逃亡中
――― 西村桃子 SIDE ―――
「………まずいですねぇ」
私は玉座に座り水晶で戦局を見ながら、嫌な予感を止められずにいた。
「さすがに半分以上の組に手を組まれると………勝ち目は薄いですねぇ」
唯一勝機を見出せるとすれば、早めにC組と同盟を組んでこちらの防備を固めることだけど………
「C組領地があの様子では、無理でしょうね」
C組が割り当てられた領地は、外れのウチの1つだ。自軍領地がモンスターだらけで、どこかに攻め込もうにも攻め込めない。
それに………
「C組以外がみ〜んな同盟組んだって!」「何それせこ!!」「てかありだったのか同盟!!」「…………(*A*)/オーワタオワタ、ケラケラケラ」「そこ!! 隅っこに座って変な歌を歌わない!!」
大広間から生徒たちの声が漏れ聞こえる。
5つあるクラスの内、3つが同盟を組んだ。 この事実に、城内の生徒たちはパニックになっていた。
すぐにでも大広間に行って生徒たちに何か言いたいけど、生徒へのアドバイスは、この戦いでは原則禁止されている。
「………生徒たちに干渉できないのですから、しょうがないですねぇ」
唯一できる干渉が、この水晶。これを使い、生徒たちがもし『命の危険にさらされていた
ら』、城に強制的に戻すことができる、というだけの能力だけだった。
黒部くんたちに使ったのがこれだが、今唯一城外に出ている魔―くんたちを呼び戻すには、凶悪なモンスターに襲われているというわけでもないので、使えなかった。
「………………詰み、かもしれませんね」
苦虫を噛み潰していることしか、私にはできなかった。
***
「マズイね………」
「すっごくマズイね………」
「どーしようもなくマズイね」
「そこの文芸部3人娘、マズイマズイ言う前に何か対策考えろ」
俺たちは森からA組陣地の荒野に入る直前の場所で、茂みに身を隠してそんなことを言い合っていた。
「「「逃げればいいと思いまーす!!」」」
「……いや、それはちょっと逃げ腰すぎるような」
かしましガールズどもの意見に、委員長がため息をついた。
「……けど、正直それしかなくない?」
今井が前方を見ながら冷や汗を流した。
その見据える先には、今はまだ豆粒のようになっていて見えにくいが。
生徒たちの黒い影が、相当数見えていた。
「いくらなんでも戦力に差がありすぎでしょ?」
「いや、実力差を知力で埋めてこそ高校生だろ!!」
「………隊長、意味不明っスよその言葉」
洋太や龍二がわいわい意見を出すも、まとまらない。
「……………どうする?」
顎に手を当てて、八巻が俺に聞いてきた。
「どーもこーもねーだろ」
俺は遠くに見える生徒たちの影を見据え、その後くるっと後ろを向いた。
「逃げるべし」
「………やっぱそれしかないのね」
八巻は哀愁漂う声を出した。
***
――― とあるD組生徒たちの会話(記録者、D組書記の生徒) ―――
【男子生徒A】「フォルセティア様! 前方2km先に敵軍と見られる生徒およそ10名を発見いたしました!」
【エル】「………城に逃げ込まれたら面倒です! 追撃班! あらゆる手を使って足止めをなさい! 城に逃げ込まれなければ、生死など問いませんわ!」
【男子生徒A】「御意!」
ザッ!!(忍者っぽく数名の生徒たちが消える音)
【女子生徒A】「………………生死を問わないって、いいのかなー?」
【女子生徒B】「いいんじゃない? 相手はあのB組だし」
【女子生徒A】「………ま、そっか」
【エル】「そこ! 無駄口たたかない! きびきび走りますわよ!」
【女子生徒A&B】「「は〜い」」
***
森の中を走る10名の団体と、それを追う5名程度の影。
「委員長! 敵との距離は?」
「およそ500! どんどん詰められてる!」
「………ねぇマッキー。私たち無事に城に戻れるかしら?」
「………無理じゃない?」
「ええい! きりきり走れお前ら!!」
「「「無理〜!!!」」」
主にかしまし娘たちの鈍足に足を引っ張られながら、俺たちはひたすら森を逆走していた。
「ちっ、しょうがない。かしまし娘は置いて行こう!」
「「「ええ―――!! 鬼―――!!」」」
「だったらきびきび走れ!!」
時折はっぱをかけながらも、昨日の倍以上のスピードで疾走する。
………が。
いかんせん、なぜか追っ手のスピードが速すぎる。
これでは逃げ切れない。
(………こりゃもうダメか?)
てなわけで半分以上、あきらめモードになってきてる俺だった。
……更新遅れてすみません。
今、ちょうど『霊の心』の最終話を書いてるのですが、それがまぁいろいろ長くなってしまい、大変でして。
パニカルはもう少し続きますよー!