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4話:冒険者を目指して(後編)〜初めてのテイム〜

 レッドボアを一薙ぎで仕留めた後、俺はそのまま鹿の群れを見つけ、その中の三匹を大剣で薙ぎ払った。


「さて、これでノルマは達成したが、どうする? 今日はもう切り上げるか?」


「いや。父さんがさっき言ったみたいに、俺は索敵が出来ない。それじゃあ冒険者なんてやっていけないし、索敵能力も努力次第で上がるかもしれない。それに、懐柔(テイム)も試してみたいんだ」


「そうか、なら俺も付き添ってやろう。戦闘面は心配しちゃいないが、奇襲を受ければ危険もあるからな」


「ん、ありがと」


 Eランクの魔物を、たった一撃で倒すことが出来た。これは紛れもない事実で、疑う余地もなく自信に繋がった。でも、索敵能力の低さは冒険者にとってこの上ない足枷だ。折角の戦闘力も戦闘前に殺されればアウトなのだから。

 それに、俺の能力(スキル)――努力結実(エフォート)(戦闘)には、重大な欠点がある。それは、戦闘と看做されないものには補正が掛からないのだ。

 ただでさえ限界がない分成長速度が遅いのに、戦闘と看做されないものは一般人レベルまでしか上がらない。そしてそのレベルに達することすらも、他の人に比べて時間が掛かるのだ。


「まさに、大器晩成……ってか」


「まぁ確かに、いくら超級とユニークだからって、その二つしかないのはな……」


 ――そう言えば、皆には神託(オラクル)のことを話していないんだったか。もしかしたら、ティフォやセバスさんなら何か知ってるだろうか……?

 まぁ、何にしても今は索敵か。


「――キュイ」


「――ッ」


 能力(スキル)に気を取られていると、またもや目の前に魔物が現れた。


「お、スライムじゃないか! どうだ、試しにテイムしてみないか?」


「これが――この世界の、実物の、スライム……」


 ――スライム。それは、俺の好きな魔物ランキング堂々の第一位だ。

 薄く透き通った綺麗な青色に、液体と個体の狭間のような滑らかなボディ。明らかに触り心地の良さそうな滑らかなフォルムに、決して害なすものとは思えない人相……いや、魔物相と言うべきか。それらがとてつもなくキュートで、作品によっては強く頼りになる魔物として描かれることもある。

 それはつまり、懐柔する側の行動次第。俺がスライムに見出している可能性のひとつは、その無限性。スライムは無限の可能性を秘めている――おれは昔から、そう信じて止まなかった。


「――テイム」


 目の前のスライムに近付き、ゆっくりと手を伸ばす。弱い魔物は警戒心が強いため、絶対に殺気や敵意を放ってはならない。

 そうして細心の注意を払い、俺は静かに、短く詠唱した。


「ピュピュー!」


 詠唱した次の瞬間、突然スライムが発光。目の前のスライムが、眩く淡い光を放った。


「うおっ、まさか――!?」


「――!? 何!」


 スライムの発光に目を瞑ると、後ろから焦ったような父さんの声が聞こえた。視覚を遮断してしまったことにより、父さんの表情が分からない。目を開こうにも、眩しすぎて到底開くことが出来ない。


「何! どうしたの!?」


「いや、違う! 焦らなくていい。危険なことじゃない」


 ――?

 危険なことじゃないのか? なら、一先ずは安心か……初めてのテイムで何かやり方を間違えたのかと、少し焦ってしまった。


「ん、んん……ど、どうしたの?」


 ゆっくりと少しずつ目を開け、俺は段々と目を慣らしていく。幸いなことに、もう発光は治まっていた。


「いや、すまんな……でもまさか、俺もこればっかりは予想外だったんだ」


「予想外?」


 父さんの発言の意味が分からず、俺は顔を顰める。

 確かに俺もテイムしてあそこまで強い光が放たれるとは思っていなかったが、それの事なのか? だとしたら、俺はテイム失敗? スライムでさえテイム出来ないなんて聞いたことないぞ……


「アル。お前、ステータスボード開いてみろ」


「――え? すてーたす、ぼーど?」


「ん?」


 父さんからの突然の言葉に、俺は目を丸くして首を傾げる。そしてそんな俺に、父もまた首を傾げた。


「すてーたすぼーど……って?」


「あ、アル。お前、もしかして……ステータスボードのこと知らないのか?」


「え、うん……」


 ステータスボードって、この世界にもその概念はあったのか……?

 ステータスボードというものの存在は知っていたが、まさかこの世界にも存在していたとは。教会では能力(スキル)は水晶で見ろって言われたし、今までそんな説明聞かされたことがなかったものだから、てっきりこの世界には無いものだと思っていた。


「まさか……通りで決まった名前じゃないものを叫ぶなとは思っていたが、まさか一度も確認したことがなかったのか」


「父さん?」


「いいか? ステータスボードってのは、個人個人のステータスを書き記したボードの事だ。ステータスボードを心の中で唱えれば、誰でも簡単に今の自分を知ることが出来る。因みに、ステータスボードは自分以外には見れない」


 お、おお……テンプレ通りの概要じゃないか。

 それがあるならもっと早く誰か教えてくれよ……




 ――ステータスボード――

【名前】

 アルフェイル・フロンティア

【種族】

 人間

【年齢】

 十五歳

【性別】

 男

【職業】

 戦士、テイマー

能力(スキル)

 努力結実(エフォート)(戦闘)>> 

 懐柔(テイム)(超級)>> 神託(オラクル)(エクストラ)>>

【称号】

 神の使徒、転生者、ユニーク、

 努力の子、戦闘好き、冒険者見習い

【従魔】

 スライム(ユニーク)>>

【戦闘技術】

 剣術>> 槍術>> 弓術>> 

 鈍器術>> 魔法>> 従魔術>>

 ――――――――――――――――――――――


 うわ……ステータスボードってこんなに長いもんだっけか……?

 目の前にズラリと並べられたステータスに、俺は眉を顰めた。どうやら『>>』のマークを押せば詳しい説明が載っているらしい。そして、俺はしっかりスライムをテイムしていた。

 しかし――、


「ユニーク……?」


 スライムの横に、括弧書きでユニークと記されている。このユニークとは、ファンタジー作品でたまにある固有種ということか?


「やはり、そのスライムはユニークだったのか……」


「そうみたいだけど……そんなに意外なことなの?」


 ユニーク。確かに、希少種や固有種と言われると、稀に存在するもののような気がする。あの発光はユニークならではのものだったのか?


「ユニークの魔物は基本値が他の個体と比べて高いが、それだけじゃない。普通、魔物はある程度進化の過程が決まっているが、ユニークはそれらが決まっていない。つまり、環境や育ち方によって良くも悪くも大きく将来が変わってくるんだ」


「――つまり、どういうこと?」


「お前がテイムしたスライムは、お前の育て方次第で無限の可能性が広がる」


 無限の可能性キターーーーー!!

 俺が無限の可能性を見出しているスライムが、無限の可能性を秘めるユニークの個体! これ以上のラッキーなんてあるのか!?


「まさか、凄いことになったな……お前の能力(スキル)といいスライムといい、やり方次第じゃSランク冒険者も全然夢じゃないぞ」


「まじ!? 俺そんなに強くなれんの!?」


「ああ。勿論アルの努力次第だが、その可能性は十分にある」


 Sランク冒険者とは、数多く存在する冒険者の中でも屈指の実力を持つ冒険者のことを指す。それは文字通り最強の称号であり、ギルドや国から数々の称号や特権が与えられる。この世界を謳歌するには余りある自由が手に入るのだ。


「――よし。そしたら今日はここで切り上げて、この後はステータスボード以外にもお前の知らないことがあるかどうかのチェックだ。そして明日、王都に行く」


「ちょっ……ちょっと待って! 何で急に急ぎ出したの!?」


「俺は今、フロンティア家から放たれる世界の栄光の兆し――その片鱗を見た。お前を早く一人前にしてやるのが俺の使命だ!」


 拳を突き上げ、父さんは村の方へと馬を走らせた。

 いつも明るく活気のある人だとは思っていたが、今の父さんから感じられたのは無邪気。自分の息子に見出した可能性に心躍らせる、無邪気な一人の父親だ。


「な、なんか慌ただしくなっちゃったけど……よろしくな!」


「ぴゅぴゅい!」


 いつの間にかおいてけぼりにされたスライムを抱え上げ、俺は走って父さんの後を追った。


 その時は少し慌てていてゆっくり堪能することが出来なかったが、腕の中にいたスライムの感触は今までに感じたことの無いほど高級感溢れる極上の質感だった。







 ――かくして、努力が実を結ぶ前に命を落としてしまった少年は、努力が必ず報われる人生で大きな一歩を踏み出した。


 これは、努力の結実が約束された少年の、ほんわかとしたまったりスローライフを描いたストーリーである。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

次回からはアルフェイルの冒険者としての人生が描かれた二章に突入します。もし宜しければ、今後も引き続きお楽しみください。

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