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パニカル!  作者: タナカ
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第一戦目



 目を開け、最初に目に入ったのは聖母マリアの像だった。

 優しげな瞳で子供を抱えているそのマリア像。それを中心として広々とした円形の床が広がっていた。

 その床には巨大な星型の魔方陣が描かれており、荘厳な様子がかもし出されていた。

 そして見上げると周囲には巨大な円柱が何本も立ち並び、円形のアーチの形をした壁で囲まれていた。


 一言で言おう。

 大聖堂みたいだった。


『えええええええええ!』


 先ほどまでの体育館だった場所がいきなりさま変わりしたことで、B組どころかA,E組の生徒たちまでもが目を丸くする。


「中世魔法時代の遺産、魔法使いたちの公式な試合の場を模した場所ですよ」


 呪文を使って疲れたのか、ぷはぁ〜! と大きな息をはきながら桃ちゃんが言った。


「光の魔法をベースにした空間改変の魔法を使いました。ここは先ほどまでいた体育館であり、かつそう言えない空間でもあります。もともとあった空間をベースにし、さらに中世時代の遺跡に残っていた魔法遺伝子を参考にして……」


 とうとうと説明をする桃ちゃん。

 しかしその様子を気にした様子も無く、生徒たちはすっげー! と辺りを散策した。


「あ、ちなみに……」

「おわっと!!」


 桃ちゃんが何かを言おうとする前に、生徒の一人が驚いた声を出した。


「床がねええええ!」

「この床は半径50mほどしかありません。それ以降は崖になってて、落ちたら痛いですから気をつけましょうね〜」

『………』


 ………いや、痛いって。それじゃすまんでしょう?

 みな、絶句していた。

 真っ暗で底の見えない崖を見ながら、万が一落ちたときのことを考えているのだろう。


「ここが試合場となります。試合をする人以外はあそこの橋を渡って、円柱が立っている場所にある、観客席から見ることになります」


 じゃあ移動しますよ〜! と小学生の遠足のようなノリで、桃ちゃんはA、B、E組の生徒たちを観客席へ誘導し始めた。


「ねぇ?」


 一瞬俺が呼ばれたのかと思って振りかえったが、呼ばれたのは俺ではなくて近くにいた八巻枝理だった。


「ん? 何、千恵」


 呼び止めたのはE組の真面目な苦労人、飯田千恵だ。

 友人の今井麻衣つながりか、単に気が合うのかは知らないが、二人は仲が良かった。


「麻衣ちゃんが見当たらないんだけど?」

「んー………」


 八巻が言いにくそうに頬をかく。


「どうしたの? ………もしかして」


 飯田はなぜかこちらをちらりと見て、八巻に耳打ちした。


「あー、大丈夫。そうじゃないから………たぶん」

「たぶんって………ということは可能性はあるの? 最近一緒にいたし」

「どうかな。本人は『知らん』って言ってたけど………」


 そう言いながら今度は八巻が俺のほうをちら見する。

 ………………なんだなんだ?

 2人の視線が気持ち悪くなった俺は、無視することに決めた。



 橋を渡りきると、生徒たちは3方向に分かれた。

 そして中心に位置する円形の床から見て、B組の連中は右手に、A組の連中は真反対の左手、そしてE組の連中は試合で怪我した人を介護しやすいように正面に位置する橋のすぐ傍に陣取った。


「さて………」


 観客席に移動を完了すると、桃ちゃんはB組生徒たちに厳かに言った。


「これから試合に出る人を決めたいと思います!」

『決めてなかったんですか!?』


 生徒たちが同時につっこみを入れる。

 だが俺は、桃ちゃんのその行動に妙に納得していた。

 さすが桃ちゃん。変なところで行き当たりばったりだ。

 ………何かデジャヴを覚えたが、たぶん気のせいだ。 


「あ、1人は決めてますよ〜! この場にはいませんけど」


 今井のことだな。本気で模擬戦に出すつもりか。


「ですので後2人。立候補があればどうぞ〜!」


 しかしその場にいる生徒全員が、しーんとして誰も手を挙げようとしない。

 挙げにくいだろうし、負けたら結構責任重大だしな。


「………では、僕が」

「お、さすが委員長ですね〜!」


 順当に、真面目な坊主委員長が手をあげた。


「それでは、1戦目は委員長にします。この模擬戦を占う重要な1戦ですから、頑張ってくださいね」

「は、はい!」


 目がねと同時に汗まで光らせながら、威勢良く声をあげる委員長。

 がんばれ〜。


「では、これをどうぞ」


 桃ちゃんはポケットから飴を取り出した。


「………? なんですか、これ」

「飴です。甘いものは緊張をほぐすのにいいんですよ?」

「いや、そうじゃなくて! いりませんって!」


 つっこみスキルを発動させて全力でつっこむ委員長。


「まあまあ、そういわずに!」

「だからいら……もごぉ!」


 桃ちゃんは嫌がる委員長に無理やり飴を口に入れた。

 ………何がしたいのかさっぱり分からん。

 一度口に入れた飴を吐き出すわけにもいかず、委員長はもごもごと口を動かし、すぐにガリガリと飴を砕いて飲み込んだ。


「うう……甘いもの苦手なのに」

「さあさあ! 準備ができましたら試合場にレッツゴー!」 


 桃ちゃんに背中を押されて、委員長はしぶしぶと試合場に向かった。


「………最初からグダグダだな」


 誰かがそう呟いた。







***







 試合場には、豆粒ぐらいの大きさに見える委員長と、A組の代表らしき小柄な少女がいた。

 その中心、マリア像が位置するすぐ傍で、森元教師が声を張り上げた。


「これからA組対B組の! 模擬戦を開始する!」


 スーツ姿のフォーマルな格好をしていたが、A組担任ではなくただの審判みたいに見えた。


「ルールは簡単だ! 気絶、ギブアップ、または崖から落ちれば負けだ! 20分以上長引けばE組の佐島先生による判定で勝敗が決まる!」


 ………崖から落ちたらどうなるんだろうな?


「なお、崖から落ちても死にはしないので、安心するように!」


 ………ほんまかいな。


「どちらか勝った組が負けた組を1度だけ好きにできる! そういう条件でいいですね!」


 気づかない内にそんな条件になっていたらしい。


「いいですよ〜!」


 観客席からのほほんとした声を出す桃ちゃん(B組担任)


「それでは! 第一戦を始める! まずはA組代表! 宮内林檎!」

「はぁい!」


 桃ちゃんばりの高くてかわいらしい声があがる。


『おおおお――!』


 若干ロリコンが入っているB組生徒の何人かが、周りの白い目も気にせずに歓声をあげる。

 髪型はポニーテールだ。小さな体躯には少々大きな剣を両手で持っている。

 庇護欲を誘うような、無邪気で一生懸命そうな顔をしているように見えるが………なんだろう。

 なんか不自然に見えるのは。 


「B組代表! くず………」

『だあああああああああああ!!!!』


 思わず俺までが声をあげ驚くほどの声量で、B組生徒たちが一丸となり森元教師の声を遮る。


「そ……そんなぁ……………」


 ただ1人、委員長だけが戦う前から絶望でその場に崩れ落ちる。


「な、なんだ………?」


 森元教師が当惑した声をあげるが、俺たち全員には、これがどういうことを意味するのかわかっていた。

 委員長は名前を明かしてはいけない。

 これは委員長という役職ができた時からの(ことわり)なのだ。


『いいから、さっさと進めちゃってください!』

「…………あ、ああ」


 俺たちの気迫にたじろぎながら、森元教師は続きを始める。


「互いに礼!」


 と、委員長は几帳面に45度の、宮内は恥ずかしがりながら5度ぐらいの簡単な礼をした。


「では!」


 委員長と宮内が自分の宝剣を構える。2人とも西洋刀の形をした宝剣だった。


「はじめぇ!!」


 掛け声と同時に、2人は地面を蹴った。







***







「さあ! いよいよ始まりました! 両組の名誉とプライドを賭けた模擬戦!」


 どこからかマイクのアナウンスが聞こえる。………って。


「実況は私! 上野洋太が務めさせて頂きます!」


 なにやってんだアイツは。


「いやいや、何やってんですのん、洋太さん。ってなわけでつっこみは私、沢木龍二がお送りいたします!」


 つっこみってなんだ?


「……んで、真面目な解説は私、空手部所属、黒部がお送りいたします」


 あ、いつもどっかからつぶやいてるつっこみの声だ。

 へー、コイツだったのか。


「さて、さっそくですが解説の黒部さん! ぶっちゃけてこの戦い、委員長は勝てるのでしょうか!?」

「2:8で負けるでしょうね。あ、剣がはじかれた」

「ああああ! 宝剣取られた! 頑張れ委員長――!」












 



はたして委員長は大丈夫なのか!?

次回に続く!

………すみません。またしても書ききれませんでした。

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