第97話 フラウとアーニャ①
「フラウが呼んでも来ないわ…」
それはある昼下がりの午後。
フラウ君に背中を掻いて貰おうと思って呼んだのだが、いつもはすぐに返事があるのに、今日は何回呼んでも来なかった。
なので、フラウ君の部屋を訪れた訳だ。
そっと、扉を開けて中を伺う…
「アーニャ、君は何でいつもそんなに可愛いんだい?つぶらな瞳、流れる様な毛並み、至福の肉球、どれも完璧だよ♪」
フラウ君が猫なで声で、アーニャと呼ばれる猫姿の元魔王四天王のハシュタットに話し掛けていた。
フラウ君がイケメンなのでまだ見れる光景だが、猫の中身を知っている私としては戦慄を隠しきれない…
ハシュタットも諦めの境地に達しているのか、全く抵抗せずにされるがままになっている。
…ある意味死よりも辛い拷問だわ。
彼が不憫に思えてきたので、猫耳と尻尾を外してあげようかしら?暗殺しようなんて気概はもう起こらないでしょうし。
取り敢えず魔王の所に連れて行かないとね。
「フラウ、居るかしら?」
「お、お嬢様!?申し訳ありません。何かご用でしょうか?」
「いや、それがね…。とっても言いにくいんだけど、アーニャは拾ってきた子なんだけど、どうやら飼い主が居たみたいでね。返して欲しいんだって…」
「な、何だと…。また僕とアーニャの仲を裂こうと言うのか!?絶対に連れて行かせはしない!アーニャは僕が守る!!」
アーニャに関して酷いトラウマを持っているフラウ君は、問答無用で戦闘体制に入った。
普通の思考なら飼い主と交渉するとか色々思い付きそうなものだけれど…
「なに?私と戦うつもりなの?」
「申し訳ありませんお嬢様。あの時、僕はアーニャを守れなかった…。何も出来なかった…。もうあんな絶望は味わいたくは無いんです!例え我が身が朽ち果てようとも、アーニャだけは手放したくない!!」
フラウ君がまさかそこまでの覚悟とは知らなかった…
う~ん、そうね。
ハシュタットは私の首を狙ってきた不届き者だし。フラウ君を打ち負かして助ける程の事でもない様な気がしてきたわ。
「分かったわ!飼い主の方には私から話しておくわ。でも猫は束縛し続けるとストレスで病気になったりするから、可愛がるのも程々にね」
「えっ!良いんですか?」
「………とでも言うと思ったかしら?」
「えっ?」
「さあ、フラウ!何時でもかかっていらっしゃい♪」
「えっ?えっ!?」
「アーニャを守るのではなくて?それとも連れて行って構わないのかしら?」
「_期待させて絶望に堕とすなんて、まさしく悪魔ですね。ですが、こちらももう引き下がれません。アーニャ!僕に力を貸してくれ!!はああああああああ!!!」
強くなったフラウ君とサシで戦うチャンスなのだ!逃す手はないだろう。
「此処じゃ戦えないわね。中庭に移動しましょう!」
「…ふん!何処でやろうが同じことだ」
イラッ!
頭にきた私は、美男肉体接触術でフラウ君の動きを止める。
「ぐっ!こ、これは!?お嬢様が?」
「少しは楽しませてね♪」
フラウ君の鳩尾に蹴りを食らわせて、部屋の窓から外へ吹っ飛ばした。
「くっ、くそ!また、また前と同じなのか!?絶対に負けられないんだ!!」
フラウ君は確かに強くなったみたいだ。蹴りのダメージは殆ど無い様に見える。
「アーニャも可哀想ね、こんな弱い飼い主じゃ誰からも守れないじゃない!」
「うう、う…!うわあああああ!!!」
私が軽く煽ると、フラウ君は頭を抱えた後に急に叫んだ!
フラウ君の体が何故か光に包まれた。
光が収まった後に現れたのは、イケメン度が2割増しになったフラウ君。
「これが超覚醒か……。もう誰にも負ける気がしないな!お嬢様…いや、掛かってこい、小娘!!」




