水浴び
「魔力を分散させてどうする、この阿呆」
真っ暗な森の中で、俺は洋太を足蹴にしながら言った。
「火がでかけりゃいいってもんじゃねーんだぞ?」
重要なのは魔力の練り。
そして炎自体の規模よりは、マグマ並の強力な火力が必要なんだよ、馬鹿。
「ん、んなこと言ってもよ〜……」
地べたとキスしながら、意気も絶え絶えにぶーたれる洋太。
「やり方なんてわかんねーよ〜」
「カンだ。カンで乗り切れ!」
「無茶言うな!!」
無茶も何も、それしか方法がないんだからしょうがないだろう?
このままだと俺ら風邪ひくんだぞ?
「あ〜ん! お風呂入りたいよ〜!」
びーびー泣き始める中居。
「2人とも無茶言うなー!!」
洋太の悲痛な叫びは続く。
***
――― 今井麻衣SIDE ―――
ちゃぱちゃぱ、ぱしゃっ!
「「きゃはははは!」」
ちょうど近くに湖があったので、私とマッキー、それにメイリオ(文芸部の子たちね)は、水浴びに来ていた。
「メイリオ〜! あんまり遠くまで遊びに言っちゃだめだよ〜!」
「「は〜い!」」
雲1つない、綺麗な夜空の中で、メイリオが浅い湖を裸で走りまわっている。
「あはは! けどいい気持ちだね〜!」
「そうね……」
そう呟きながら、隣で温泉に入っているみたいに、裸で湖につかってくつろいでいるマッキーだった。
ちなみに私も裸。男がいないからこそできることだよね、これって。
「少し冷たいんじゃないかって心配してたけど、水温はちょうどいいみたいね」
「うん!」
マッキーの言葉に、私はめいっぱい頷いた。
木々ばかりだった森だが、偶然にも私たちは開けた湖畔を見つけていた。
半径100mほどの大きなその湖は、周りだけなぜか木々が少なく、遠くには天高くそびえたつ天空の塔(恐らくA組の本拠地)がぼんやりと見えた。
マッキーは水をすくいとる。
「水も綺麗だし……良いところ見つけたわ」
「ほんと!」
私は嬉しくなるのを抑えきれなかった。
こんなところでも身体を洗えた、それだけが原因ではない。
こんな綺麗な湖で水浴びなんて、滅多にできない体験ができてるからだ。
………ところで。
「にしてもマッキー……いいおっぱいだね〜!」
「は?」
不可解そうな顔をしているマッキーだったが、今はほっとく。
マッキーの胸は、世間的に見れば少し大きめだろうか。普段は服越しでよくわからないが、裸になった今! 張りのある綺麗な形をしているのがわかった。
さらに! マッキーは今メガネを外し、髪まで降ろしているのだ。
いつものポニーテールもかわいいが、少し濡れたストレートロングの黒髪や、メガネなしの綺麗な形の目を見ると、もうほんと綺麗!
どっかのユリユリな女の子に「お姉さま〜!」とか呼ばれそうな感じだった。
「普段からもっとおしゃれすればいいのに。そうすれば男がほっとかないよ?」
そう、マッキーはいつもは髪を適当に束ねるだけでぼさぼさ、メガネも黒ぶちでダサいし、化粧だって「校則違反だ」とか言ってリップクリームすらしないのだ。
なんだこの子は! もったいなさすぎる!
「いいわよ別に。男なんかにもてたいとも思わないしね」
「なんですと!? ていうことはマッキー! まさかソッチの趣味が……!」
「ないわよ!!」
はっはっは、マッキー顔真っ赤!
楽しー!
「ていうか私なんかより、あなたの方が十二分にかわいいでしょうが」
「あー………私はなぁ………」
自分で言うのもなんだが、母親ゆずりの顔形は結構整っている方だと思う。
………だけど。
「……………」
自分の、起伏に乏しい胸を見て、私は知らず知らずに気が落ちてくるのを止められなかった。
そんな私の様子になんとなく気づいたのか、マッキーは気遣うように言った。
「…………気にすることないと思うわよ? 世の中にはソレがいい、って人もいるみたいだし………」
「そんな嗜好の人にモテたかないわ!!」
うあー! 私の成長期カムバーック!!
「そ、それよりさ……」
変な空気になったのを悟って、マッキーは話題を変えた。
「本当に静かね、この湖。本当は変な魚系のモンスターや、水を飲みに来るモンスターがいないか心配だったんだけど………」
「そういえばいないね。なんでだろ?」
湖をぱっと見まわしてみても、モンスターらしき影はなかった。
「さあ………? 何かモンスターを寄せつけないものでもあるんじゃないかしら?」
それが何かわからないけどね、と言いながら、ちゃぷっと頭を水につけるマッキー。
その時。
「あー遊んだ遊んだ!」
「楽しかった〜!」
びしょびしょになったメイリオが満足そうな顔で来ると、私たちの傍に座った。
「これでりりちゃんが一緒だったらな〜……」
私の隣で、芽衣ちゃんがもう1人の文芸部員、中居りりかのことを思って、あーあ、と空を仰ぎ見た。
「しょうがないよ。穴に落ちちゃったんでしょ? 委員長はりりちゃん無事だって言ってたし、大丈夫だよきっと」
理緒ちゃんが芽衣ちゃんを慰める。
「………魔ーたちがりりちゃんを襲ってなかったらね」
私は結構マジで危なげなことを、私は呟いた。
だって、今りりちゃん男4人に女1人の状況でしょ?
言ってもどうしようもないけど………普通に危ないのではないだろうか?
「それも大丈夫でしょ」
「へ?」
私の危惧を、マッキーはこともなげに否定した。
「なんで?」
「あの男どもに女を襲える気概があるとも思えないし、それに………」
マッキーは半眼で私を見据えた。
「あの集団には魔ーがいるのよ?」
「………あー」
よくわからないが、納得してしまった。
なーんか魔ーって、そういう色気た雰囲気とは1番無縁の存在に見えるんだよね、なぜか。
「じゃ、後の問題は、委員長が覗きに来るか来ないか〜!」
「あっ、それありそう! あーいう真面目なタイプが実は1番スケベだったりするんだよね〜」
………うぉ〜い。そこ。笑って言うことか、それは。
メイリオは危機感皆無の笑顔、というよりむしろ来た方が面白い、みたいな楽しそうな顔だった。
「それも大丈夫よ」
私たちのテンションとは逆に、マッキーは涼しい顔だった。
「あの手のタイプは人から1時間って言われたらきっちり1時間作業をするだろうから。だから委員長が戻ってくる10分ほど前に入浴を終えれば、十分でしょ?」
………全て計算づくらしい。
マッキー……恐ろしい子!!
「じゃま、存分に羽を伸ばしましょうか!」
「そうね〜!」
イエー! と騒ぎながら、私たちのお風呂タイムは続く。
お色気シーン!! イヤッハー!!!
………すんません、ちょっとはしゃぎすぎました。