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2話:ハードな予感

 一人暮らし初日の朝は、実に平凡なものだった。朝日の眩しさに意識を覚醒させ、そのまま宿で朝食を摂る。そして今日一日必要になりそうな荷物だけをまとめたら、その後は直ぐに宿を出た。

 そこに何か非凡なことがあるとしたならば、それは横にスライムがいたことくらいだ。


「まぁ、そっちの方が楽だからいいけど。な、スイ?」


「ピュピュー!」


 スイの基本的な感情表現は、他のスライムと変わらない鳴き声と豊かな表情、そしてプルプルボディの動きだ。特別何か伝えることがある場合以外は、念話を使わないらしい。まぁ、それはそれでとてつもなく可愛いからいいのだが。


 そんな風に朝から超絶可愛いスイに惚気けながら、腕の中のスイをギュッと抱き直す。


「さてと、取り敢えず今日はギルドに登録しないとな」


 そう言って、俺は徒歩でスイと一緒に数十分かけてギルドに向かった。


 ギルド登録の受付は右奥って言ってたな……あ、あそこか。


「すみませーん、ギルド登録したいんですけど、ここで大丈夫ですか?」


「ええ、ここで大丈夫ですよ。登録には金貨一枚とステータスの一部記入が必要ですが、大丈夫ですか?」


「はい」


 この世界でのお金は、価値の低い順に銅貨、銀貨、金貨、白金貨だ。それぞれ十枚で一つ上の硬貨一枚分。多少異なるが、日本円で言うところの百、千、一万、十万と言ったところだ。

 因みに、ステータスの記入は名前と性別、年齢、職業だった。能力(スキル)や称号は不必要だが、実力を示すために書く人も多いらしい。

 まぁ、俺の場合は面倒だから書かないけど……


「それではいくつか説明冒険者について説明致します。先ず、冒険者にはSからGまでのランクがあり、アルフェイルさんはGランクからのスタートになります。ランクはクエストを一定数クリアすると上がり、クエストは自分のランクから隣接する上下のランクまで受けることが可能です。アルフェイルさんの場合は、Fランクまでということになりますね」


「なるほど、分かりました。一度に受けられるクエストの数は決まってますか?」


 今の受付の話は、凡そどの異世界作品でも同じことだ。つまり、そんなことは百も承知。俺としては、そこから先が気になるところだな。


「はい。一度に受けられるクエストの数は、採取クエストなら最大三つ、討伐クエストなら最大二つとなります。ですがクエストの途中で受けていないクエストの魔物を倒した場合、討伐証明部位があれば同時進行でクリアしたことになります。その場合はクエストの受付へご報告ください」


 なるほど。それなら実質ランクが足りていなくて受けられないクエストも、序に倒して証明部位を出せばクリアになるな。これは自分の実力を測り違える初心者と、諸事情によりランク以上の実力を持つ人、その双方への配慮だな。

 流石ティフォ。今まで十五年間生きてきて、一つの文句も出ない世界だ。


 ――あ、今天界でドヤ顔した気がする。


「――っと。それじゃあ、今日からでもクエストは受けられますかね?」


「ええ、勿論大丈夫ですよ。それから、こちらが冒険者カードになります。無くした場合再発行時にもう一度同じ手続をしてデータも初期化されるので、気を付けてくださいね」


「分かりました、ありがとうございます」


「はい。良い冒険者生活を」


 ノオオオオオオッ!

 何だ今のマニュアル的な挨拶! それは無いわ! まさかの最後の最後でその挨拶来るかぁ……

 テンプレとマニュアルは違うんだよなぁ……


 と、そんなことを心の中で愚痴りながら、俺はザ・マニュアルの言葉で傷付いた心をスライムの可愛さで癒す。


「はぁ。お前はいつ見ても可愛いなぁ……」


「キュキュー?」


「んー? なんでもないぞー。よしよーし」


 はああ……こりゃ冒険者になるなんて夢がなかったら、俺はスイと一緒に一日中ゴロゴロしてた――あいや、冒険者になる夢がなければスイに会うこともなかったか。危ない危ない。


 まぁ、取り敢えず最初の依頼を受けよう。

 一人での狩りはまだ危なそうだし、最初は採取クエストでいいか?

 となると、報酬が高いのは――いや、報酬が高いのは危険な場所が多いか。安くてもいいから取り敢えず安全な……あ、これなんかよさげか?


『んー! スイならこの三つ全部分かるよー! 向こうの森にも生えてたー! 美味しーよー!』


「お、スイ分かるのか? ならこの三つを受けよう。――ていうか、草は食べちゃダメだぞ?」


『えー。美味しいのにー……』


 いやいや、いくらスイでもクエストの草を食べられちゃ困るな。まぁスライムは雑食な上に味覚もあるらしいし、いつか美味いもんでも食べさせてやるか。

 腕の中で膨れるスイをそっと宥め、俺は三つの採取クエストの紙を掲示板から剥がして受付に持って行く。


「すみません、これ三つ受けられますか?」


「はい。ハイルの花にキュア草と、コンソラ草ですね。冒険者カードの提示をお願いします」


 そうして俺は、受付でクエストの紙を差し出しギルドカードを提示する。


「――あれ。今日が初めてのクエストですか?」


「はい、そうですね。さっき登録したばっかりです」


「そうでしたか。初日で三つも受注して大丈夫ですか? クエストは失敗すると違約金が発生しますが……」


 なるほど。確かに多くの依頼を受注すると、何らかのトラブルがあった時に全てクエスト失敗となる可能性があるのか。でもまぁGランクの採取クエストだし、採取クエストは討伐クエストと違い他のものを持って帰ってきてもギルドに売れるだけでランクの向上には関係しないらしい。

 それなら、やっぱり受けておいた方が明らかにいいな。


「大丈夫です。これでも一応戦えるので」


「そうですか、分かりました。それでは採取クエスト三つを受理します。呉々も気をつけてくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 そう言って、俺は足早にギルドを出た。またあのマニュアルのような言葉を聞かされると、冒険前にテンションが下がる。


「さてと……確かどれも根っこから抜いて、五本一束を各十組で以来は達成。ざっと百五十本……ん? もしかしてこれって、意外とハードだったんじゃないか?」


 期日は十日と猶予があるが、十日間他のクエストに出られないのも困る。ある程度勝手が分かれば討伐もしたいし、強敵に挑むならパーティだって考えるべきだ。それなら、こんな初心者用クエストで躓いていられない。

 だとしたら、スイ以外の従魔――特に移動か戦闘手段になれる魔物も考えなくちゃいけないな。まだまだ俺にはやることが多い。とりあえず今日は少しでも草と花を採ろう。


 そんなことを考えながら、俺は王都の外の森に出た。


「さてと……スイ、草と花は見つかるか?」


『んっとねー! ハイルの花はお日様に当たるとこ! キュア草は水の近くで、コンソラ草はお日様当たらない木の傍にあるはず!』


「おお……主食ともなればちゃんとどんなとこに生えるのか分かってるんだな。えらい、えらいぞー!」


 いざとなれば依頼書の写真を頼りに見つけるはずだったが、生えているところが分かるなら手っ取り早い。今言われた三つを重点的に探すとするか。


 因みに、この辺りの森は強い魔物が殆ど出現しないため、採取クエストを行うには打って付けの場所らしい。他の討伐目的の冒険者も来ないし、ここに来る初心者同士が意気投合してパーティを組むこともあるんだとか。


「そんな運命的な出会いしたら、一生物の大切なパーティメンバーになるんだろうな。スイもそういうの憧れるだろー?」


『んー? スイはアルと一緒ならそれでいーなー! ウンメー的な出会いー!』


「――! スイ、この! 可愛いやつだなぁこいつー!」


 スイの可愛すぎる言葉に、俺はスイを強く抱きしめる。するとスイもまた俺の顔に自らの顔を当て、俺はひんやりとして柔らかいスイを堪能する。



「――わぁあああああああああああっ!!」



「――ッ!?」


 そんなスイとのスキンシップを楽しみながら森の中を歩いていると、突然奥から悲鳴が聞こえた。

 その悲鳴から伝わるのは、ただの驚きだけではない。虫や足場の悪さのような可愛らしいトラブルではなく、もっと命の危機を感じたような恐怖を混じえている悲鳴。この悲鳴は、悲鳴を上げた本人だけでは対処出来ない危険と接触したものだ。


「スイ、行くぞ!」


 森の奥の悲鳴を聞き、俺は迷うことなくスイを抱えたまま走り出す。

 俺の頭に過ぎっているものは、ただ一つ。




 頼むから、間に合え――!

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