐにゃぐにゃと動かしながら槍と分離する。
「『――あ』」
スイが槍から分離した瞬間、俺とスイの声が重なった。そしてそんな俺たちの視線の先で、新しい俺の槍が突如バラバラに崩壊した。
「これは……報告だな」
能力を反映させて長さを調節できたは良いものの、元の長さに戻す二つの方法はどちらも失敗。このままでは、一回きりの使い捨て武器になってしまう。
使った試作品の評価や欠陥報告は、俺の義務だ。
「――まぁ報告は帰ってからするとして、先ずはスイに謝らないとだよな」
伸びた槍の先端の方にいたスイに近付き、俺はスイの前に正座した。
そんな俺の姿にスイも表情を変え、出来る限り目線の距離を短くして向き合う。
「王宮で修行してた一週間と、リュカとばかり話してたこの二日間。パートナーであるお前を放ったらかしにして、本当に悪かった。スイの気持ちにももっと早く気付くべきだったし、今回は俺の配慮が足りなさ過ぎた。本当に、ごめん」
正座した足の上に手を置き、俺は地面スレスレまで深く頭を下げる。
「でも、こればっかりは分かって欲しい。俺は決してスイを嫌いになんてなってないし、邪魔だなんて思ったことない。それはこれからも変わらないし、ずっと好きでいる」
『――スイも、アルの気持ち分かってたのに意地悪しちゃった。アルがあの子とずっと話してて寂しかったから、スイだけに話して欲しくて、アルにもあの子にも、いっぱい嫌なこと言っちゃった……ごめんなさい……』
やっぱり、スイは俺のこともリュカのことも嫌いになんてなっていなかった。俺が寂しい思いをさせたせいで、スイは止むを得ずあんな態度をとってしまったのだ。
セバスさんから受けた神託に気を取られすぎて、スイとのコミュニケーションが疎かになってしまっていた。寂しくさせないために強くなると決心したのに、それでスイと話せていなかったのなら本末転倒だ。
今回の件は、やはり俺が原因で、スイもリュカもどっちともが被害者。二人に悪いことなんてないし、スイにも悪気なんてものはなかった。
「だから、スイが気に負う必要なんてないし、謝ることも無い。リュカとばっかり話してたら、そりゃ寂しくなるよな……俺が本当にスイのことが好きなのかって、心配にもなるよな……本当にごめん……」
『ううん、違うの。スイは、あの夜アルが言ってた言葉聞いてた。心配とか寂しい思いさせないために、アルが強くなろうとしてたんだって。これから先も、ずっと好きでいてくれるって。なのに、アルの話聞いてたのに……ごめんなさい』
「――っ」
そっか、聞いてたのか……
俺が自分だけで覚悟を決めたことだと思ってたけど、そっか……
「なら、余計に守らなくちゃダメだな。――改めて約束する。心配も、寂しい思いも、絶対にさせない。リュカと一緒になっても、スイへの愛は変わらないし、どっちも平等に好きでいる。皆で、ずっと一緒にいよう」
『――うん、分かった。スイ、あの子に謝ってくるね。それで、皆で一緒に帰る』
「ん、分かった。じゃあ、それが終わったら皆で帰ろう」
そう言って、俺はリュカの方に急いで向かうスイを遠目に眺める。
スイの頭を下げるような動作にリュカが慌てて手と首を振り、リュカもスイに謝るような素振りを見せる。それで暫く二人で向かい合ったかと思うと、次はお互いに笑い出した。あまり声は聞こえないし表情も僅かにしか見えないが、その様子から蟠りのようなものは窺えない。スイとリュカも、直ぐに打ち解けられたようだ。
そしてスイたちが笑いながら俺のところに戻って来ると、俺とスイは早速倒したゴブリンの討伐証明部位を回収。そして試作品の槍だった物も回収し、森を抜けて王都の中に戻った。
王都に戻った後はギルドに討伐証明部位を提出し、そこそこ大きな村があったことを報告。ギルドが予想していた場所よりも手前にあったため、近々Dランク以上向けとしての調査クエストが入るとのこと。そしてその案内役として、俺の同行も決まった。
ギルドに向かった後は昼食を済ませてからカルロスさんのところに向かい、使ってみた感想や欠陥を報告。槍だったものは一度カルロスさんに返して、槍に編み込んだ術式と構造を再確認してもらう。
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カルロスさん曰く、術式に詳しい魔術師の人とも話をするため武器の完成までは時間がかかるらしい。そしてその話の結果次第だが、より完成度の高い武器を作るにはもう少し高ランクの魔物の素材が必要になるかもしれないとのことだ。
「――だから、ゴブリンの調査が終わったらもう少しランクアップに繋がりそうなクエストを受けよう。自分の力を過信するつもりはないけど、臆病になっててもダメだ。次からは一つ上のFランクを受けるけど、いい?」
宿に戻ってから俺とスイとリュカはベッドに座り、今後の方針について話し合っていた。
『アルとスイなら大丈夫でしょー! スイからすれば、アルは慎重過ぎだと思うよー』
「僕もスイくんと同じです。僕は戦えないのであんまり偉そうには言えないですけど、アルくんの力ならFランクでも全然大丈夫だと思いますよ!」
俺の言葉に、スイとリュカは全く同じ意見だ。寧ろ、今までの俺のやり方の方に首を傾げていたらしい。過信し過ぎないようにと思っていたのだが、自分の力を下に見すぎていたのだろうか。
まぁ確かに言われてみれば、最初に倒したレッドボアですらEランクだ。自分自身も強くなりスイとの連携が増えた今、Gランクで燻っていてはただのチキンだな。
『Fランクいっぱいクリアして、早くSランクになろー!』
「流石にSランクは早過ぎですよ……先ずはFランクに上がって、Eランクのクエストを受けられるようにならないとです」
Sランクという最大の目標を絶対に見失わないスイと、目の前の目標を正確に捉えているリュカ。捉えているものは違いすぎるが、どちらも俺たちにとっての目標であることには違いない。同じ目標を目指すスイとリュカが仲良くなってくれて、今の俺は至極ほっとしている。
因みに、リュカをパーティメンバーとして認めたからか、スイの念話はリュカにも届くようになっていた。テイマーでないリュカからは念話を飛ばすことは出来ないが、聞くだけならば出来るようだ。
まだスイも口で話すことは出来ないが、それは追々考える。今はスイとリュカが仲良くなり、コミュニケーションを取れるようになったことがかなりの進歩だ。
そしてこの進歩こそが、パーティとしての大きな前進に繋がる。
今回のこの一件を通して、俺たちのパーティは成長を続けるための冒険の地盤を整えることが出来た。
これから先は、この上に何をどれだけ積んでいけるか。そして、その積み上げたものでSランクに届くかどうか。
俺と、スイと、リュカ。ユニークで揃えられた俺たちのパーティの物語は、次の段階へと歩を進める。
これにて第二章を完結とさせて頂きます。
また、衝動的にこの作品を書き始めてしまった為暫く更新できていなかったもう一つの作品、『二度目の四天王ライフ』の更新を再開しますので、こちらの作品の更新は一時停止、若しくは頻度低下します。
先ずは『二度目の四天王ライフ』の壱章を完結させますので、もし宜しければそちらの方も御一読ください。




