できないものはできない
寒い風が吹きぬける、薄暗い地下の森の中で。
「えー自分の魔力を高める、魔力を………」
ヴェリクという桃ちゃんが俺たちにかけた他者の魔力を操る呪文。
中居はそれを強めるために、俺の言ったことをぶつぶつ繰り返し呟きながら、むーむー唸っていた。
「できるかー!」
「わかるかー!」
「無理っスー!」
中居がサジを投げると同時に、洋太と龍二の残り2人もウガー! と叫び出した。
……ま、1発で理解しろってのが無理か。
「しょうがない………」
手本でも見せるか。
「………ふぅ」
俺は深呼吸をすると、目を閉じ、いったん外部からの全ての情報をシャットダウンする。
キイイイイイイ………
耳鳴りのような微かな音と共に、胸の奥から魔力があふれ出てくるのがわかった。
「………………よし」
しばらくすると、俺は高密度の魔力を維持したまま、眼を開けた。
「こんな感じだ」
「「「………………?」」」
何がどうなっているのかわからないらしい。
……と、その時だった。
「………こうか?」
声がしたので振りかえると、沼田がいい感じに魔力を集中させていた。
「お、そう。それだそれ。ナイスだ沼田」
まだ少し足りない感じはするが、それでも沼田は意図的に自分の魔力を高めることに成功していた。
沼田は魔力総量や回復力はイマイチだが、意外とセンスはあるのかもしれない。
「それでどうだ? いい感じに寒さは取れたか?」
「……少しだけ」
よしよし。それでいい。
ヴェリクが弱まっているという仮説は、どうやら正しかったみたいだ。
俺は沼田を通して仮説の正しさを立証すると、ほっと息をついた。
ぶっちゃけ魔力を集中させようが何しようが、呪文が使えん俺にはよくわからんからな。
桃ちゃんのヴェリク、俺にはかかってないし。
いや、かけても意味がない、という方が正解か。
ヴェリクは他者の魔力を利用する魔法だが、俺には魔力はあっても魔法は使えないという厄介な縛りがある。
つまり例えヴェリクにかかっていても、ヴェリクで俺の魔力を使い魔法を使う……ということは不可能なのだ。
………ん? だったら最初から寒くなかったのかって?
まぁ多少は寒いが……ぶっちゃけ慣れた。
寒いって言っても北極とかアラスカとかそこら辺レベルじゃないからな。せいぜい冬の北海道ってレベルだから、慣れればどうにかなる。
心頭滅却すれば火もまた涼し。暑さ寒さなんて気の持ちようで意外とどうにでもなる。
それと。
「コイツは魔法の強弱をつけるのに役立つから、覚えとくと便利だぞ」
これを自在に操ることができれば、例えば巨大な魔法を使いたかったら全身の魔力を高め、小さい魔法を使いたければ全身の魔力をなるべく抑える、というようなことが可能だからだ。
一流の魔法使いの必須スキルで、例えば桃ちゃんなんかは無意識にでもこれができる。
「なぜ沼田にできて俺にできない―――!!」
うあー! とガンガン近くの木を蹴りながら叫ぶ洋太。
「鍛錬が足りないんだろ」
まだ習いはじめて1ヶ月程度しか経ってないお前らじゃな。
「けどもしかして、できなきゃ、ずーっと寒いまま?」
「そうだな」
「うあーん!」
とひたすら嘆く中居。
「………………ガンバレ」
「無茶言わないで―――!」
いーやー! と悲鳴をあげたその直後………
ガサッ………
「………!!」
突然、茂みの奥で何か気配がした。
***
「………あれ?」
「あ………?」
茂みから出てきた人物に、俺たちは呆気に取られていた。
「こんなところで何やってるの?」
「………それはこっちのセリフだ」
そいつは地下ではなく、地上にいるはずの男。
眼がねをかけた坊主姿の………
「委員長―――――!!!」
洋太の絶叫が森の中に響いた。
委員長、地味キャラのくせに最近なんだか大活躍。